見っけ
彼(長滝ゆうき(20))はいつもの如く郵便局から金を引き下ろすため、ATMをつかっていた。とりあえずいくらあったけな〜と残高照会から。あまり将来のことや利便性を考えない彼は口座はここしか持っていなかった。
残高:1000 円
…………
全財産 ¥1000!!?
彼は衝撃を受けた。
ようするにバカである。…がそれは置いといて。
彼は考える。
なぜだ!?
なぜだって俺が遣ったからだ…
しかし…こんなに!?
真正のバカである…がこれが彼なので仕方ない…
彼はいま記帳されたばかりの通帳を確かめる。
間違いない…
俺が遣ったらしい…
と考える彼の手は震えていた…
まるで理不尽な何かに金を吸いとられたのに自分は気づけない様子、狐に包まれたようだ。
彼は
なぬうぅ!??
今月あと20日もあんのに…!!
とショックで身悶えし、後ろのATM待ちのオバサンが何事かとびっくりする。
くそ…
どうすれば…
稼ぐしかない!
彼はそう結論した。
東京の夜。
大笑いしながら互いに肩を支え合ってふらふら歩く中年男が二人。片方は標準より少し背は高め、体格は普通。髪の毛はまだかなり残っている方だ。15㎝くらいに伸びている。顔は、顎は四角いが面長。まぁ長方形ということだ。そして眼鏡を掛けている。
他方はもう髪は大分後退してハゲである。頭のてっぺんから半径12㎝から下はまだこゆくも薄くもない程度に残っている。眉毛が濃ゆい。顔の形は片方とは対照的に、丸い。体格もいかにもな中年オヤジとううかんじなぼってり(まぁぽっちゃりともいうが)している。
二人とも大分酔っているようだ。
メガネの方が言った。
「オォ?長滝クン 私はこのラーメン屋 気に入ってるんだ 入ろう!!」
ハゲが返す。
「ははぁ 初めてですな私は 行きましょう!」
ガラララ
「ヘイ ラッシャイ!!」
扉の音と同時に快活な声が店内に響く。長滝ゆうきは厨房で店長を補佐しながら、入ってきた客に顔を上げ、元気に挨拶をした。
そして目をまた作業している手の方へ戻して…
!?
何かいま…
それからまた客の方を見、目を見開いた!
ハゲも大笑いの余韻たっぷりの笑みで、声のあった方を見、
!?
それから急に笑みがひきつりに変化すると、目を見開いた!!
!!!
「ぶっ ぶ ぶ ぶ 部長!!」
いきなりの大声にメガネはあまり驚かないが、ハゲの顔は明らかに焦りしかないことは見て取れた。
「オォン!?どうした急に…」
ゆうきはいつのまにやら厨房から出て袖をたくし上げ
「また逃げる気か クソオヤジ…」
にがすかよ…
などと言いながらずんずん彼ら…というより彼のもとへ歩を進めていた。
ハゲはといえば
「今日は結婚記念日でした!!今すぐ帰らねば!!」
ガラララッ!!
「待ちたまえ長滝クン!!」
呼び止めるのなんて完全無視。すごい速さで逃げた。
「別居中なんじゃなかった
のかーーー!!」
などと叫んでみても、一向に戻…というかもう足音すらどっかちっている。
聞こえてくるとすれば「すたこら」という効果音くらいだろう。
メガネはラーメン食べる気しかない上、自分の財布の中は今日の所はもうすっからかんなので
足音が去った後も、
金は誰が払うってんだ!
とぶつぶつ(といっても酔ってるので大分大きな声だが)ぼやいている。
と…直後、メガネは背中にゾクッと寒気を感じた。
殺気!?
「どけ オッサン」
と突然後ろから襟を掴まれ、ぐいっと斜め後ろに引かれる。
「うおおお!!」
「まて 新人。」
しかし次は店長がゆうきの襟を後ろから掴む番だった。
「うおおっ!!」
ぐいと引かれ、後ろにコケそうになりながら体勢を立て直すゆうき。
店長はすごい形相でゆうきを睨むと、地を這うような声で、
「きさま 今 客に何しおったねん…」
(ハイ。店長関西出身です)
ゆうき’s脳内ではいま、バイトクビとオヤジ捜索が天秤にかけられ、ゆらゆらと揺れている。しかしやはり、父親の方に傾いた!
「すみません店長!けどいま蒸発中のオヤジを見つけたんです!悪いすけど追いかけさせて下さい!!」
すると店長 即座、
「なんだと!?それを早く言え!ワシは今生の別れの原因にはなりたくないわい!!
さっさといけ!!」
なんとまぁこう言ってくれたのです。
マジか!↓
オヤジ:〇
クビ:×
「あざす 店長!!」
もう既に駆け始めながらでお粗末だが店長に感謝して、父親を…まだかろうじて見えるとこを走っている…
追いかけた。
店長は彼を見届けると、「さて 仕事仕事!!」と くるりと背を向け厨房へ戻っていった。
メガネ:私は……?
店長「ラーメン食わねぇならけぇれよ(帰れよ)あんた」
酒が回りすぎて思考もままならなくなったため、何かが変な気がしたが、メガネは店を撤退した…