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第一話「現実逃避」


......どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。


俺としたことがゲーム中に寝落ちだなんてゲーマー根性が足りてないな、全く。


電気を消した覚えはないのだが、見渡す限り辺りは真っ暗である。


まだ日も昇っていないようだし、昨日どんなふうに寝たのかでも思い出すか。


昨日で俺の高校生活は終わりを迎え今日から春休み。


時間ならたっぷりあるのだ。






昨日は朝仕入れた情報を元に『フォルクレストオンライン』を縛りプレイしていた。


方法は初期のポイント振り分け画面で称号【領主の証】を取得するだけ。


すると本来は全て振り分けないと通過できない振り分け画面を


デメリット(メリット)無しに、見事通過することができるのだ!!


さらにはステータスにマイナス補正が掛かるらしい。


うむうむ、実に素晴らしいな。


数回のプレイを通じて分かったことがある。


【領主の証】を取得した場合、定石通りのプレイではまずクリアできないということだ。


『フォルクレストオンライン』は一言でいえば国取りシュミレーションなのだが


定石と言われる方法は大きく二つに分けられる。





一つ目は初級~中級者向けの立地・人事を重視するタイプだ。


開始位置はできる限り資源が多く、特産品がある場所を選ぶ。


選べる場所は「立地に振ったポイント=質×広さ」の計算式で


立地に振ったポイントのぶんだけ選択肢が増えるのだが


始めに立地に多くのポイントを振るこのタイプでは正攻法で


広く質の高い土地を選び、豊富な人材を活かして少しずつ勢力を拡大していく。


ちなみに優秀な人材はプレイヤーの選択に対してアドバイスをくれるのだが、


これが初心者はとりあえず人事に振っとけと言われる由縁である。


初心者プレイヤーは優秀なNPCから『フォルクレストオンライン』を学び成長するのだ。




二つ目は上級者向けの軍事・内政を重視するタイプだ。


立地にほとんどポイントを振らなくても、いくらかは開始位置の選択肢があるので


自領の広さ・質は無視してとにかく周りが豊かな土地である場所を選ぶ。


そして圧倒的な武力によって短期間で勢力を拡大、使える人材の確保をする。


軍事・内政にポイントを振ると自分のステータスに補正がかかり


最終的に自キャラが強くなりやすいため終盤の領地拡大が容易になるのだ。


ちなみに自領の初期人口は広さに依存するため軍事に多くポイントを振り、


狭い土地を選ぶと領民がほぼ全員、優秀な兵士という状態が起こったりする。


ちなみにこうなった場合でも自領の名前がスパルタになるなどといった要素はない。





それでは【領主の証】を取得してゲームを開始した場合はどうなるだろうか。


先ほどは定石通りにプレイしていてはクリアすることができないと言ったが、


そもそもポイントを振っていないので、定石の状態を作るのは不可能という方が正しい。


まず立地にポイントを振っていないので、初期位置の選択肢は多くない。


どこを選んでもいい土地だと言うには程遠い場所ばかりで、普通に生活するのも苦しいだろう。


軍事にも振っていないので、他領を攻める事での状況の改善も望めない。


それどころか侵略される方の心配をしなくてはいけなくなった。


選択肢のなかでは割と発展したエリアを選んだ時など、


三日で他領に攻め落とされたのだから軍事0がどれだけひ弱なのかが分かる。


一つ目のタイプをそのまま劣化させたエリア(つまり広くなく質も悪い)


を選んだ時には攻め込まれこそしなかったものの冬を越せず全滅した。


これは立地が悪いのに加えて、自分及び部下の執務・運営能力が低いせいで


状態が改善できないまま食料不足に陥ったのだ。


これが現実であれば口減らしが行われ全滅はなかっただろうが......


苦心の果てに行き着いた方法は、初期位置を辺境の地にして


広さの倍率を最低まで下げることだった。


面積が減れば人口も減り、不作でも自然のモノを採取することである程度賄える。


辺境の地ならば他領から責められるということもなかった。


初期の領地面積を最低倍率にしても、ゲーム内の辺境では規模的に大きい方であるし、


それ以上の規模の領からすれば豊かでもない土地を責めても旨みが少ないからだろう。


そして攻められることなく着々と力をつけ、周囲の勢力を吸収していったものの


夜中のテンションで勢いのままに同規模の領に戦いを仕掛け敗北し、


ゲームオーバーとなったところで記憶は途絶えている。


おそらく悔しさの余り、枕にヘッドバットしてそのまま眠ってしまったのだろう。





ところでなぜ俺が目が覚めたのに動き出すこともせず、


長々と追想に耽っている理由をそろそろ説明しよう。


なぜなら......体が動かないからである。


嘘です。


まだ日が昇っていないからゆっくりしているなんてのも言い訳である。


実際には現実逃避していただけだ。


体は動く。手足だけという条件つきではあるがね。


首は軽く持ち上げるだけですぐに疲れるし、寝返りだってうてない。


暗闇の中とはいえ手を顔の前にかざせば、自分の手や周囲の様子ぐらいは普通に分かる。


とても小さな手だ......そろそろ自分をごまかすのも終わりにするか。


いい加減聞いてくれる相手のいない冗談を言い続けるのも苦しいしな。


本当はもうだいぶ前から分かっている。


今俺が見ているのは紛うことなき赤ん坊の手だ。


ともなれば当然のように体も赤ん坊ということになる。


まだ理解が追いつかないが......どうやら俺は転生とやらをしてしまったらしい。

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