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第44章「美乃理(みのり)と学校の放課後」②

 放課後となり、一年2組の教室から児童が出て行く。

 今日も忍と帰ろう――と思ったら日直の仕事があるから先に帰ってと言われた。


「美乃理ちゃん、ごめんね」

「わかったよ、じゃあ後でね」


 あとでまたクラブで会おう、と添えられた。

 ここしばらくは、忍とほとんど必ずといっていいほどいつも一緒だったので、一人で帰るのは久しぶりだった。


 一旦忍と別れた美乃理は下駄箱で上履きを脱ぎ、青地にピンクのラインが入ったシューズを取り出す。

 靴を履き替え、上履きをしまい校舎から外へ出る。

 とっくに散って今は緑が映える桜並木を抜け校門を出る。

 通学路に出ると美乃理と同じ低学年が中心に帰宅しているのが見えた。

 一年生だけでなく三年生もいる。

(ボクはまた六年間ここで過ごすことになるのかな……)


 ちょうど横断歩道をわたって公園の横を歩いている時だった。

(あ、あれは……)


「健一!」


 数人の男子の集団をみつけた。


「あ、御手洗」


 男子の一人が、反応した。

 クラスの男子たちが下校途中に漫画やカードを持ち寄って興じている。

 その中に建一がいた。他にいるのは高森君。健一と親しい男子だった。

 そういえばサッカー部で、これからもずっと仲良くしていたんだっけ。


「また先生に見つかっちゃうよ?」

「お、おう……」


 呆れるように美乃理が声をかけると、健一はバツが悪そうに頭をかいていた。

 一度担任の斉藤先生に取り上げられかけたことがあり、美乃理が助けたこともあった。

 男子たちはそれぐらいではめげなかった。


「しょうがないなあ……」


 美乃理にはわかる。あのカードは男子にとってはそれぐらい大事なものなのだ。

 それ以上とやかくは言わないことにした。


「今日も新体操ってやつだっけ? 練習なのか?」


 健一は思い出した。


「うん」

「そっかあ。俺たちこれから公園でサッカーやるんだけどな。そのうち一緒にやろうぜ」


 健一の言うサッカーは正式なものではなく独自ルールのゲームだった。小学校のグラウンドのサッカーゴールは高学年に使われるし、十一人も人数がいないので、仲間内の数人でやる独自のルールのサッカーだ。

 壁をゴールに見立ててそこにボールを蹴る。みのるが低学年に時に、特に男子の間で流行った遊びだ。

 何度かやったことがあるが、単純だけど面白いゲームだった。

 許せるならば今の美乃理もまたやってみたかった。

 けれども美乃理は、自分に言い聞かせた。

 今日はレッスン日、忍が待っている。


「じゃあな、御手洗」

「また明日、健一」


 そして健一たちとも別れた美乃理は歩みを早めた。

 レッスンの準備をしないといけない。

 忍が待っている。

 今の自分にとって一番大事なものでもある。

 横断歩道を渡り、通学路をひたすらゆく。


「美乃理ちゃん――」


 美乃理の家まであと半分くらいの距離まできた。

 その時に聞き覚えのある声がした。

 声は美乃理の手前で止まった黒塗りの車からだった。

 

「あ! あなたは……」


 直後にドアが開かれ車から降りてきたのは、龍崎宏美だった。

 宏美は先にいっててちょうだい、とだけ運転席の方へ声をかけた。直後エンジンがかかり、車はそのまま走り去っていった。


「これから帰るところ?」


 こっちへ寄ってくる龍崎宏美は同じ小学生ではあるが、だが美乃理は圧倒的なものを感じた。

 制服姿である。

 一目で毛並みの良さがわかる。 

 きちんと折り目の付いた紺のスカート、そしてブラウス。

 その胸にはエンブレムが刺繍されている。麗光付属の小学校だ。

 龍崎宏美はジャージかレオタードなどレッスン中の姿しか知らなかった。

 そしてまだ子どもなのに美しさを漂わせる宏美の印象は、開花する前の花の蕾。


「は、はい……」

「今日のレッスンまで、時間あるでしょう? ちょっとお話しましょうよ」


 優しく声をかけられた美乃理は、立ちすくんだ。

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