表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/164

第91章「変わらないもの」

 少しだけ付き合って欲しい。

 その言葉に従い、好子は美乃理の後を歩いた。

 川の土手を歩き続けていると、最初はすれ違う学生たちの中に、正愛学院の生徒の制服をちらほらみかけたが、それ以外の制服がちらちら見えるようになった。

 と――。

 美乃理は土手から川縁へ降りる。


「好子ちゃん、こっち」


 この辺りの川縁は広いので、公園や野球場、サッカー場などが連なっている。

 草もよく手入れされていて、子供たちも野球をしたりしている。

 スポーツや運動にちょうどよい場所だった。


「いっち、に、さん、し」


 数人のかけ声が耳に届いた。


「!?」

「ほら、バランスに気をつけて」

「体が曲がってるよ」


 いちいちはい、という返事の声が聞こえてくる。

 そのかけ声の元を辿ると、何人かの少女たちが集って練習に励んでいた。

 好子にも見覚えのある光景だった。

 手拍子にあわせてステップを踏む。


「あれは……」


 好子にもわかった。一見するとダンスか何かの練習と区別はつかないかもしれないが、バランスや足さばきが、特徴的だ。新体操部の練習だ。ステップを合わせる練習をしている。


「わかった? 好子ちゃん」


 美乃理の目的はどうやらここだと好子は理解した。

 新体操の練習であるが、顔は知らない。正愛の生徒ではなかった。

 別の学校のジャージや体操服を着ている。共新中学――。背中にその名前が刺繍されていた。


「あの子たち、共新中学の子よ」


 やはり……。

 どことなく、垢抜けない感じを受けた。

 痩せ形の子ややや太め――身長の低い子がいて、練習の熟達度もまだまだ――。

 姿勢やバランスリズムなどのずれがあると、すぐに的確な指示が飛ぶ。

 いかに正愛の新体操部が洗練されているのかが、わかる。

 こちらは、全体にのびのびとしていた。だが、練習は真剣だ。

 そして楽しそうにしていた。


「さあ、あともう少し――あ……」


 美乃理たちが声をかける前に、その中の一人の女子生徒、リーダー役と思しき子が美乃理と好子の姿に気がついた。 


「あ、みんな。ごめん、ちょっとあたし、用事があるから、少し外させて。練習は続けてて」


 その女子は、一端練習を止めて、練習仲間に一声かけた後、美乃理の方へと走ってきた。


「美乃理ちゃん!」


 件の少女は二人にかけよると、名前を呼んだ。

 つまり、美乃理の知り合いということだ。

 そのおかっぱ頭を少しのばしたような髪型――。

 おそらく新体操をしてきたと思われるすらりとした体型は、美乃理の新体操を通じた友達らしい雰囲気を醸し出していた。

 自然、好子は姿勢をただし居住まいを改めた。


「ごめん、無理いっちゃって……」


「ううん……ぜんぜんいいよぉ」


 親しい間柄であるのは明白であった。

 残された他の共新中学の生徒たちは、何事かとをこちらに視線を送る。


「ほら、みんな、練習練習!」


 指導役の女子生徒らしきその子は振り返る。


「きゃあ、正愛の御手洗さん!?」

「うわー、すごいあえると思わなかったあ」


 遠巻きの声が聞こえる。

 美乃理とその少女は気にしない。


「久しぶり! 美乃理ちゃん」


 美乃理の手を取った。


「もう、先週会ったばっかりでしょ?」

「でも平日に会うなんて最近なかったらからねぇ。お互い忙しいし」


 親しく会話をするところが二人の仲を伺わせた。


「それで、お願いごとがあるんだけど――」


 そしてすぐに話題に移った。


「うん、わかってるよ。例の件でしょ?」


「相変わらずね、美乃理ちゃん」


「あの……」


「あ、お互い紹介が、まだだったね」


「この子は好子ちゃん、うちの新体操部の一年なの」


「よろしくね」


 自然な笑顔を浮かべる。少女の朗らかさは天性のものらしい。


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」


 明るい笑顔が警戒と緊張をほぐしていく。


「好子ちゃんのこと、聞いてるよ。新入生で凄く頑張ってる子がいるって聞いてるから、一度会いたかったんだ」


 向こうから語りかけてきた。


「え? なんで……わたしのことを……」

「ごめんね、ちょっと好子ちゃんのことを彼女に、しゃべっちゃってたんだ」


 そして美乃理は好子に、その少女を紹介する。


「彼女は楢崎忍さん。シノちゃんって呼んでる、あたしの小学校時代からの友達なの。小学校の頃からの親友で、同じ新体操クラブで――それから、共新中学新体操部部長なの」


「よろしくね、好子ちゃん」


「は、はい」


 屈託のない笑顔を向けられると、好子も思わずつられて微かに笑いながら返事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ