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第37章「美乃理(みのり)と雨の教室」④

 朝から降り続いている雨は、いよいよ強くなって外ではザアアっという激しく地面や校舎を叩きつけ、さらにゴロゴロと雷の音までしていた。


 美乃理は固まっていた。

 ただ聞き流せば良かった。

 健一が美乃理のことを中身男子だと言ったことなど。

 そんなわけないよ、とちょっと怒り気味に返せば、それで終わっていたはずだ。

 だが、美乃理はとっさに否定できなかった。

 真実だ。

 正愛学院の三日月先生に不思議な部屋に連れて行かれるまでは、みのるという男子、それも高校生だった。

 それもついこの間のことだ。

 今ずっと隠し続けてきた。両親にも忍にも話していない。

 そのことの孤独感、罪悪感が確かにあった。

 ただその気持ちは美乃理という少女の生活に慣れることと、新体操のことにかかりっきりだったために抑えていた。

 その気持ちが、健一の不意打ちの一言で溢れてしまったのだ。

 どうしよう……。

 目が一旦健一から逸れる。


「?」


 健一も美乃理の様子に気がついた。


「悪い、俺そんなつもりじゃ……」

「くす……ふふふ」

「御手洗!?」

「……かもね。実は男の子なのかもしれない」

「お、おい? 御手洗……」

「本当だよ、自分でもわからなくなる時があるんだ。自分は男の子なのか女の子なのかって。健一は考えたことがある? どうして自分が男子なんだって」

「そ、そんなのないよ。最初からそうなんだから」

「でしょう? 誰も選んで生まれてくることができないんだから――難しいよね」


 だが美乃理は他に誰もできないルールの一線を超えている。

 いや……一人いるかもしれない。

 その時美乃理の脳裏に龍崎宏美の姿が咄嗟に思い浮かんだ。

 

「ごめん! 御手洗! さっきの忘れてくれ」


 健一は、頭を下げた。


「こら、そこの一年生、図書室は静かにしなさい」


 図書の貸し出しカウンターにいた図書委員らしき六年生の女子が、二人を注意をする。


「本当にごめん、俺つい……お前って他の女子と違って気軽に話しかけられるからさ。注意するよ」


 注意を受けて健一は、隣の椅子に座り寄ってきて小声でささやいた。


「うん、いいよ。別に気にしないで」


 あえて笑顔を作り、元気な様子を健一に見せた。


「一生懸命読んでるけどそれなんだ? 漫画じゃないのか? へえ……そういえば体操やってるんだってな」


 妙に深刻になってしまった空気を変えようと、別の話題に移す。

 健一は興味深そうに、美乃理の開いている本をのぞき込んできた。


「体操じゃないよ、新体操だよ」

「新? 何が違うんだよ」

「うーん……こっちは音楽に合わせて、リボンとかボールを使って体を動かして」


 いまいちピンとこないような表情を建一はしていた。

(言われてみると、説明するの難しいな……)

 もっときちんと読んでみないと、と美乃理は思った。

 美乃理自身がまだ新体操はよく知らないことが多いのだから、上手く説明できるわけない。


「じゃあ一度、見せてくれよ。それならどんなのかわかるしさ」

「え? 健一が?」


 何気ない健一の提案に美乃理は再び驚いた。

 父と母にもまだ見られていないのに誰かに見られるのなんて、まだ早い。

 そう思うと妙に胸がざわついた。

 何故か発表会の時に健一がいて、美乃理の演技を見る様子が思い浮かんだ。

(演技を誰かに見られる?)

(ボクが女の子としてやる新体操の演技を?)

 美乃理の顔がやや火照って赤くなった。

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