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第62章「美乃理(みのり)と再び始まる新体操」③

「よろしくお願いします!」


 一番最初のあいさつで、キッズコースの女の子たちの元気な声がホールいっぱいに轟いた。


「はい、今日も練習頑張りましょう!」


 さすがに柏原コーチも今日のキッズコースの熱気に驚いていた。

 言われずとも練習に励む、前回の練習のおさらいをするレッスン生たち。

 こんなに熱気のあるクラスは初めての経験だった。

 やる気のない生徒、最初は一生懸命だったが、興味を失っていく生徒が、大抵はいるのだが、このクラスに限ってはそれがない。


「皆、偉いわね」


 クラブの子たちのその生き生きとした表情を眺めた。

 美乃理の姿を見つめて、小さな微笑みを柏原は浮かべた。


 レッスンの内容は一層濃くなっていった。

 柔軟体操や基礎的動作、そして発表会の動きにたっぷり時間を費やした後、新しい練習メニューが加わった。

 忍も汗を浮かべながら動かした。

 その中で一際綺麗にやるのは三人

 麻里も亜美――そして美乃理だった。


「亜美ちゃん、練習したのねえ。動きが正確で滑らかね」


 亜美はしっかり柏原コーチに誉められていた。


「あら、美乃理ちゃん、その足どうしたの?」


 コーチは美乃理の足、すねにかけてやや小さな擦り傷があることに気がついた。


「あ、これ……サッカーで……」

「サッカー?」


 ちょっと意外な顔をされた。忍が美乃理ちゃんって学校では元気なんです、とフォローを入れてくれた。


「元気なのはいいことよ。でも足を怪我しないようにしないとね。怪我しちゃったら発表会がでられなくなっちゃうわ」


 美乃理に意外な一面があるんだ、と柏原は驚きの表情を浮かべる。

 美乃理がサッカーを目一杯やる、そういう子には見られなかったようだ。

 練習は柏原コーチからしっかり注意された。


「ちゃんと覚えてないと駄目よ」


 個々の柔軟基礎レッスン、発表会でやるはずの動きを忘れてしまっていた。ステップするタイミングや細かい手足の動きを外してしまう。頭では覚えている。けれども、体がついていかない。

 おそらく家での練習が足りなかったのだろうと自分自身で感じた。

 しっかり家でも練習していた亜美や麻里は動きをミスしないうえに、その動きが綺麗だ。

 練習は週二回。家での日々の練習が大事。

(おいてかれちゃったんだ……)

 新体操とサッカー、両方ものにするのは自分にとっては難しい。

 二兎追うことができる子は中にはいるかもしれないけど、美乃理は自分がそこまで強くないことを知っている。


 そして新しい練習が加わった。


「今日はボールを使って練習します」


 ジャージ姿の柏原コーチは皆を一カ所に集めて自分の周りに座らせる。

 そして用意していた道具を取り出す。

 サッカーボールよりも弾力性に富むボールだ。

 パンパンに空気を詰め込んで膨らんでいるわけではなく、ある程度弾力を持たせている。


「ボールは掴んではだめよ――こうやって手に滑らせるの」


 持ち方、扱い方の説明と簡単なボールの練習を始める。

 教えられたのは新体操での手具としてのボールは遊び道具ではなく、美しく見せるための道具であること。

 ボールをついたり、高く放りなげたり、腕の上を上手く転がすこと。

 ただそれだけの動作を、美しく綺麗にみせないといけない。

 龍崎宏美がみせてくれたような体を滑らせたり、動きと組み合わせたりするような難しい技は練習が必要なように思えた。

 そして、昨日は足で蹴るためだったボールは、今は、手足体全体で扱い、より自分を美しく華麗に表現するためのものだった。

 その扱い方に美乃理は腐心していた。



「今日の美乃理ちゃん、前回と違ってるわ……ね? 龍崎さん」


 美乃理がボールの扱いに苦戦する様子を見ていた柏原は、傍らの宏美に語りかけた。

 今日も早めに練習場に入った宏美は、キッズコースの練習を見学していた。


「ええ、美乃理ちゃん、今日の表情は前と違います」


 宏美はじっと美乃理から目を離さない。

 不慣れな手つきでボールを扱う美乃理を宏美は眺めていた。

 だが、美乃理の瞳は相変わらず真剣であることは見抜いていた。


「また一つ階段を上がって私の後を追って来たのね――」


 宏美は誰にも聞こえない小さな言葉で呟いた。


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