第五話「事務的な愛嬌」
「まずここが私の家です!」
先ほどまで俺の返事に興奮して飛び跳ねていた少女は言った。
おかげでこっちはすっかりグロッキーだってのに元気すぎじゃないだろうか。
ともあれこれはあれだな。
大好きな人に自分のことをまず第一に知ってもらいたい的なやつだ。
俺はまだ生後半年の赤ん坊だけど。
冗談はさておきナールの家は近かった。
お隣さんだった。
「私のお父さんは魔法使いなんですよ!
私はまだ修行中なんですけど将来アーウィ様に仕えるのだから
今のうちから接しておきなさいって言われて通うようになったのです!」
なんとナールの父は魔法使いらしい。
これは思っていたよりも早く魔法を使えるようになれるかもしれない。
さっさと意味のある言葉を喋れるようになって師事したいものだ。
「うー?」
ともあれ現状ではナールの言われてと言う言葉の方が気になって
つまりは父親に通わされてるって事か?という意図で疑問符を投げかけると
「アーウィ様は可愛いんだから言われなくても通うのに変なお父さんですよねー?」
と疑問符で返された。
彼女の家を離れた後の説明は淡々と進んだ。
やれここは鍛冶師の家です、やれここは薬師の家ですから始まり
この道を進むと隣の集落のスティモに着きます、距離的には歩いて1時間ぐらいですね。
この小川は大河へと繋がっているみたいです、大河では色々なものが取れるようですよ。
とナールは俺が必要としている情報をその場所に赴いて伝えて見せてくれた。
道中ではこの川の水は透明ですけど大河は青い色をしてるみたいですよとか
牧舎の前では牛や馬の種類についてとか詳しく説明してくれたりもした。
そんなナールを始めのうちは的確に必要な事を伝えてくれて素晴らしいなぁ。
他にも気になったことをあるけどそれは自力で調べればいいかなんて悠長に構えていたが
しばらくすると彼女の行動に違和感を覚え、俺が興味を持ったいくつかのものをナールが素通りしていくうちに確信へと変わった。
彼女は俺にとって必要な情報を説明してくれているが、けっして俺が興味を持った事について話してくれてはいない。
さらにいれば彼女の説明にはほとんど主観が混じっていない。
さながらそれは上司への報告に似たものであって、10歳の女の子には見合わないものだ。
今彼女がしている事はまさしく、成人した彼女が新しい領主に対してチュートリアルでしたものと同じものだ。
ナールは確かに俺を案内していたが、それはアルウィンに向けたものではなく主人公に向けたものなはずだ。
そう思ってからはこれまで彼女の向けてくれていた愛嬌のある笑顔が酷く事務的なものに見えてきてしまっていた。
彼女は変わってはいないはずだ、そう思おうとするが俺の顔色はおそらく悪いのだろう。
「アルウィン様、疲れてきちゃいましたか?」
ほらナールはしっかりと俺の事を気遣ってくれる。
思い過ごしだ、今は情報収集に専念するべきだと自分を落ち着かせようとする。
「…でもまだ案内したい場所は残っていますから、頑張ってくださいね」
少し考えたような様子をみせた彼女は頬を吊り上げニッコリと、おそらくは今日一番の笑みを浮かべた。