大隅教授のノーベル賞受賞で似非科学が流行りそう
2016年度のノーベル医学生理学賞に、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が受賞されました。
大隅教授の研究内容はオートファジー。
細胞の自食作用と呼ばれるもの、らしいです。
このニュース自体は大変喜ばしいモノなのですが、一方で私は、ある事を危惧しております。
それはこのオートファジー現象が一人歩きして、似非科学に利用されないか、という心配です。
自食作用とは、細胞が飢餓状態などに陥ると、細胞の中にある古いタンパク質を分解し、アミノ酸や新しいタンパク質を作る事。
古いタンパク質は病気の元にもなったりする事があるので、自食作用は大変重要。
癌やアルツハイマー、パーキンソン病は、この自食作用の低下から起こる可能性もあり、自食作用の研究は、それらの病気の治療に役立つかも。
こういう理解で問題はないはず、ですよね?
そうなると、自食作用を活発にさせれば癌が治る!
とばかりに、絶食療法とか、怪しげな漢方薬とかが流行りそうな気がします。
問題は、それで効果が出た! という実例が出る事です。
絶食して癌が治る人もいるかもしれない事です。
あくまで例外でしかないかもしれないのに、ほれ見ろ効果があっただろ、と結論づける。
その成功例を喧伝し、さらに人を呼ぶのです。
そして、適切な治療をしていれば治ったかもしれない患者さんが、病状を悪化させたりして手遅れになったりするのです。
はっきり言えば、これらは似非科学です。
何故かと言えば、一つ二つの効果のあった例を挙げて、あたかも100%効果があるかのように言うからです。
しかも、効果が無ければ信心が足りないからだ、とか。
もっと飲めば効果が出る、とか。
効果が無い理由を、試している人の側に求めるのです。
癌が、断食する事によって、ある特定の人には効果を発揮するかもしれません。
自食作用の活発な人は、断食によって癌細胞の増殖を防ぐ事が出来るかもしれません。
でもそれは、万人ではないのが普通です。
僅かな例外をもって、全体に適用する事は出来ません。
それに、素人が安易に断食を行うと、血糖値の低下で眩暈やふらつきを起こしたり、健康に重大な悪影響を及ぼす場合もございます。
医学は普通、万人に効くモノを治療法として選択してきました。
なぜなら、個人個人に合わせて一番効く治療法がわからなかったからです。
100人の患者さんがいて、1人にしか効かない治療法は残らない。
出来るだけ100人を救える様に治療法を探してきました。
でもまれに、薬の副作用があって助かるのは98人かもしれない。
もしかしたら50人しか救えないかもしれない。
それでも、出来るだけ多くの人を救える様に、副作用に苦しむ事が無いように、患者さんの体質の事も考え、治療法を進化させております。
100人のうち僅か10人しか救えない治療法でも、残る治療法がそれしかなければ、患者さんの了解は取るにしても、それを選択する。
効けば万々歳。
不幸にして効かなくても、その結果を分析し、他の患者さんの診断、治療法の選択に役立ててきました。
でも、似非科学は違います。
100人に試して10人しか助からない方法で、100人が助かると大袈裟に言うのです。
それで90人が助からなかったとしても、それには目を瞑るのです。
真面目にやらなかったとか何とか理由をつけて、患者さんの責任にするのです。
僅かにせよ、その方法で助かる人が出るものだから、吹聴する人は信じ込んでいる場合が多く、厄介です。
医学は進歩しています。
DNAの解析によって、個々人に最適な治療法がわかる様になるかもしれません。
断食療法をするだけで、癌が治る人が判るかもしれません。
ある漢方薬を飲む事で、アルツハイマーが緩和するかもしれません。
針治療で癌が無くなるかもしれません。
これまでは患者さん100人のうち、僅か1人にしか効果を発揮せず、打ち捨てられてきた治療法が、その1人を正確に判定出来る様になる技術によって復活するかもしれません。
というより、そんな時代に片足は入り込んでいます。
不治の病に侵され、藁にも縋る思いで怪しげな治療法に大金をつぎ込む。
結果、もっと病状を悪化させる。
そんな患者さんが、一人でも減る事を祈ります。
オートファジーだけではありませんが、様々な研究が進み、難病に苦しむ方が少しでも減りますように……
断食がダイエットに効果があると書きましたが私の間違いです。
安易な断食は危険です。
そうご指摘を受けまして、該当する一文を削除しました。