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第25章「美乃理(みのり)とクラスの男子女子(前編)」

※この小説は男性から女性への性転換を題材にしています。それらの表現、描写がありますので、ご注意ください。


 幼稚園ぐらいの時は男の子も女の子も、ほとんど分け隔てなく同じように一緒に遊んでいた。

 小学校に入ってからだった。男の子と女の子を意識し分かれるようになった。

 体がちょっと違うだけ。あれがあるかないか。

 最初はそう思っていたみのるも、いつの頃からか男子と女子を区別して、違いを自覚するようになっていた。

 考え方、嗜好が無意識に違う。

 遊ぶのもおしゃべるするのも基本同性とするようになっていた。

 そして男子だったみのるは、ごく当たり前に男子の輪に入ってゆき、男子と会話し付き合うようになっていた。

 女子は女子でいつも、仲良くおしゃべりしていて盛り上がっている。

 たまに男子が悪戯やクラスの仕事をサボったりして注意した女子と揉める。すると女子たちは、すぐに集まってきてその男子を責め立てる。

 特に委員長の松本さんはそういうとき、真っ先にその眼鏡を光らせて男子を責め立てる。

 怒らせたり揉めると後が厄介。




 美乃理になって少し時が過ぎた。

 既に自分自身のことも周囲の状況も掴めて、ある程度家でも学校でも生活をしていけるという自信ができた。

 慣れてくると共に、学校の休み時間に忍やさやか以外の女子とも会話する機会が増えた。


「忍ちゃん、美乃理ちゃん、ほらこれ見て。お父さんに買って貰ったのよ」

「わ、それ可愛いね。三島さん」


 この子たちはみのるだった頃は、ほとんど接する機会がなかった子たちだ。


「でしょう? えへへ。他の人にもみせようっと。美乃理ちゃんたちに褒めて貰ったって」


 女子は本当にコミュニケーションが活発だ。絶え間なく美乃理は話しかけられる。

 休み時間、昼休み、授業でも、どこでもおしゃべり。またその情報も多い。

 小学生低学年でもあなどれない。


「ねえねえ、知ってる? 1年1組の担任の大沢先生、今度結婚するんだって」

「ええ、本当!?」

「本当よ、先生達が話しているの聞いたって子がいるのよ」


 おかげで、一度このクラスと時間を経験したはずのみのるも知らない情報にも触れられた。


「今度、この町に新しいケーキ屋さんができるんだって。東京の有名なお店が……」

「知ってる、駅前ビルの商店街の中でしょ?」


「あ、美佐ちゃん。そのホルダー、どうしたの!?」

「可愛いでしょ」


 クラスの女子の一人、吉村美佐のランドセルに小さなホルダーを付けていたのに、さやかが気がついた。


「これ、この間の日曜日に買って貰ったのよ」


 可愛い動物のキャラが施されたホルダーを嬉しそうに、美乃理たちにみせた。

 アクセサリーや服があったらチェックを怠らない。皆がお互いとの関係をみつめながら、自分を高めようとしている。

 忍がそっと美乃理に目配せした。

 その合図に美乃理は気がつく。


「可愛いね、美佐ちゃん。すごく似合うよ」

「ありがとう、美乃理ちゃん」


 美佐は美乃理に褒められて笑顔になる。

 美乃理はとっさの合図を送ってくれた忍に目配せで、ありがとう、と返した。

 ちゃんと褒める時はしっかり言葉で伝えないといけない。女の子としての気配りだ。


 もう一度小学校をやり直す。

 学校生活は退屈かもしれないと思っていた美乃理だったが、その忙しさに内心驚かされた。

 みのるだった時と、女子の美乃理として過ごすのは何もかも違う。

 違った習慣ややり方が沢山ある。

 例えば女子は集団性が強い一面がありトイレに行くのも、おしゃべりをするのも、共にする仲良しグループがあった。

 忍やさやかはもちろんだが、この吉村美佐もそのグループの中の一人である。


「ねえ、一緒におトイレ行こうよ?」


 美佐が突然、席を立ち上がり、美乃理たちを誘った。


「行こう、美乃理ちゃん」

「え? う、うん」


 美乃理は、催してはいなかったが、忍とさやかもスカートを払って立ち上がった。だから美乃理も立ち上がった。ふわっと広がるスカート。座ってできたシワを手で払って直した。

 廊下を出て、その先の児童用のトイレへ向かう。

 入るとき美乃理は一瞬男子トイレの方へ足を向けそうになった。

 先頭を行くさやかと、美沙は気がつかなかったが、すぐ後ろの忍は気がついた。

 無言で忍は美乃理の手を引っ張って女子トイレへと引き込んだ。


「そういえば、美乃理ちゃん、最近様子が変わったと思ったんだけど……」

「え? そうかな」

「うーん、雰囲気が、男の子っぽくなって」


 美佐は、口に指を当てながら首を傾げた。


「他の子もちょっと変わったって言ってる子もいるし……」


 美佐の言い方だと他の女子のグループからも言われているようだ。

 グループといっても、まだ複雑なものではなくその関係は美乃理の目にも、はっきりとわかるものだった。

 真面目な委員長のグループ、おとなしい子のグループ、明るい子のグループがあることに気がついた。

 学年があがるごとにこの女子同士の関係は複雑になってゆくのかも知れないが、今は美乃理でもすぐに理解できた。


「そ、そうかな……」


 鋭い美佐の指摘に美乃理は困惑の表情を浮かべる。

 だが忍がフォローを入れてくれた。


「美乃理ちゃん、私たちよりも大人っぽいのよ、ねえ、さやかちゃん?」


 またさやかも、美乃理のことを気にかけてくれる。


「そうそう、あたしもよく男の子っぽいって言われるし。言葉遣いとか態度とか……ママによく言われるんだ」


 慌てて美佐も発言を修正する。


「あ、あたしも全然そんなつもりじゃないから。ただちょっと変わったなと思っただけだから。気にしないでね、美乃理ちゃん」


 美乃理はさやかと忍のおかげで、クラスの女子の社会の末席に加わっていた。

 まだそこまで女子としてのセンスを求められない年頃だ。

 むしろ男の子っぽいところは、活発そうで良いと見られることもあった。

 これが、いきなり中学生とか高校生だったら……かなり苦労しただろうと美乃理は思う。


 その反面、美乃理は、かつてよく遊んだ男子たちとは、接する機会が少なくなっていた。

 トイレから揃って戻るとゲームや、カードをこっそり男子たちがやっていた。

 男子のみのる頃は、一生懸命あのカードを集めていた。あのカードはこの頃特に男子では大流行。

 その輪に今更入っていく気にもなれなかった。


「男子ってカード集めるの好きねえ。どこがおもしろいのかな?」


 教室で休み時間、カードを見せ合っている男子たちをみて美沙がつぶやく。


「そ、そうだね、ほらレアなカードを手に入れたりすると楽しいんだよ」

「レア?」

「レアカード……珍しいカードを手に入れた時ってすごく嬉しいんだ」

「へえ、美乃理ちゃん、詳しいね。持ってるの?」

「ううん……」


 かつては熱中していた美乃理は、首を振りつつため息を吐く。

みのるの時は、女子は無駄なおしゃべりが多いと思っていたけれど……)

 こうして女子から男子を眺めると、むしろ逆だ。

 おしゃべりは女子にとって友情を深める大事なスキル。

 男子こそ、無駄なことに情熱を注いでいるように見えないこともない。

 だが、あのカード集めは男子にとって確かに大事な仲間と遊ぶための大事なツールだった。

 こうして女子からみると男子たちがやってることは、あまり見えにくいように思えた。

 自分もみのるとしての経験がなければ、美沙のように、カードなんてつまらないと思っていたかもしれない。


 同じ時間と空間なのに、見える光景が違う……。

 美乃理じぶんが女子という存在になっただけなのに、それが大きな違いを産んでいることに気付かされた。

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