アナウンスジャック
夜の東京、線路沿いのやたらとゴミ箱の多い細い路地、とある電車を追いかける、酔狂なタクシーが一台。いや酔狂なのは追い掛けろと命じたお客の方だ。
……
*タクシー内。
窓から顔を乗り出し、父の乗った列車に叫んでいる客。
ゆうき「うおっしゃあ!!絶対つかまえたる!!」
運転手「お客さん 危ないんで顔引っ込めて(怒)!!」
20時45分。隣の町の駅にて。
急いでタクシーを飛び降りるゆうき。
運転手「コラ 金払え!!」
手の平を運転手の彼にかざしながら、
「後で!!」
と言って駆けていくゆうき。
*駅構内。切符売り場。
「くそ…!!!発券機のれーぞ…(怒)」
ガチャガチャ発券機をいじくりまわすゆうき。
後ろではタクシー運転手がこちらへ早足で向かいながら、何やら駅員に大声で叫んでいます。
「おい 駅員!!そこのガキひっぺがせ!!」
ひょーーーーい!
運転手「あっ!!」
駅員「こらガキ!!」
我慢できなくなったゆうきは改札の扉を飛び越えてゆきます。
ホームに着いた彼は走りながらひらひらひらりと体を一回転させ、360度確認を済ませます。
そう、もう彼は二の舞は踏まないのです。(何の二の舞だよ)
そしてホーム上から線路のある砂利の上へとジャンプで降り立ちました。
足にビリビリ…
ゆうき「意外と高い…」
(アホか…)
少し後ろから「あーーーーっ!!」という駅員の声が聴こえてきますがゆうきは気にも留めません。
ただ目の前に停まっていた電車の窓には、驚いた顔がいくつも、しかも満員だからいらんくらいの注目を浴びてしまうゆうきであります。
彼は一瞬ぎょ!!としますが、
『・・・やむなしο』
諦めます。
*一方、電車内。
そんなゆうき(息子)を発見し、メガネ上司も置いて、周りの人を、「どいて!」「どけ!!」と押し退けながら満員の中を押し進むハゲおやじ。
ゆうき『親父みっけ!…人波クロール?』
*
とある電車から「わっと!」とかつまづきながら慌てて飛び出すオッサン。
その電車の脇のホーム下からホームに「ふん!」と上がってくる少年。
目をまん丸にしたまま少年を顔で追い続ける車掌。
心臓が止まるかに驚いてゾンビの襲来かの如く身構える隣を歩いてきた一般客。
*
ハゲ「うわああああ!!」
全速力、しかし重たい鞄は大事そうにしっかと握って逃げる彼。
「なんで逃げる!!」
眉間に怒りマークを浮かべながらこちらも全力で追い掛ける彼。
わーーーーーーっと駆け込んだのは別の列車。父だけ。
プシューーー バタン!!
ゆうきの前で突如閉まる扉。
『何でっ!??』
ゆうきは、とある手段に出た…。
………
「〇〇方面行き発車致し「車掌ォオオオ(怒)!!!」」
もちろん車内にもアナウンスされております。
ハゲ親父、地震が起きてもこんなにはビクつかないでしょう。いまでも汗だくなのに脱水するんじゃないかと思えるほど汗がふきでてきます。
もちろん乗客全員が死ぬほどビビってましたけどね言うまでもなく。