第76章「新しい日々②」
そうこうしているうちに――。
「おはようございます!」
「おはよう!」
体育館に挨拶の波が起こった。
続々と登校してきた部員たちが練習場へと流れ込む。
「うわ、御手洗先輩も……藍ちゃんまで」
後から来た一年生部員は、既に練習を始めている三人を認め、遅れをとっていることへ悔しそうにする。
二年生の赤のジャージ、三年生の緑のジャージ、一年生の青のジャージ。それぞれ着替えを終え続々と集まってくる。
練習場に人の熱気が集い始める。
中等部部長の高梨さんから朝の簡単なミーティングが行われる。そろったところで朝練メニューを始めた。
「一年生は引き続き基礎練習を重点においた練習を、二年生と三年生はそれぞれ大会に向けた練習をします」
「特に……御手洗さん、あなたは今度の大会に向けた調整が中心ね。課題点を覚えてるわね?」
「はい、ジャンプしたあとの姿勢のぶれをなくすことを中心に練習をします」
先輩であり部長でもある高梨に笑顔を返す。
そしてまずは軽いランニング。
柔軟体操、基礎運動。
朝の冷たい空気が今は練習に打ち込む女子部員たちの熱気に変わりつつあった。
朝はレオタードに着替えることはせず、ジャージのままで始める。
三年生は緑、二年生は赤、一年生は青のジャージ、その三色が入り乱れる。
実に五十人に達するうごめきは、壮観だった。
その活気は稔の時と比べても賑わいがあった。
新体操部の存在自体、知っている人は知っている。その程度だった。
が、今は倍以上に増えていて、活動はさらに活発だった。
練習も、今では一番大きな体育館の練習場を使っている。
最も活発な部活となっているのだった。
新体操部の強い学校ーー
全国にもその名が知られるほどになっていた。
校舎には祝、インターハイ出場の垂れ幕もある。
ここまで成長した理由は美乃理一人によるものではない。
誰もが知っている。
美乃理より少し前に入学した一人の女子のおかげだ。
龍崎宏美。
全国にもその名を轟かせたその存在は部を飛躍的に発展させた。
美乃理にとっても、近づいたらまた一段遠くなる目標だ。
稔の時とはまったく違う光景だった。
「イッチ、ニ、サン」
唱和が体育館に響く。
女子の体は冷えやすい。真冬というわけではないが、朝の冷たい練習場の床に触れていると、冷たさが染み込むように痛く感じる。
寒い時期は特に辛かった。
冷えすぎないようにと今もスポーツ用の靴下を穿く。周囲の女子たちも大抵そうしている。
けれども、女子部員たちの熱気がその感覚を吹き飛ばしてくれる。
(あの時と同じだな……)
かつてみた光景、自分が今その場に立っている。
いるはずのない、少年の稔がそこにいる。
今――
美乃理となって新体操をする自分を見てほしい。
ただ見ることしかできなかった自分が、今こうしていることに――。




