第156章「4人の変わらない思い」
もっと大胆な演技で攻めよう。
なかなか決心のつかない和穂に囃し立てる周囲の一年生たち。
一年生の中でもは和穂には期待がかかっている。
「御手洗先輩、どうですか? もっと和穂に気合い入れてやってくださいよ」
ついに美乃理にも意見を求められた。
「自分にあった演技をすることが一番だけど、でも和穂ちゃん、色々やって損は無いよ」
和穂は、まだ新体操を始めたばかりだから引っ込み思案になるのは無理もない。
麻里のような意志の強さを持っているのなら別だが和穂はそういうタイプではなさそうだ。どちらかというと美乃理に似たタイプかも、と思ってもいる。
「そ、そうですか?」
「失敗しても、次に繋げればいいんだから」
失敗を恐れるのも良くない。沢山の失敗をしてきた美乃理も、恥ずかしい思いを重ねてここまできた。忍や亜美、そして宏美、柏原コーチ。色々な人たちの支えがあって、やってこれた。
ここは自分が少し背中を押してやらないと、と思った。
「やって後悔するのと、やらずに後悔するのでは全然違うから――」
美乃理の体験に基づく思い。
和穂を励ますと同時に自分も思いを巡らせていた。
健一を前に失敗した時の思い出も、確かに大事な経験だった。
「は、はい。先輩の言うとおりだと思います。」
美乃理の言葉で決心がついたようだ。
どのような演技構成がいいか。
音楽の選定、演技構成、技の見せ方。
一々検討する。
和穂はノートパソコンから膨大な曲のデータを引っ張り出してきていた。
「曲もこれでいいかな? もうちょっとリズムのある曲にする? こんなのもあるけど」
和穂も積極的に発言を始める。
スピーカーから音楽が流れてくる。周囲の子たちもふんふん頷く。いいんじゃない? と囁きあう。
音楽も重要でリズム感も必要だ。難易度の技を決めるだけではなく芸術性や調和が求められる。
ステップや動きのなめらかさ、すべてが調和してないといけない。
全て専属のコーチなどの専門スタッフが用意し指示されたメニューをただ行うような学校やクラブチームも存在するがーー。
正愛は生徒とコーチが意見を交わしながら作り上げてゆく。
「正愛さんは、まだまだ伸びそうですね」
活発に意見を交換しあう様子を、ミーティングを覗きに来た王鈴の教師が賞賛した。
正愛の新体操部がここまで成長するとは予想外のことだったが、その活動ぶりを見て納得させられていた。
「美乃理ちゃん! こんばんは」
「おじゃましま~す」
亜美も見学にやってきていた。あの特有の関西のイントネーションの、早川さんも来ていた。
二人とも王鈴のジャージを着ている。
もちろん歓迎だ。
向こうは向こうで、また別のことをしているという。
王鈴は何やってるの? と聞くと、こっちは別の会議室に集まって、ビデオを見ているよ、という。過去の大会や練習を撮影したものをみんなで見て、それを分析する作業。
そして課題を見つけだして生かすのだという。
あとでこっちも来てね、と誘われた。
「月見坂が来ないのは……残念だね」
「去年正愛に負けたのがよっぽどショックやったんかな」
一緒に見に来ていた早川さんが、呟いた。
長年東の名門で団体も個人も女子新体操では常にトップだった月見坂が正愛学院の後塵を拝しつつある力関係の逆転は、新体操界隈では衝撃であった。
遠い西の名門の王鈴でも驚きを持って迎え入れられた。
「会いたかったんだけどなあ……麻里にも」
亜美も昔と同じ短めの髪をいじりながら、少し残念そうに呟いた。
「ねえ、美乃理ちゃん、麻里にもよろしく言っておいてね」
「うん、会った時には伝えておくよ」
亜美もメッセージのやりとりはしているが、麻里の性格的にベタベタしたつきあいを好まないことを考慮して、挨拶程度なのだという。
「昔からそうだったもんね……」
無理に馴れ馴れしくしないのは、ずっと柏原新体操クラブの育成コースでやっていた四人の決まりごとだった。
でも別れるときは四人でやりたいね、とも言いあった。
思いは亜美と同じだった。
美乃理もいつかまたあのメンバーで一緒にやりたい。
「なんか、みんなと一緒にやってたのが本当にこの間のことだったのに……時の流れってこういうことなのかなあ」
美乃理は頷いた。
花町クラブの育成コースで4人が過ごした時がもう懐かしく感じられる。
稔だけでなく、小学生の時の美乃理も、もう過去になっている。
今の中学生の美乃理もやがては振り返ることになるのだろうと思うと少しせつなくなった。




