第五話裏「愛嬌と愛情」
私はナール。
今年で12歳になる魔法使いの娘だ。
というのもヨシュアにいる魔法使いはお父さんだけのようでそう呼ばれることが多いのだ。
そうは言ってもお父さんが使う魔法は火種ぐらいしか見たことがないのだけれど......
見せて欲しいとせがんだこともあったが、
「私は領主様とともに狩に行かねばならないし、異常時には敵を討ち、味方を癒さなければいけない。そのためにも魔力を貯めておかなければいけないんだ、分かっておくれ」
そう言って困った顔をする父に強く言うことはできなかった。
私だってあと数年もすれば成人だ。
我慢しなくてはいけない事があるということは学んできた。
しかしそうした不満は消えてくれるものでもなしに、
毎日お父さんを狩へと連れ出し魔法使いとしての役割を強いる領主様への恨みへと変わっていった。
お父さんは領主様の事をあいつは信頼の置ける人間だと言うけれど
私にはいつも怖い顔で命令ばかりしている偉ぶった人だとしか思えなかった。
そうして私が12歳になった後、領主様のところに赤ちゃんが生まれた。
赤ちゃんは跡継ぎになるであろう男の子だったため、お祝いをする事になった。
その時見た領主様の顔はとても幸せそうで、喜びで満ち溢れるといった感じだった。
お祝いの後で私たち親子が赤ちゃんの部屋へ行った時、お父さんは赤ちゃんの額に手をかざし何かを呟いた。
そしてお父さんの手が光ったかと思うと赤ちゃんが泣き出した。
静かだったから寝ているのかと思ったが起きていたらしい。
そりゃあビックリするよね。私もした。
確か手が発光する魔法は「ライト」といったはずだ。
なぜいきなり使ったのかが分からなかったのでお父さんに聞いてみると
「ライトが分かるのか、ナールはしっかりと勉強しているね」
と頭を撫でながら
「だけどあれはライトじゃないんだ。そうだな......将来魔法が使えるようになるためのおまじないみたいなものさ。小さいうちにある程度強い魔力に触れさせることで魔力の発達を促すんだ。ナールが生まれたときにもやったんだよ」
と微笑んで言葉を続けた。
予想が外れたのは残念だけど、
お父さんは領主様の赤ちゃんにしたのと同じ事をしてくれたらしい。
先ほど見た暖かい色の光を思い出した私はの頬が自然と緩むのが分かった。
領主様は嫌いだけどこんな思いをさせてくれた赤ちゃんには優しくしてあげようと思った。
そして私にとって都合のいいことにこれから私はこの赤ちゃんのお世話をすることになっている。
「ナールは将来アルウィン様に仕えることになるだろうし、アルウィン様とナールは同じ魔法使いの魔力を媒体としたんだから兄弟みたいなものだ。魔法の相性もいいだろうし、弟だと思って可愛がってあげなさい」
とお父さんも言っていたし、領主様にも頼まれた。
媒体とか相性とかはよく分からなかったが、
もともと一人っ子で兄弟は欲しいと思っていたし、
領主様への復讐を思いついた私はその言葉に大きくうなずいた。
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赤ちゃんの世話を見るようになって半年程がたった。
赤ちゃんは可愛い。
いやアルウィンは可愛い。
友達の家の赤ちゃんを見せてもらったことはあるがあそこまで可愛くはなかったもの。
例えばアルウィンのところを訪ねれば、つぶらな瞳でじっと見つめてくる。
例えば声をかければ笑顔を浮かべて返事をしてくれる。
その笑顔を見るとなんだか幸せな気持ちになるので、
最近では特に用がなくても暇さえあればアルウィンの元を訪ねている。
そして今日は初めてアルウィンと外出する日だ。
少しでも楽しんでもらえるようにお母さんからアルウィンにどんな所を説明したらいいか聞いたり、
説明する場所を何回も回って練習したりしたし笑ってくれたらいいな。
行く前からアルウィンの返事が愛称に聞こえて大はしゃぎしてしまったが、
気を取り直して始めは自分の家を紹介した。
アルウィンにはできる限り私の事も知ってもらいたいからだ。
兄弟みたいなものなんだから当然よね。
とはいえはしゃいだ時に抱き上げて振り回したせいかアルウィンは少しぐったりしてる。
これからの案内は落ち着いて行動するようにしよう。
それからの説明は自分でも驚くぐらいスムーズに進んだ。
考えなることなく場所についての説明がスラスラとでてきたのだ。
アルウィンも熱心に聞いてくれているようだったし、練習の成果が出たと思うと嬉しかった。
しかし事はそう上手くいかなかった。
アルウィンはまだ赤ちゃんだからか8分目程周ったところで顔色が悪くなりだしたのだ。
お母さんから言われた説明するべきところはだいたい説明し終わって、
今度は私の好きな場所に連れて行こうと思った矢先のことだった。
お母さんもアルウィン様ぐらいの年はあんまり連れ回すと疲れちゃうからほどほどにと言っていたが
絶対に一緒に行きたいと思っていた場所なので励ます意味も込めて、
「まだ案内したい場所は残っていますから、頑張ってくださいね」
と笑いかけたのだがやはり疲れには勝てなかったようでアルウィンは
目を見開いたかと思うと眠ってしまった......残念だ。
まあまだアルウィンをあの場所に連れて行くのには早かったのかもしれない。
ここからは少し遠いし、アルウィンがもう少し大きくなったら一緒に行くことにしよう。
そう考えて私は来た道を引き返した。