第92章「変わらないもの②」
三人並んでベンチに腰掛ける。好子を真ん中にして――。
そして好子は改めて美乃理の親友であるという女子、忍を見つめた。
美乃理にふさわしい友達だと思った。
御手洗先輩に学校だけでなく、こんな友達がいたんだ。学校だけしか知らないので、垣間見れたことはうれしかった。そして学校の外でも美乃理はやはり美乃理であった。
知れば知るほど好子の中で輝きを増していく。
その間も、美乃理と忍はいくつかの会話を交わす。
「正愛学院の新体操部、今度一度うちの部員も連れてってみたいんだ」
「歓迎よ、シノちゃん。部長にも話しておくから」
忍は好子にも語りかける。
「どう? うちの部は。伝統ある正愛の新体操とは比べものにならないかもしれないけど……」
「そ、そんなことないです……熱心に練習してて……。でも共新中学に新体操部があるって、すみません、今知りました」
「それもそのはずよ、うちの部は一年前、できたばっかりなの。多分知ってる人は全然いないんじゃないかな?」
「一年前、ですか?」
好子は驚く。
「共新には元々はなかったの。新体操部ってどこの学校にあるわけではないから」
美乃理も身を乗り出して会話に加わる。
「シノちゃんが、やりたい子を集めて何人かの仲間があつまって作ったのよ。共新の新体操部は――」
「あ、でも、去年はダンス部とかとかけもちの子もいたから、実質3人だけだったのよ」
興味は持つが、実際にやろうとするのはほんの一部。
「勧誘を一生懸命やって、今年部員が3人入ったのよ。すごく嬉しいよ。晴れて正式に部に昇格できたから」
「すごい、流石シノちゃんね」
「私以外は経験者がいなくて、顧問の先生も未経験者だから上級生からのノウハウもなくて、全て手探りで……でも去年はそれで学園祭で初の演技をやったのよ。すごい好評で泣いた子もいたっけ……。仲の良さは一番だよ。学年も先輩も後輩も無いし。人数が少ない分結束の強さだけは自慢かな」
練習場所も他の部が使っているから体育館やホールはなかなか使わせてもらえず、こうして川の土手の公園で練習している。
手具や衣装にも揃えるのに苦労している。
けれども、確かにメンバーは、楽しそうであった。
部の洗練さでは劣るかもしれないが、スキルや運動能力だけではない、新体操をやりたいという思いで集まっているのがわかる。
「全員野球って……お父さんがよく野球が好きだから使うんだけど、うちは全員新体操だよ」
忍が二年生で部長を務めているのもそれが理由、とのことだった。
忍の自己紹介もかねた雑談が一段落して、会話がとぎれる。
「話、長くなっちゃたね」
忍が傍らの鞄から水筒を取り出して、二人に勧める。
美乃理は、ためらうこともなく、口にする。好子もそれを回し飲みにする。
「それで、シノちゃん。お願いなんだけど……」
「うん、昔のあたしたちのことを話せばいいんでしょ?」
まだ合点がいかない様子の好子であった。
「美乃理ちゃんが、いろいろと後輩のことで悩んでいるって聞いて……、あたしも会ってみたかったの」
「そんな、すみません。あたしのことで……先輩と忍さん二人に迷惑かけて――」
ガタっと立ち上がり、好子は頭を下げた。そのせいでコップの水が揺れた。
「いいのよ、わたしも話したいの」
好子がベンチに再び座ると、忍はまた話し始める。
「新体操を始めたきっかけは、好子ちゃんと同じ。新体操の舞台をみて、あたしもやりたいと思ったの。あたしみたいな子があんなになれるかなってでも一人だと勇気がなくて、美乃理ちゃんに声をかけたんだ」
美乃理も思い出す。
それは……稔から美乃理になった、まさにその日だった。
だからこそ、自分は美乃理として、あの日に送られたのだろうと思っている。
「あたしが、新体操を始めたきっかけはシノちゃんに誘われたからなんだ」
好子はさらに驚く。美乃理が新体操を始めたきっかけが、忍であること。
「公文に行ったりお習字に行ったりしている子が多かったけど、美乃理ちゃんは特にやってなかったし、美乃理ちゃんはきっと向いている子だって思って声をかけたの。一人はすごく不安で仕方なかったの」
「で、でも忍さんなら、十分だったんじゃ……」
話は核心に行く。忍なら、その最初のきっかけさえ掴めれば後は問題はないのでは――。
美乃理がいたのならなおさら。
忍は、首をふった。
「あたし、昔はぽっちゃりしてたんだ。よく口の悪い男子に子豚ちゃんとかよばれちゃって……」
「う、嘘!? そんなの、全然綺麗で痩せてるじゃないですか」
「ありがとう、でも……本当よ?」
今、好子が目にしている忍は、生まれつきの体格はそのままにしろ、太っていたというには見違えるほど細く、新体操をやっているにふさわしい体だった。
丸顔にかつての面影をしのばせていたが――。
驚く好子に忍が傍らから取り出してスマートフォンを見せた。
写真だった。
美乃理と忍の二人の写真が写っていた。
どこかの発表会かどこかの会場だろう。
美乃理が誰かは一目でわかった。今も変わらないポニーテール。
ピンク色のレオタードの美乃理は幼い姿でも可愛かった。面影がありつつも幼い少女らしい可愛らしさがあった。やや恥ずかしそうにしているのが、何故かいじらしい。
「あ、懐かしい。初めての発表会の写真――これ、花町クラブの時のあたしたちだよ」
美乃理も、思い出した。自分が美乃理として新体操をやっていくと決意した日。
「見て、好子ちゃん。これ、昔の私なのよ」
隣にいる少女を指さした。
そこには好子ほどではないにしろまるまるとふっくらした女の子がいた。優しい穏やかな笑顔は変わらないが――。
「……」
好子は言葉がでなかった。
「この頃は、キッズコースっていって、初心者向けの週三回やるコース。楽しかった。美乃理ちゃんと一緒でよかった。みんな美乃理ちゃんといると、頑張っちゃうんだ」
運動が苦手だった忍も続けることができたことで自信に繋がったのだ。
好子も、その頃から美乃理に他の女の子に影響を与える力があったのかと驚く。
「ずっと楽しいまま、一緒にいられれば良かったけれど――。美乃理ちゃんは、上へ駆け上っていった」
「どういうことですか?」
「育成コースっていって、本格的に選手を育てるクラスに美乃理ちゃんは移ることになったの」
忍のぽっちゃり設定を覚えてた方はいるでしょうか。随分前のことだし……。




