六話 義足女子勧誘中~土晴、ステキな組織作りを語る~
「義足変えたばかりらしくて、慣れるまで少し時間掛かるから入らないらしいよ」
「歩行訓練は確かに大切だからな……確かになんて話しかけるか悩ましいな」
話しかけるのは決定事項なんだね、と諦めたような目で見る潮。
「そうだな『素敵なデザインの義足ですね、よく見せて下さい』とかどうだろう」
「何でその発言に問題ないと思ったの!? 一歩間違えるとセクハラだし! それ、下手すると警察呼ばれるやつ!」
全力で友を止めにかかる潮に、土晴は衝撃を受けたような顔で「えっ」と漏らす。
怖い、幼馴染が天然炸裂しすぎて怖い。
「そ、そうか……難しいな」
「そもそも勧誘するつもりだったんじゃないの? まさかの足目当て……?」
「勧誘文句だな! ええと、『とてもカッコイイ足なので、良かったら防災部で活躍しませんか!』とかどうだ!?」
「なんでさっきより馬鹿っぽい台詞なの!? というかなんでそうデリケートな部分にダイレクトに踏み込もうとしてるの! 馬鹿だろ!?」
最早勧誘以前にデリカシーが蒸発している土晴に、繊細な潮は食って掛かる。
「もうちょっと頭良い感じか……よしっ俺は決めたぞ潮……!」
「余計な覚悟決めるのやめて……!?」
「あの! すみませんちょっと良いですか!?」
土晴がそう話しかけると、義足少女、亥山秋乃を取り囲む三人の女子が、一斉に剣呑な目を向けてきた。慌てて土晴を追おうとしていた潮は、ベランダから教室に入る際に窓のサッシに額を打ち付け悶絶していた。
「亥山さん! あの、実は、入学式の日に見かけてからずっと気になってたんですけど……っ」
あれ、勧誘じゃなくて告白なの? というなんとも微妙な空気が教室に流れる。
「その足……もしかしてYAMASATOデザインですか!? すげぇカッコイイです! あ、ついでに良かったら防災部入って下さい!」
勢いだけで言い放ったツッコミどころ満載の土晴の発言に、A組はしん、と静まり返った。
沈黙を破ったのは、真っ青になって駆け寄ってきた付き合いの長い潮だ。
「はるくんの大馬鹿! 質問するか、勧誘するかどっちかにしなよ……! しかも多分YAMASATOじゃなくて基山デザインだよ!」
「えっそうなの……!? 新進気鋭のほう……!?」
潮に羽交い締めにされながら土晴がバッと亥山秋乃に目を向けると、少女は一瞬ビクッと肩を震わせたが、表情の乏しい顔でこっくり頷いた。
「ええ……伊勢くんの方が正解」
「マジか! すごくカッコイイと思います!」
「そう……ありがとう」
何故か素っ気なく礼を言うと、亥山秋乃はぷいっとそっぽを向いた。潮は二人と取り巻き三人、一斉に集まったA組の目に、内心狼狽しまくりだ。
「そうか、確か何年か前にYAMAMOTOから独立したんだっけ。特徴的なデザインだったから間違いないと思ってたわ」
何故か悔しそうな様子を見せる、完全に空気読めてない土晴と、よくわからない展開と流れ。出鼻を挫かれた取り巻き三人も、どうしたものかと二人を見比べる。
秋乃は一つ咳払いをすると、再び土晴の方に向き直った。
「ええと……なんだったかしら、防災部? ……悪いけど私部活に入る気ないの」
想定内の反応だったので、土晴は落胆すること無く素直に疑問を口にした。
「義足変えたので慣れるまで歩行訓練が必要っていう事情でしたよね……やっぱり変えると新しいのに慣れるまで体重移動が難しいんですか」
「……ええ、まぁそんなところよ。前の義足長かったから……あと今更だけど同級生だし、敬語使わなくていいのよ」
一瞬言い淀んだ後、秋乃は少し早口で話し終えた。
「そうなんですか……あ、すみません。下腿か大腿かで歩行獲得率がかなり違うっていう話は聞くけど……変えるだけでも大変なのか……それはそうか」
亥山秋乃は大腿から義足なので、膝関節はない。この有無はかなり重要なもので、膝関節が動くか、膝に体重を掛けられるかというのは、歩行技術習得の難易度を大きく左右してしまうほどだという。
「……やけに義足に詳しいようだけど、身内の方にいるの?」
土晴の身内にはいないが、周囲には結構いる。ただその人達から聞くのは、義肢あるあるや周囲の目に関することがほとんどで、リハビリについては触り程度しか聞いたことが無い。義肢そのものに詳しいのはもっと別の理由である。
「身内にはいないけど斜向かいの家に三人いる……義手が一人と義足が二人で……まぁ、普通とはかけ離れているので、あんまり参考にならない気もするけど」
義肢関係なく、普通の人達とは全くかけ離れた生き様のせいであるが、大っぴらに言いふらすと土晴は物理的に消されてしまう可能性がある。今は真っ当な組織なのだが、皆、そうそう性質は変わらない。
「三人もいるの? 参考にならないって、どうして?」
目を見張って聞き返してきた秋乃に、どこをぼかして言うべきか少し考え、慎重に言葉を選びながら話すことにした。
「……内一人は、戦争の時に足を無くした人で、ついでに片目義眼なんだけど……いわゆる剣豪ってやつでさ。荒事に滅法強くて、武勇伝に事欠かない人だし……」
「片目義眼で義足の剣豪……」
なんでか周囲の皆が黙り、憧憬の念を抱いているかのような顔をしている。
何も知らない人が肩書だけを聞いただけなので、その気持ちはわかる。他の二人は稀代の賭博師や天才拷問師など、あまり詳しく説明したくない人なので、剣豪の話だけで回避しようと目論む。いや、現役は引退してるし、今は組織自体方向転換して、皆足洗ってるんだけどね。地元では慕われている組織ですよ!
「……昔、カラーギャングとか流行った時代に、夜の公園でオヤジ狩りに遭ったそうなんだけど……30対1とかで返り討ちにしたとか言ってたな」
おおっという感嘆が周囲から上がるが、チラリと見上げてみると、地元住民代表、潮は真っ青になっている。
ちなみに後日お礼参りをしようとしたその集団は、よりにもよって義足の剣豪がボスの護衛をしている時に襲撃を試みた。当然彼らは、たまたま幹部だらけで花見中だったオヤジ五人組が何者かなど知らなかった。
全員修羅場をくぐり抜けてきた猛者達だが、内三人は戦時中同じ部隊に所属しており、並々ならぬ死線を共に越えてきたのである。
報せを受けて飛んできた組員が見たものは、見晴らしの良い丘の上で積み重なる屍の山と、のんびりと茶をする幹部たちであった。
お礼参りのためにほぼ全員が召集されていたカラーギャングは壊滅し、警察が到着する頃には組員たちは姿を消していた。
ついでにボスが「最近はああいう躾がなってねぇ奴らがいるんだねぇ」と、帰りの車の中で一言呟いた。他の幹部も「子どものヤンチャは大人が叱ってやらないといけませんね」と追従し、方針が決まった。
そして、その夜のうちに他の類似組織も綺麗さっぱり、街から消えてしまった。
「――具体的には、何をしたの?」
小学生の土晴は無邪気に聞き、『オヤジさん』も笑顔で答えた。
「切った張ったの時代じゃないからね。平和的にお話したら、やめてくれたよ」
えーつまんない、と、武勇伝を期待していた土晴はがっかりしたが、オヤジさんの隣で話を聞いていたワカさんは苦笑していた。
「ウチの『平和的なお話』はとっても怖いんだよ……」
最近になって詳細を聞いた土晴は、話の内容が怖すぎて意味がわからず、何度も聞き返したほど恐ろしい武勇伝だった。思い出しては背筋が凍る。
「ドラマに出てきそうな人なのね」
「ああ、普段から着物で歩いてるし、時代劇みたいですごいぞ。昔は義足の鬼神とか、鬼の山路とか呼ばれてたみたい」
――今でも呼ばれているけど。それは伏せておく。
(義足の鬼人……)
(キャラ濃すぎる! 格ゲーに出てきそう!)
(ラノベ……? いや、時代劇……?)
A組の人たちの表情を見ると、何を考えているかはなんとなく想像がついた。
――この夢は、夢のままにしておこう。うん、それが平和的解決だ。真実など、時に役に立たないものだ。
そんな取り留めのない事を考えていた土晴は、唐突にハッと我に返った。さっきから義足の鬼の話しかしていないではないか。
「――そんなわけで、是非とも防災部に来て下さい!」
完全に脈絡なく突っ込んでいった土晴に、一度は断った秋乃もやや困惑した表情を浮かべていた。
「一応聞くけど、それは、人数合わせのためではないの?」
秋乃は部活創部のために必要な人数合わせのため、という言葉を含ませていたが、そんな気は毛頭なかった土晴は首を傾げた。ついでに、いつもは察しの良い方だというのに、ここにきてド天然を発揮する。
「……人数合わせなんて贅沢できるほど、人的余裕はありませんが……メリットもないし」
「え? えーと……そうか、そうじゃなくてね」
物凄く噛み合っていない二人を前に、衆人環視で恐ろしく緊張した潮が口を開こうとしては、口を閉じる。
このままではダメだ、なんとかしないと。
「は、はるくん!」
「どーした潮? なんか変なこと言ったか俺」
「は、はるくんが変なのは、い、いつものことだけど……」
「えっ……!?」
そういう潮はいつもさらりと衝撃の発言をする。えー変じゃないし、俺。いたってフツー。
「さ、さっき、話してた、理由……」
「ああ……あれか! ところでそろそろ離してくれませんかね潮さん」
羽交い締め状態がそろそろ苦しくなってきた土晴が指摘すると、潮は慌てて解放した。土晴はそのままその場で正座をし、まっすぐに秋乃を見る。
(なんで正座……)
(自主的に罪人座りかしら……)
地味に周囲がざわついたのだが、土晴は全く気づかず話を続ける。
「……まず、防災を考えるにあたって、最初にしなければならないことは、健全な組織づくりをすることだと俺は思う。一人でできることはたかが知れてるし、一人で出来てしまったらそれはそれで弊害が有る」
「……一人でできることの弊害?」
秋乃は納得のいかない顔で聞き返した。土晴は内心「引っ掛かるとこそこかぁ」と思いつつ静かに頷いた。
「なまじ出来てしまうと、それが精一杯の結果でも偶然の結果でも、次からそれが『当たり前』に出来ると勘定されてしまうことが多いから」
そんなことはないのだ、決して。不器用な土晴は同じことを連続で成功させることの困難を知っているし、失敗を重ねて焦りが募る気持ちは、きっと挫折した人間にしかわからない。「この前は出来ていただろう」と言われることは、恐怖の瞬間であると土晴は経験として知っている。
それとは別に、なんでも出来る人間も知っている。器用で、学習能力が高くて、なんでもすぐに習得してしまう人間だ。
そういう人は、自然と他の人に頼られる。しかし意外と人に頼むことが苦手だったり、何かあった時に周りが狼狽してしまったり、結局助けてもらえないことも多い。
「一人でやるとどうしても負担が大きいし、リスクも高い。そして本人も周囲も、不測の事態に備えていないから、一人が倒れただけで簡単に瓦解する。そんなのは、組織として健全とは言えないだろ」
この点については防災に限らず、どこの組織でも内在する問題でもある。一人に一つの仕事を集約すると、その人間はその仕事をより深く理解できる。そういった面ではメリットが有ると言えるが、前述のようなリスクも高い。
「役割に向き不向きはあるだろうけど、ちゃんと交代要員はいないとマズイんだよ。理想論でもなんでも、「休み」がないと人間は心身共に病むからな」
これは絵に描いた餅のような理想論かもしれないが、極限な状況でなかなか理想は語れない。無いものは無い、調達も難しいという状況ではどうにもならない。
だからこそ、平時から有事に備えて、あらゆる想定をして動いておくことが大切なのだと、土晴は考える。
「まぁそれは、組織全体の話だから置いとこう。俺が亥山さんに入ってもらいたいのは……女性目線の意見が欲しいからだ」
「それは、あなたや伊勢くんだけじゃ無理でしょうけど……意見を求めるだけなら組織に属する必要はないと思うわ。それこそアンケートでも取れば、男女問わず多様な意見が出るはずよ」
それは確かにもっともな意見なのだが、「意見だけ」という点は非常に危うい部分でもある。
「運営する側が男だけなら、結局同じことだよ。何を重要と思うかどうかは、男女で違う。男性女性同じくらいの意見を取り入れようとしても、選ぶ側が男だけだとどうしても男性よりになる。それに、何か意見があっても、有事平時抜きにしても同性でないと言いづらいこともあるだろ」
「それは……まぁ、確かに男性主体だと言いづらいわね……」
避難所運営の役員を男女半々にしておくことは推奨されているのだが、やはり自治体や町会によってはほぼ男性のみであることも少なくない。
女性役員が少数だった場合、なかなか意見が通りづらいこともある上、有事の際他の女性達が同性を頼り、その役員に負担が偏ってしまうことも考えられる。
――最低でも女子部員は、二人は欲しいんだけどなぁ。
「例えば、防災倉庫に備蓄品を用意するとして、食料・水・救助用品あたりは基本的だから誰でも用意するだろう。けど、日用品の何をどれだけ用意するかは意見が分かれてくるところだと思う。例えば……ええと」
例えにするなら男女で明確に分かれるものが良いだろうと思ったが、下手すればセクハラにならないかと危惧する。
「生理用品とか? 前に、避難所や備蓄にないとか問題になったことあったわよね」
秋乃がさらりと言ってくれたことで、土晴はかえってホッとする。
「そう、ただ問題になっただけあって、今は止血にも使えることも知られてきているし、備蓄してるとこも増えてると思うけど――」
土晴は小学生の頃の苦い思い出を振り返る。今でも忘れないほど刻まれた。
「――昔、家の備蓄点検の時、わりと生理用品が幅取ってたもんで、母さんに『少し空けて他のものを入れたらどうか』と提案したことが、あります……」
土晴の口調が敬語になり、目が死んだ。周囲もその様子を見て何かを察したが、秋乃は少し面白そうな顔になる。
「ふぅん、どうなったの?」
今より少しだけ若い、仕事に復帰してバリバリ働くキャリアウーマンは、完璧な営業用の笑顔を浮かべた。小学生の土晴は母の仮面を肯定的なものと捉え、『この空間が空いたら何を入れよう?』と大変気の早い妄想をした。
次の瞬間、その脳天気な頭蓋を母のアイアンクローが捕え、息子は「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
「はるくん、周期とか細かい話は置いといて――そうね、一週間……いえ、一日で、これいくつ必要だと思う? まぁ人にも寄るけど、一番多い日又は平均でね!」
あれほど母のニコニコ笑顔が怖かった瞬間は、後にも先にもないだろう。間違えたら殺される気さえした。
(というか多い日とかってなんだろう、少ない日もあるの?)
一応知識としては女の子には生理があって男には無いと知っていたが、まだ学校の保健の授業で軽く触れられた程度であった。
「ええと……昼用が一袋三〇個入りで、夜用が一袋十五個入りだよね……? 夜は、寝たらもう替えないとして……一個かな。同じタイミングで無くなるとしたら、昼用は二個とか、それくらい?」
「足りるわけ、ないでしょう?」
母の笑顔が深まった。頭を押さえる母の手の力は強まった。
――あの日のガチ説教、生涯忘れない。
「……つまり、何が言いたいかというと、『生理用品を用意しよう!』という発想があったとしても、男性が自分勝手な目分量で揃えると炎上の危険があるというお話なのですよ……」
世の中、男性にしかできないことよりも、いっそ女性にしかできないことのほうが多いのではないかと思うこともある。絶対男性にしかできないことは何か? と言ったらそうそうないが、女性じゃないと無理又は拒否な仕事は結構ある気がする。トイレの清掃で男子トイレに女性がいることはあっても、逆は無いよね? とか。
「ぶっ……よく、わかったわ……くくく」
あたたかーい家族の話題で場が温まったらしく、秋乃は口元と腹を押さえ笑いを堪らえようとしているが、イマイチ噛み殺しきれていない。
「もう思いっきり笑ってくれて構わないよ。どう考えても笑い話だし」
秋乃はひとしきり笑った後、笑い過ぎで溢れた涙を拭いつつ、いくぶんか明るい表情を見せた。
「まぁ、女子にしかできないことがあるというのは理解したわ」
「それで、最低でも女子部員二人はと考えてるんだ。一人だけだと偏っちゃうし」
「そうねぇ……例え伊勢くんが女装したとしても女の子にはなれないしね……」
秋乃の軽口に潮はぎょっと目を見張ったが、土晴は力強く頷いた。そうですとも。
「ああ、いくら潮が趣味が料理で特技が裁縫の、女子より女子力高い乙女男子だとしても駄目だ! 潮は女子の代わりにはなれない……!」
「そ、そういうことだけど、違う! そうじゃない……!」
「違くないぞ! 女子に生まれてさえいれば完璧だった! うっかり男子に生まれてきてしまったのが唯一にして最大の欠点……!」
「最大の欠点が致命的なのだけど……!?」
「は、はるくんやめてぇッ! あ、当たり前のことを頭おかしくいうのやめてぇ!」
再び土晴を抑えにかかる潮だったが、思わぬ羞恥プレイに無我夢中だったためか、首に腕が掛かってしまった。
「ちょっまっ……ッ!?」
流石の土晴も焦るが、慌てて潮の腕をタップするも、パニック状態に陥っている潮は気づかない。
さらに、正面の亥山秋乃もタイミング良く顔を伏せてしまい、取り巻き三人官女も気遣わしげに彼女を見やる。
――あ、あれ、これ、生命の危機?
「あなたの言いたいことはわかった。だけど、やっぱり私には少し難しいと思う」
ごめん自分で言い出しておいて何ですけど今それどころじゃないたーすーけーてー! 声どころか息も難しい状態です!
「災害とか、防災とか、前もってたくさん考えて準備しておくことの重要性は、私にもよくわかるわ。ええ、起きた後では遅いんだもの」
首絞め極限状態の土晴からは、その表情は窺い知れない。
どころか、だんだん、意識が遠のいてきたんですけど……?
「……でも、いくら用意したところで、いざという時が来たら、きっと私何も役に立てない」
…………。
「だって、私、どう考えても助けられる側の人間だもの。助ける側には、きっと、なれないわ」
だから、ごめんなさい、と頭を下げた。
言い終わってから、少しだけ苦い気持ちが残ったものの、後悔はしなかった。
こんな情けないことを告白するのは勇気が必要だったが、相手が真剣な以上、こちらも本気で話さなければいけないと感じたのだ。自分が、誰かに助けられることはあっても、誰かを助けられるとは到底思えない。
(……そうでもしなければ、諦めてくれそうもなかったというのもあるけど)
柄にもないことしたな、と思いつつ顔を上げると、先ほどまで無駄に元気だった眼鏡の同級生、今は見る影もないほど真っ青。
力なくだらりとぶらさがる手足が、なんだか笑うに笑えない。
――五秒くらい、思考を停止させ、唐突に理解した。
これ、ヤバイやつだわ……!
「ちょっと!? 伊勢くん首! 首絞まってない!?」
「え!? は、はるくん!? はるくーん!!」
土晴はその日、どこかの川原で亡くなったはずの祖父が手を振る夢を見た。
前日の対決のせいで、潮は地味に肩を痛めています。
次回は誰かが連行されます。