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カネくれ  作者: バカ野郎
2/6

W逃がし



 「くそっ…どこ行きやがった…」


 夜の街明かりの中。父親を見失ったあたりで、まわりを見回すゆうき。


 一方ビルの影に隠れ、離れた場所からの息子の

「ちっくしょー…」

という嘆息が聞こえ、見つからないかの焦りと、逃げまくりな罪悪感を感じながら、佇む父。


 息子は耐えかねて、大声で


「クソオヤジーーー!!!」


と叫ぶ。

 何事かと周りの通行人が驚いて目を向けたり、気が狂った人でも見るような目で見たり。


 ハゲ:叫ぶなバカ!!


 ゆうきは肩を落とし、Uターンして、とぼとぼと歩き始める。


「ったく…俺が4度も逃がすとは…逃げ足だけは一級だな…」

 そう、何度も見つけては、逃げ足にまかれている。


 それを聞いてハゲ。


 うぅ…情けない…。逃げ隠ればかり…。出ていくか…。


 自首覚悟。


 ゆうき「次こそ捕まえてボコボコにして吐かせて(白状させて)やるからな〜〜〜…」


ハゲ:やっぱりやめよう。

 トコトン情けないオヤジでした。





 カラララ…


 シューーン…と縮こまったように、最初の意気はどこへやらで店に戻ってきたゆうき。


 厨房に入ると、店長はフライパンを振って、中のチャーハンらしき何か料理を、ジャッ ジャッ とふるい混ぜながら、こちらを向かずに問うてくる。



「おう、どうだった?新人」


「ダメっした!!すみません店長!!クビなりなんなりしてください!!」


 店長は、少し考えてから、


「今回は許す。お前のオヤジさんも、もうここには来んだろう」


 ゆうきがまた追いかける事態にはならないということだ。


「だが一つ貸したと思え?俺が呼び出したときは真夜中でも飛んで来い。いいな?」


 ゆうきはビッ と敬礼し、


「うぃす!あざす!!」


と応じる。





 翌日。


「くあ〜〜〜」


と布団から起きて、あくびしながら伸びをするゆうき。白い透けのカーテンから洩れるまばゆい光と、スズメのさえずりが朝を告げる。目覚ましの時刻は6時15分。

 ゆうきはカレンダーに目をやる。

 今日の日付は1月10日。父親を捜しに東京へ来てひと月が過ぎていた。


「つーか金ねーの親父捜すからじゃん。」


(今更きづくか。)


 服を着替えながら


「捕まえたらまず金を請求してやる」


とひとりごちる。


 ラーメン屋は8時からだし、少し散歩すっか…と、カーテンを開き、外を眺めた。


!?


(ゆうきの住むのはアパートの2階の部屋)

 見覚えのある姿形の中年男性が、歩道を歩いているのが見えた。


 昨日の親父のツレ!!というかただの上司?


 2階(上)から見下ろす形なので、余計なものまで見える。


「ハゲてんな…オヤジほどではないが」


…と、余計なことを考えている場合じゃない。


「どこの会社にいるのか、これでわかるぜ」


と、部屋を後にし、急いでアパートの階段を下りる。

!!


 下りきって、小ハゲメガネはすぐ見つかるが、彼は道路脇で手を挙げていた。

 タクシーを拾う気だ…!!


 まずい!と思っていると、恐ろしい速度でやってきたタクシー(よく捕まらねぇな!)が、恐ろしいブレーキ音であっという間にメガネの真ん前ピタリと停まると、恐ろしいほど間髪置かずに扉が開く。


 そしてメガネは「よいせ」とか言いながらのったりと後部座席に乗り込むが、タクシーの挙動がいちいち素晴らしい。


「まてコラ!!」


 (待つわけねーだろ叫んでも)


 ゆうきはタクシーの後ろのトランクに掴まるぞ!という気で跳んだが、タクシーは一言、


ブォン!!


と言い放ち、臭くてモクモクとした、黒い煙を彼の顔にぶちまけると、タイヤをギャリギャリ言わせながらものすごいスピードで走り出した。


 トランクに掴まり掛けてスカしを食い、黒い顔で黒い地面と、顔ごと 痛すぎる初キスを交わし、一瞬体がこわばりついたが、


「ぬ゛ん!!」


と、怒りで(というより鼻血で)赤に染まった顔を、標的;タクシーに向ける。


 彼は ドオオウ !!と走り出す。これでも高校では3年間、長距離短距離、地元の県では彼の右に出る者はいなかったほどの駿足である。走っている様はまさに鬼神!凄い速さだ…!!


しかし…10秒後には、ゆうきのビジョンは、どこまでも続く砂漠、水平線に沈む大きな夕陽。その夕陽の中に、砂煙を舞い散らしながら猛スピードで遠ざかるタクシーのシルエット。俺は砂漠のど真ん中に、


「追いつけるワケないよね(笑)(泣)」


…と自嘲しながら、息も切れ切れ立ち尽くす…というものだった。(うん、もちろん、空しくなった彼の状況のたとえだからね?勝手に別世界に移動したとか思わないでよ?)



 ちっ

 金があればタクシーで追っかけるのに…


と、片手は鼻血を拭い、片手は骨をポキポキいわせながら、悔しそうに去った方向を見つめるゆうきでした。


つづく。


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