第58章「美乃理(みのり)と放課後とサッカー」②
美乃理は健一たちによって近くの公園へ行った。
学校の校庭にあるサッカーゴールは高学年の子が使うので、使用できないからだ。
その公園の広いところで壁打ち用の壁や、地面に描いた線をゴールに見立てて、蹴り合う。
元々、11人はとても集まらず数人でやるから正式な試合のスタイルはもちろんできない。
サッカーといっても、自分たちで作った独自の仕様のゲームだ。
適当に広さを決めてその中でやるのだ。
単純化されているが、その分少人数でも遊べる。多分このゲームは代々受け継がれたものだろう。
林君、江口君、木村君に秋本君等々――建一がよくサッカーをやるメンバー達だった。
「お、今日は御手洗がいるのか」
新しいメンバーの参加に珍しそうな顔をしたが、戸惑ったような表情はなかった。
「うん、今日はお願いね」
滑り台の脇に固まっておかれているランドセルに美乃理も置く。
黒い中で一つだけ赤いランドセル。
「じゃあチームを決めようぜ」
じゃんけんで2チームに分かれた。美乃理は健一と違うもう片方の秋本君の組に入った。
「御手洗、って足速いんだよなあ。期待してるぜ」
「ようし、健一たちをやっつけようぜ」
秋本君は、他の二人のチームメンバーに手でタッチをする。
「御手洗!」
秋本君は美乃理に手を出してきたので、タッチする。
「いいか、行くぞ」
ホイッスルなどもないが、初めは二人でボールを蹴って開始するのは本物を真似ている。
それなりに形にはこだわっている様子がうかがえる。
健一がボールを蹴ってすぐ隣の男子に渡す。
ゲームの開始だ。
美乃理たちのゴールめがけて蹴り出す健一とそれを防ごうとする秋本君たち。
早速、秋本君と健一がボールを取り合う。
さらに味方の二人と建一たち敵チーム二人も突っ込んでくる。
「あ、ちくしょう!」
「御手洗!」
秋本君が健一がキープしていたボールを奪い取ってこっちにボールを蹴飛ばす。
「あ……」
眺めていた美乃理だが、我に返ってボールを同じように追いかける。
(そうだ、ボクはゲームの一員なんだ)
こっちに飛んできたボールを捕まえて蹴り出す。
そうすると味方の秋本君や敵側の健一が美乃理にすぐに食らいついてくる。
奪われないように、逃げるが、健一たちもおいすがってくる。
「うわ……」
追いついた健一はボールを奪おうと足を激しく出してくる。
慌ててなんとか回避しようとするが、今は敵チームの健一は容赦なかった。
そこへ他の男子も集まってきて、ボールを巡った激しい競り合いになった。
皆真剣な表情だった。
美乃理が男の子だとか女の子だとか、そんなことは気にしていない。
ただ1つのボールを追いかける。
気がつくと、美乃理もただ一心にボールを追いかけていた。
ただ、何度か繰り返すうちに、なんとなく状況が見えてきた。
まだまだ健一たちのゲームスタイルは未熟なものだった。
ボールをキープすると、すぐに健一たちが美乃理のところにやってくる。
いわばボールを中心に皆がおっかけているような感じだ。
そこで美乃理は一歩引いて動きを観察することにした。
「秋本君! ここ、ここ」
ボールに集まる男子たちに対して、美乃理はやや離れて、秋本君に、位置を知らせる。
「よし!」
秋本君は、あらかじめ把握していた美乃理の位置にボールをキープしたら素早くパスをした。
フリーだった美乃理にボールを渡ると、そこからゴールまでがら空き。
「あ! しまった!」
ゴールまでは一直線だった。
慌てて、美乃理に追いつこうとするが捕らえきれず、ボールはそのままゴールになっていたラインを超えた。
「すげー」
「なんだかさ……らしいゲームだったよなあ……今の」
「あいつ結構やるんだなあ」
「だ、だろ!」
サッカーの試合らしいシュート劇に、点を奪われた方も目を丸くしていた。
美乃理をつれてきた健一自身も驚いていた。




