第三話「リアルライフはゲームか否か」
暖かな日差しに照らされて目が覚めた。
この一ヶ月のうちにだんだんと気温は上がっている、窓の外には青々とした緑が茂り
小鳥(実際に小さいかはさだかではない)の甲高い囀りが聞こえることもある。
今の季節は初夏ぐらいなのだろうか。
さて、先日知識をいかして人生イージーモード!なんて決意を新たにした俺だったが、
今のところ行動に移すことはできていない。
というのも赤ん坊というのは、如何せんできることが少ないのだ。
できることといえば手足をわさわさする、意味をもたない発声をする、
考える、寝る、ぐらいなものである。
赤ん坊だから許されているものの、これで大人だったら狂人ニートだな。
俺の精神年齢は18歳なわけだが、判定は如何に。
きっとセーフだな、うん。違いない。
......さらに言えば起きていられる時間が少ない。
体感としては2時間ぐらい起きていて、いつの間にか意識が落ちる。
寝ている時間は正確にはわからないが、太陽の動きを見るに10時間程だろう。
つまり一日の活動時間は4時間ほどであり、実に20時間も寝ていることになる。
とはいえ行動にうつせていないだけで、生きる上での目標は設定できた。
目標は大事だ。
楽しむ事が生きる意味だと、生きることは楽しむことだと
そう言っていながら以前の俺は楽しむとは何なのかを真剣に考えたことはなかった。
俺はただ楽な方を選んできただけだったんじゃないか?
幸か不幸か、この世界は真剣に生きざるを得ない世界だ。
できる限りのことはしていきたい。
さて、今回決めた目標は三つだ。
まず一つ目だが、これは目標とは違うのかもしれない。
この世界での生き方に関することだ。
向こうでは目に見える範囲に入ってきた楽しいことだけをして生きてきた。
楽しくなさそうな事は当然しなかったし、自ら捜し求めることもしなかった。
その結果として、俺は後悔した。
だから今回は自分のためになることで、自分にできることは全てやるつもりでいる。
やらずに後悔したのなら、やって後悔することにしたのだ。
あーこれクソつまんね。
終わってからそう言おうと思う。
次に二つ目は、直近の目標だ。
何かといえば現実とゲームの擦りあわせである。
言語習得が容易になった事ではっきりしたがこの世界において、
向こうの「フォルクレストオンライン」の知識は間違いなく役に立つ。
ゲームというのはいくら難度が高くなろうが、
プレイヤーに絶対的な優位性があるのは間違いないのだから。
そこに現代知識までもが使用できるのだから自分は
この世界の人々に比べ圧倒的有利な条件で人生をスタートしたといっていいだろう。
謂わばこれが俺に与えられたチート!!
戦闘力が高くなくとも知識されあれば無双できる方法はいくらでもあるのだ。
とはいえ懸念もある。
確かにこの世界は「フォルクレストオンライン」に酷似しているが、
特に意識せずとも気づくことができるほどの差異も存在しているのだ。
最大の差異は自分の年齢である。
「フォルクレストオンライン」は15歳の少年をロールプレイし、
自領を発展させていくゲームであって、赤ん坊から始まるライフゲームでは決してない。
つまり俺が知っている知識というのは15歳以降のものであり、
それまでに何が起こるのかについては一切分からないのだ。
主人公の過去がゲーム中で語られるなんて事もなかったしな。
さらに言えば俺が知っているのは、ゲーム中の主人公視点の知識であるのだが
自分の立ち位置が分からない現状ではとてもじゃないが使えるとは言い切れない。
持っているものを活かし無双するためにも俺には一刻も早く、
この世界とゲームの差異、それから自分の立ち位置を把握する必要があった。
その他にも細々とした違いを何個か見つけている。
例えば手が発光する魔法。
何度か使っているのを見たのだが、「ライト」と呟いているようだった。
そのまんますぎて逆に疑ってしまったが、確かにそう言っていたのだ。
「フォルクレストオンライン」に魔法は存在するが、「ライト」という魔法はない。
それもそのはず、基本は国取りシュミレーションゲームなのだ。
閃光と言えるほどのものであれば、目くらましにでも使えるのかもしれないが
なにが悲しくて戦闘中に淡い光を手の平に灯さなければいけないのか。
しかし現実問題としてこの世界には「ライト」という魔法がある。
「ライト」という一つの例がある以上、他にもゲーム中には存在しなかった。
もしくは描写されなかった魔法が存在する可能性は高いと見るほうが自然であり、
他にもこの世界の人々に数値では表せない暮らしがあるのはいうまでもないことだった。
ゲームという認識を早々に捨てないと、思わぬしっぺ返しを食らうかもしれないな。
とはいえ知らないものを警戒しろと言われても無理な話だ。
安易にこうなのだと決め付けてしまわぬようには気をつけるつもりだが、
基本的には「へーそんな事もあるのかすげー!」ぐらいの姿勢で行こうと思う。
そして最後の3つ目はといえば魔法習得である。
以前読んだ異世界転生モノの小説では必ずといっていいほどの頻度で扱われていた魔法。
やはり異世界に来たからには、これを扱わなければ始まらない。
むしろ魔法があるから異世界と言える。
完全に「異世界=魔法」の方程式が成り立つのだ!!!
......いや魔法がない異世界転生モノがあってもいいとは思うんだけどな。
実際に向こうでも何作か見ていたし、新鮮さがあった。
だが、やはり分かりやすい未知との遭遇の象徴としてこれほど分かりやすいものは無い。
その魔法を身を持って体験できるのだからテンションが
上がるのもしょうがないといいますか、なんといいますか、ハイな感じなのだ。
そうして魔法に対する期待に胸を膨らませ、行動を始めようとするも
ありがちな展開に期待して魔法書を探しに行こうにも動けない、
ゲームの時の詠唱や「ライト」を試してみようにもまともな発声ができない。
果たしてないないづくしの赤ん坊こと俺だったが以外にも成果があがっていた。
というのも俺はこちらに来てから何と無しに違和感を感じていたのだ。
普段は気になるほどではないが、意識して体を動かそうとするとそれは顕著に現れる。
体のなかで何かが動くのだ。
それは動いていないときでも意識を集中することで、
へその辺り(所謂丹田)に座していることがわかる。
それが体を動かすとき、その部位に微量ではあるが移動しているのである。
本当に違和感レベルなのだが、確かに動くのを感じる。
これは俺が向こうで暮らしてきたからこそ気づくことができたのだと思う。
向こうに無くて、こちらにあるものなーんだ。
その答えが現時点で得られた成果だった。
まあそんな訳で最近は魔力(仮)を意図的に動かす訓練をしている。
ではなぜ魔力(仮)を動かす行為をなぜできることに入れないのかといえば、
めちゃくちゃ疲れるからだ。
例えばこうやって丹田から腕の方に、んぎぎぎぎ―――――――ぁ。