第158章「夏の遊戯」
そしていよいよ合宿も残り2日となった。
翌日は簡単な朝の練習以外はバスの移動にあてられるので、実質的な活動は今日が最後だ。
練習は午前中で切り上げて、午後からは施設のプールを楽しむ予定になっていた。
合宿所のプールは学校よりもずっと広く競技にも対応した本格プールだ。
これを楽しみにしていた部員たちも多い。
朝から合宿生たちはワクワクの雰囲気で満ちていた。
「先輩たち、あたしたち、先に行ってます!」
宿泊施設から一番離れた場所にあるプールに和穂も含めた一年生たち急ぐ。
既に下に水着を着ている子すらいた。
「みんなまだまだ元気だね」
合宿での練習漬けに少しもへこたれていることなく、まだまだ血気盛ん。
様々な悲喜こもごもな出来事があったが、それでも活発な一年生はこれからに期待できる面でもあった。
既に選手として優秀だった宏美や美乃理とも違う。
プールサイドに集まりいよいよプール遊び。
「しっかり準備体操して、休憩は1時間ごとに……」
高梨部長から指示が飛ぶが、いつもよりなかなか指示が届きにくい。
小学校中学校で見られたスクール水着を着る子もいたが、自分のお気に入りの水着を持ってきている子もいる。
流石に露出が派手な水着を持ってきている子はいなかったが、フリルのついた水着や夏の明るい色彩の水着がプールサイドをにぎわせていた。
ストレッチと準備体操が終わり、プールに後はたちまち大歓声の渦だった。
「こら! 飛び込みは禁止!!」「プールサイドは走らない!」
早速注意が飛び交った。
施設の備品のビーチボールやゴムボートを借りて持ち出す子。
そこかしこで水しぶきや歓声が聞こえる。
「ちょっとやめなさい!」
「あ、やったな」
そして飛び込む音。水を掛け合う音もそこらじゅうだった。
「和穂、ほらこっち来なさいよ」
バナナ型のボートに恐る恐る捕まっていた和穂を引きずり込もうとする一年生たち。
ここでもいじられ役だった。
恐らく泳げないように見える。あんなに新体操の素質があって十三メートル四方の演技では飛び回るのに――。
必死に捕まる和穂。結局引きずられてずぼん、と水中に落ちてしまう。
ほほえましく見ていた。
そのスクール水着をみると、意外に着やせするタイプなんだ、とも思った。
胸も腰も意外に成長している。
「もう、みんなちょっと羽目はずしちゃって」
一年生たちが思いっきりはしゃいでいる。
「まあ今日ぐらいいいんじゃない? 美乃理だって……」
さつきも一緒に泳ぎながら美乃理の水着姿にふふっと笑った。
美乃理はいつもどおりのスクール水着だった。
もっと言うとこれまで、水着はこれ以外着たことが無い。
「何、その目は」
「せっかくだからあんな水着、着てみてもいいって思ったでしょ?」
一方のさつきは家から持ってきたお気に入りらしき白い水着を着ている。確かにちょこっとだけものは試しで着てみてもいいか、と思ってもみた。
「べ、別にわたしは……」
「美乃理なら、きっと男子の視線釘付けよ~」
「もうっ」
男子の視線のあるなしは確かに大きい。
派手な水着は控えてきたのもこれが理由でもある。
はしゃぎすぎて、ちょっと水着がずれたり、ぎりぎり際どい状態になるとさらに大変なことになる。
今日は女子だけ、人目を気にしなくて済むという気楽さは他にはなかった。
「女子校だと、気が楽なのかな……」
周囲からの視線だけでない。
何か男子と絡むと、すぐに恋愛話に発展しようとする気苦労が多い。
意識しないでいても、周りが許さない。
ちょっと会話を交わしただけなのにすぐ「さっきの男子だれ?」と横やりが入るのだ。そのために無駄に説明するエネルギーを使うのは疲れた。
藍子が泳ぎながら近づいてきた。
「先輩! 一緒に水球やりましょう!」
ビーチボールを使って後輩たちの提案だった。
設備に水球用のゴールもあるという。
そしていくつかのチームに分かれてトーナメント戦をやろうと、提案された。
断る理由はない。
みんなでわいわいチーム分けをして、部長が審判。
チーム以外は一旦、プールサイドにあがる。
そしてバトルが始まった。
「頑張れっ」
「ちょっと、掴まないでよっ」
楽しい女の戦い。
より大きな歓声がプールに響いた。
合宿を通じて、後輩たちも他校の部員たちとすっかり打ち解けていた。
正愛の生徒たちの行動も王鈴をはじめとする女子校の子たちの影響を受けて、大胆になりがちだった。
規律は良い反面、周囲の目も気にせずあけっぴろげな気質が伝わっていた。
最初は、正愛の生徒たちも練習中もそれ以外もしっかりと身だしなみをお行儀良く整えていたが、今は、休憩時でも下着姿、髪をふりほどいたままという大胆さだった。




