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四話 潮の決心~部員争奪戦決着~

引き続き伊勢潮視点です。


 放課後、潮と土晴は何故か体育館のバスケコートの真ん中に並んで立っていた。

 潮は真新しい体操着で半眼状態の土晴を見下ろし、ひっそりと溜息をつく。

 紆余曲折の末、結局勝負を受けることになってしまった。柔道部の他にもいくつか諦めてくれない部活があり、流石に全ては相手にしていられないので、潮と土晴は運動部から代表された二名と対決することになった。

 相手はじゃんけんで勝った柔道部と、バレーボール部だった。

 諦めなかったバレーボール部とアメフト部からは、「とりあえずイチから丁寧に教えますので、ぜひ来てください」と丁寧に頭を下げられたので、この二つは丁寧に断ろうと思う。

 周囲には運動部の主将たちや部員、他にも野次馬がたくさん来ていて大変な熱気に包まれていた。潮は始まる前から既に緊張で吐きそうだ。

『さぁついに始まります、一年生と大人げない部長たちの部員争奪戦! 前代未聞の一戦が今、幕を落とします! 実況は放送部のエースこと、蝶野正太郎! 解説はバスケ部の部長、木村遼希さんでお送りします』

 何故実況と解説まで呼ばれているのだろう、潮は絶望的な気分で聞く。

静かな高校生活が裸足で逃げ出して、あとに残ったのは炎上中焼け野原。

『いやーなんでバスケ対決になったんでしょうね』

『一番準備が楽で、相手の得意分野でないからだそうですよ』

『アメフト部でなくて良かったですねー』

『アメフト部は走るのも躱すのも得意ですから、多分勝負にならなかったでしょうね。球技大会で部員がボコボコにされてました』

『こわい』

 こわい、解説が既に怖すぎる。アメフト部がじゃんけんに負けた時、土晴はかなりホッとした様子を見せていたが、そういうことだったのか。

 その土晴はかなり不機嫌な表情で、ビシっと運動部陣営を指差し宣言する。

「いいか!? 俺達が勝ったら潮は防災部の正部員で手芸部だ! 異論は認めん!」

 一部の運動部からはブーイングが起きるが、それを上回る「おおー」という歓声も上がる。こちらへの応援が多いこともそうだが、土晴が手芸部のことを忘れていなかったことに安堵する。うん、手芸部のためなら頑張れそうな気がする。


 ジャンプボールは当然潮の役目だった。

しかし、潮の正面には同じくジャンプボールの柔道部、その身長は潮の胸辺りまでしかない。その後ろにはバレー部が困惑した表情で立っており、味方のはずの土晴は真後ろに控えている。

『これはどういうことでしょうか……身長的には伊勢選手のほうが有利だと思われますが……撹乱ですか?』

『有利はあるでしょうが、運動神経無いって言われてましたからね。空振りの危険があるのかもしれません。横や前に飛ばすのはできますが、真後ろは難しいと思いますね……意図がつかみにくいですね。』

 笛と共にボールが宙に投げられる。

 とにかく潮はジャンプしてボールに近づくことを目標にし、必死に手を伸ばす。

(あ……届い……?)

 指先が触れるも、ボールの腹を撫でただけに終わった。ボールは小さく回転して僅かに軌道を変え、潮の方に落下を始める。スローモーションのように、やけにゆっくりとボールが近づいてくることがわかった。


メコォ


 ボールは潮の顔面に当たり、ポロンと真後ろに落ちた。

 さらに足を滑らせ着地に失敗した潮は、尻餅をつくように倒れ、くらくらする頭を押さえる。うう、痛い。

 わぁ、と周囲から歓声が上がったことでなんとか前を見ると、土晴がシュートを決めているところだった。どうやらボールを拾ったらしい土晴は潮の背後から速攻を仕掛け、難なく強襲成功したらしい。

 諸手を挙げて、「ナイス、潮!」等と一本取った直後に言われると、悔しいような恨み言を零したいような気持ちもあったが、悪い気はしなかった。


『……これは全く予想できませんでしたねぇ……不覚なことに『ああっボールが顔面に! 潮選手、足を滑らせた!』までしか実況できませんでしたよ。ギャラリーも運動部陣営も唖然としている間の出来事でしたね』

『ジャンプボールの時は、体を必要以上に反ったりするとバランス崩しやすいですよねぇ……上しか見てませんし。まあ転ぶのは運動神経ないとか、慣れてない人がやると稀にありますよ。が、まさか顔面からボールを受けて、真後ろとは誰も予想できませんよ。それにしても鮮やかな速攻でした』

 ちょっと欲しい、というバスケ部木村部長。でも完全フリーだったからまぐれもあるな、と冷静に分析している。

『ここでルールをおさらいしておきましょう。今回は2P、3Pシュート関係なく3本先取で勝ちになります』

『デュースは無しですね。フリーについては話してませんでしたが、これも一本になりますかね?』

『なるのではないでしょうか。3本先取の短い試合でファウルとかそうそう無いとは思いますが……あ、運動部からのスタートですね』

 

 潮は事前の打ち合わせ通り、コートの中央で待機する。相手ボールの時はなるべく土晴がカットに入るが、カットできず相手が上がってきたら、潮がゴール下まで下がる。それでなくとも潮は足が遅いので、なるべく下がりすぎず上がりすぎずという作戦だ。つまり、点を入れるのは土晴に任せることになる。

 土晴はオタク的な見た目に反してかなり運動神経が良い。実質2対1になるが、足を引っ張らないようにするほうが重要だ。

 その信頼に応えるかのように、土晴はコートの半ば(潮はゴールまで必死に下がる)あたりで、ボールをカットし速攻に入る。今度はどちらも反応がよく、すぐに土晴の前に柔道部が立ちふさがり、その先にバレー部が控える形だ。

 土晴はいくつかフェイントを仕掛け、柔道部を捉える。一瞬の隙を突いて抜けようとした時、土晴は大きくバランスを崩した。

 ――柔道部が見事としか言いようのない足払いを仕掛けたのだ。あまりに堂々とした反則技に、土晴は避けることもできず地面に叩きつけられた。溢れたボールを柔道部が拾い、「さぁ行くぞ!」という挑戦的なをこちらに向けたが――


ピ―――――――――――! 

 当然、主審が笛を鳴らす。

「ファウル!」主審から鬼の形相と共に、告げられる。

『ファウル!』解説のバスケ部部長が解説の机を叩いて叫んだ。

「ファウルだよ、馬鹿!」バレー部が柔道部の頭を手のひらでぶっ叩いた。

「は、はるくん!」

 潮は倒れた土晴に駆け寄り、身を起こそうとしているのに手を貸す。声を掛けようとしたが、見たこともないくらい目の据わった土晴の顔を見て、思わずゴクリと息を呑む。

「あいつ、絶対、許さない」

 眼鏡にヒビが入り、頭や手足から出血している土晴は、凄絶な表情を浮かべた。

(うわぁ……夢に出そう)


 その後、治療のため試合は一時中断となった。

『えーと……先ほどの会話がフラグとなってしまいましたね。どうしましょうか、解説の木村さん』

『アレはないでしょう。しかも技決まった瞬間、すげぇむかつくどや顔でしたよ。完全に競技間違えてるし。そもそも素人相手だし、スポーツマンシップどこいったふざけてんじゃねぇぞ柔道部!』

 柔道部員が一斉に頭を下げたので、バスケ部木村は溜飲を下げたのかバツが悪くなったのか、いくらか落ち着きを取り戻す。

『お、落ち着いて下さい! でもこれ、フツーはフリーのチャンス二本ですよね。二本入ったら試合終了ですかね?』

『フリーの場合、普通は一本1Pですからね。今回は三本先取ですから、バレー部もちょっと哀れですし、二本打つのではなく一本だけやってもらう方が、この場合公平かもしれません』

 放送部蝶野は何度か頷き、かなり簡単に作られたルール表を見る。書いてない。

『ここのあたり、詰めてませんでしたしねー』

『ちょっと主審の副部長と、何人かで集まって話してきます』

『どうぞどうぞ』


 バスケ部によるルール検討の結果、フリーは一回だけで、それが入ったなら一本とすることで決まった。そして完全に殺る気の土晴は難なく入れる。元々運動神経は良いが、今日はそれ以上の実力と集中力を引き出している気がしてならない。

 次の相手番では土晴はボールをカットできず、潮もゴール下で待つが、バレー部のフェイントに引っかかり、ブロックのためジャンプした隙を突かれ一本取られた。

「ごめん、はるくん……」

「いいって。俺もちょっと足払いされた足が痛くてな……さっきまでみたいな動きは無理かもしれん」

 慌てて土晴の足を見てみると、テーピングした足が少し腫れているようにみえる。

「だ、大丈夫じゃないよね? あの」

「一本入れれば、勝ちだ。続けるぞ」


『これは――バレー部部長、佐野選手の独壇場だ! 続けて二本目を取りました』

 同じ作戦で行ってみたが、やはり明らかに土晴の動きが鈍っている。試合を諦めても、すぐに保健室に連れていくべきだと思うが、土晴は了承しないだろう。

 それなら――いっそ、

「潮、作戦変える。二人で一気にゴール下まで上がるぞ」

 不穏な考えを見抜かれたのか、土晴はこちらにだけ聞こえるような声で呟いた。

「え?」

「勝率上げるためには博打が必要なときもある、まさにそれが今だろ」

 でも、足を引っ張るだけで終わってしまうのではないか、そんな不安が潮の胸中を支配する。どう考えても力になれる気がしない。

「俺だけじゃきっとダメだが、潮が入ればきっとどうにかなる」

 そう言われて、不安を抱えながらも頷いた。

双方にとって最後のボールであり、最後の戦いになる。バレー部は土晴のマーク、柔道部はゴール下まで下がっていた。

ボールを出す直前、土晴は大きな声で指示を出してきた。

「潮! 思いっきり投げろ!」

「わかった!」

土晴とバレー部佐野は前後に激しく入れ替わっていたが、ここは信頼しよう。

土晴が前に出たタイミングを見計らい、渾身の力でボールを投げた。


方向は、一応合っていた。

「あ、ヤベ」

 呟いたのは土晴だ。


 次の瞬間――|土晴は咄嗟に横へ飛んで、避けた《・・・・・・・・・・・・・・・》。


 弾丸のような速さで繰り出されたボールは、まっすぐに進み、バレー部の下腹のあたりにめり込んだ。土晴が直前で避けたため、おそらくボールがよく見えなかったのだろう。バレー部佐野は片膝を尽き、悶絶ながら崩れ落ちた。

(ぎゃああああ――!? ごめんなさい――!)

 一方難を逃れた土晴はボールを拾い、まっすぐにゴールへ向かう。

「潮! 走れ!」

「えぇ!? でも!」

反射的に走り出したが、自分の出した負傷者を気にしてしまう。

「事故だ事故、すぐに復活する!」

 後ろ髪を引かれる思いで、言われた通りにゴール下に突進する勢いで走る。

『一年生二人が起死回生、ゴールしたに向かいます! 後ろから復活したバレー部佐野選手も追いますが、これは……意外とダメージが大きい様子!』

 足の遅い潮がゴール下まで来る頃には、ゴール下に待機していた柔道部が土晴の方についていた。

土晴はそれを躱しつつ、こちらに突っ込んできながら叫ぶ。

「潮! 下でしゃがめ(・・・・)!」

 何をしようとしているのか悟り、すぐに片膝をついてしゃがみこむ。実況は『おおっと、これは何をするつもりだ――!?』と変わらずうるさい。

 土晴は咄嗟に足払いしようとした柔道部をさらに躱し、まっすぐ、こちらの前に辿り着いた。

「肩借りる!」

 そう言って潮の手前で地面を蹴り、潮の肩を足場にして飛んだ。

潮からは見えなかったが、ガコン、という音の直後にボールが地面に落ちる音が聞こえた。


 どわぁ、と野太い歓声が上がる。

最後を飾った土晴はゴールポストにぶら下がったまま、「下ろして~」と情けない声でいうので、やれやれと下ろすのに手を貸した。



コートの中央で悔しそうに顔を歪ませる柔道部と、出なきゃ良かったという顔をしているバレー部の部長に顔を合わせた。

礼が終わった後、土晴と潮は気まずそうに顔を見合わせ、ついでバレー部部長、佐野に向き直った。

「バレー部の部長さん! すみませんでした!」

「わざとじゃなかったんです!」

「なんかすごく巻き込んだ感じですみません!」

 土晴と交互に謝ると、バレー部部長はひらひらと手を振りながら笑ってみせた。

「いや、いいよ。鍛えてるし。多分君の方が重症だから養生してね」

 許してくれた上にこちらを慮るという対応に、少なからず感動した。これが部の頂点に立つ部長さんなんだ、かっこいい、と素直に男気に惚れる。


 ちょっと悔しいけどね、という呟きは本人以外の誰にも聞こえなかった。


一方、柔道部部長は部員に囲まれ詰られていた。

「部長! 素人に足技はないっすよ! 卑怯っす!」

「相手、受け身もロクに取れてなかったじゃないですか!」

「部長かっこ悪い! ああいう鮮やかな手並みは大会で発揮してくださいよ!」

「これ以上問題起こしたら先峰にしますからね!」

 部活の上下関係にもいろいろあるんだな、としっかり者の柔道部員達を見ながら潮は少し感心する。同情はけしてしないが。


 放送部部長は、総括を述べつつ場を締めに入っていた。

『いやー意外と良い試合でしたね。始まる前は、正直一方的な試合になるんじゃないかと、少し心配していたんですが』

『運動部陣営の連携が取れていないのに比べ、一年生組はそこそこ連携取ってましたからね。一見福井選手のワンマンプレイですが、伊勢選手の顔面ジャンプボールや弾丸ボール事故もなかなかのファインプレイでした』

『……そこ、バスケ部としてファインプレイと言って良いんですか』

『予想もつかないプレイで相手の虚を突くのは、どの競技でもファインプレイと言って良いと思いますよ。立派な貢献です。――足払いとか、反則とか卑怯なことは論外ですよ?』

 それはそうですね、と放送部は頷く。

『しかし……一年生が勝った時は伊勢選手が防災部と手芸部。運動部が勝利した際は運動部の勧誘交渉権を認める(・・・・・・・・・)っていうのは、完全に曲者ですよね。入る、とは言わない点が』

 ちょっと面白そうに言う放送部に、バスケ部も笑う。

『アメフト部も希望してましたし、強制できる権利は元々ないですからね』

『ははは……試合内容も伊勢選手ではなく、むしろ、福井選手に注目が集まる試合でしたしね』

『ええ、あとでちょっと勧誘に行こうかと思います』

『あっ……うん、確かに福井選手の交渉権は試合に含まれてませんでしたしね?』

『もちろん、交渉に行ってもいいですよねー』

『ははははははは……』

『あはははははははは!』



体育館ではあちこちから声を掛けられ落ち着かないので、治療も含め、保健室に避難してきた。養護教諭の先生に怒られながらテーピングし直してもらい、シップをいくつか貰い、少し休憩する。

「……そういえばさ、潮」

 あのー、ごほん、となんだか恥ずかしそうに咳払いする土晴に、潮は首を傾げる。

「何?」

「……その、防災部、入ってくれるか?」

 今更と言えば今更な勧誘に、潮はぶはーっと吹き出した。申し訳ないので両手で口を抑えるが、おかしすぎて肩が震える。

「な、なんだよ、そんなに笑うことか?」

「いや、既に決定事項みたいに話してたから、今さら聞くのかと驚いただけだよ」

「希望は散々口にしたが、正式依頼は初めてだぞ。実は」

 思い返してみるとそうかもしれない。嗚呼、今日はいろいろなことがあったな、等と一日を振り返る。胃が痛みっぱなしの一日だったが、過ぎてみればスッキリした気分で夕方を迎えていた。

「そうだね……防災部で、手芸部だっけ」

 鞄に付けたウサギの編みぐるみが揺れる。初代は千切れて家にしまってあるが、これは高校入学前に作ったものだ。去年の文化祭で手芸部の素晴らしい展示を見た時、この部活に入りたいと思った。結局去年は人見知りの小心者が災いして、展示を見ただけで部員に話を聞くことすらできなかった。

しかし、不思議と今なら、なんでもできそうな気がする。


「うん、決めたよ。ぼくは、防災部の正部員で、時々手芸部員だ」

 決めてみるとストンと胸に降りてきた。手芸部にはきっと、潮と同じことが出来る人間やそれ以上にすごい技術を持った人たちがいる。その人達にたくさんのことを教わって過ごすのは楽しいだろうが、それは二番目で良い(・・・・・・・・・)

 一番目はどうやら『自分にしかできないこと』がある場所にすると、決めた。

 土晴は破顔一笑して喜び、潮の手を取った。

「ありがとう、潮!」

「うん、よろしくね」


 帰路につきながら、土晴は再び聞いてきた。

「でも、手芸部は正部員じゃなくていいのか?」

「防災部の方が正部員じゃないと、はるくん困るでしょ。確か正部員五人いないと成り立たないんだから……兼部の部員ばっかりじゃ設立できないよ」

「……ん?」

 土晴が青い顔で立ち止まったので、潮も立ち止まる。まさか、正部員と兼部員の違いを理解していなかったのだろうか。

「兼部の人だらけだったら、実態のない部活も作れちゃう可能性があるから、ダメなんだって聞いたよ」

 確か兼部用の入部届も別に用意されていたはずだ。学校自体が部活推奨で、必ずどこかの部活に入らなくてはならない。その為入学時に一人につき一枚、入部届が渡される。ただし兼部は義務ではないので、教室の隅の箱にご自由にどうぞ状態で積まれている。

 サーッと顔面から血の気を失せさせる土晴は見てて面白いが、部員(未)としては笑えない状況だ。どうやら本当に、自分の力が必要な状況らしい。

「……ぼくも手伝うから、一緒にがんばろう?」

「……おう、いつもありがとうな、潮」

 長い間共を過ごしてきたが、互いが支え合うように並び立つのは初めてであり、今更、今になって、という言葉がなんだかおかしく響く。その事を少しだけ笑い、潮は前を向いた。


☆★☆ ☆★☆


 翌日、手芸部の戸を叩く。返事を確認して入室した潮は、思わず硬直した。

「君が昨日、体育館で活躍したっていう手芸部希望の子か!」

「手芸部を賭けて勝負し勝つだなんて、ジュブナイルの主人公のようではないか」

「うむ! 同じ手芸部員として歓迎するぞ、伊勢潮くん!」

 当然といえば当然だが、昨日の騒動でかなり有名人と化してしまったらしい。

入部前から知られているという事実に、人見知りの心が身を引きそうになるが、勇気を出して一歩踏み出した。

奥からお茶やらお菓子やら作りかけの作品が飛んできて、圧倒されそうになりつつ、なんとか兼部用の入部届を出す。

潮はお茶を勧められながら、何故だか実家のような安心感を得ていた。

(なんだろう、この気持ち)

 ほぼ初めて訪れた場所で、知らない人に囲まれている状況なのに不思議と落ち着いている。こんなことは初めてだ。

「うむ! 兼部用か……少し残念だが、あの騒ぎで防災部に入らないとなると男が廃るし致し方ないな!」

 男のような口調で話す女性は、明らかに背が高い。多分潮の母と同じくらいで、一八〇近いのではないだろうか。

「それにしても、君、背が高いな! 部員の記録更新じゃないか?」

「……あの」

「どーしたんだ伊勢くん! なんでも聞いてくれたまえ!」

「ぼくが言うのも何ですけど……みなさんも、背が高い……ですよね?」

 背が高いと言った人は多分一九〇くらいで、何でも聞いてくれと言った方はそれより少し高いくらい。どちらにせよ、十分に自分と同じ高身長であった。

「そうだな、我らが手芸部の平均身長は、何を隠そう一八〇センチだぞ!」

「あ、女子も含めてな!」

 どうだ驚いたか、という顔をされたが、十分驚き納得した。道理でこの安心感。

 ――手芸部は、巨人の国でした。


補完SS「がんばれ土晴くん」


 運動部と勝負することになった日の昼休み、急遽潮と土晴は体育館に集まっていた。所謂、作戦会議である。

「単刀直入に聞くけど、潮、バスケどれくらいできる?」

「一応ルールはわかる。でも、やるのは中学二年の授業ぶりです……」

 ふむと頷き、土晴はゴールを見やる。ハーフコートだが、記憶違いでなければ中学の時よりもゴールポストが高い。中学の頃はネットが掴めるくらいの高さだったが、今はジャンプして届くかどうかというくらい。

「高校のバスケットゴールって高いのな……」

「うん……」

 ボールを投げても入る気がしない。

「でも、もしかしたらこの高さでも、潮なら少しボール上げただけでシュート入るんじゃないか? 背も伸びたし」

「そうかな?」

「というか、普通にボール持って手を上げただけで誰も手が出せないと思うぞ」

 時間切れやトラベリングがあるから要注意だけど、と付け加えられたが、言われてみればかなり有利な競技に思えた。無理そうならそこからパスを出すくらいならできるだろう。

「よし、ちょっとやってみようぜ」


「えいっ」ボールはリングを掠めること無く明後日の方向へ「潮! 力みすぎ!」

「やぁっ」ポロッと手から滑り落ちたボールが顔面に当たった「力、抜きすぎ!」

「とうっ」リングに当たったボールが跳ね返り、顔面強襲「潮――! なんでだ!」


「なんで顔面ばっか当たるんだよ!? 顔面ボールバキュームとか付いてんの!?」

 そんなこと言ったって上手く行かないものはどうしようもない。

 どうしようも無いものを埋めるのは努力のみだが、勝負は今日の放課後だ。

 必死にゴールを狙ってシュートを放つが、二回に一回は顔面に戻ってくる始末であり、一度たりとも入ることはなかった。隣でシュートの練習をする土晴はかなりの精度のようだが、あのレベルにまで達するには年月が必要な予感がする。

「……こんな付け焼き刃でどうにかなるかな……?」

「うん、よし、わかった……!」

 何がわかったんだろうと首を傾げる潮に、腕を組んだ土晴は力強く頷いた。


「これはどうにもならないな! 無理だ! 仕方ないから俺――超頑張るわ!」

 土晴は冷や汗を流しつつヤケクソ気味に叫び、潮は天を仰いだ。

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