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第155章「ミーティングの時間」

「すごいかっこいい人たちだったね」

「うん、ああいうのも、いいよね」


 一方で正愛の部員たちは部員たちで、逞しい三嶺女子大の彼女たちをうらやむ。

 女子は身体的なコンプレックスを持つ子は特に多い。

 好子が良い例であるが、そのことで心に傷を負う子もいる一方で、今の今の美乃理は始まった当初から逆に理想的な体と評価されてきた。

 クラブ時代、柏原コーチからは「美乃理ちゃんは、とても素晴らしい素質を持ってるわ」と何度も褒められた。

 幼い時期からもう、その体つきから選手としての素質はわかるのだと言われ、そのことを支えにしてきた。 

 そして辛くなった時には忍から「美乃理ちゃんは、他の女の子がどんなに頑張っても届かないものを持っているんだから絶対に辞めちゃだめ……」と励まされた。

 努力はする。だがどんなに伸ばしても手が届かないものもある残酷な現実がある。

 美乃理はふと思う。

 女子であってもできないことを美乃理(じぶん)がやれることの重みを背負っているようにも感じられる。


「いいなあ……」


 すぐ隣の一年生の子は件の女子大学生たちの日焼けした体をうらやんだ。


「日焼けしても赤くならないし、わたしなんか、染みになっちゃいそうで……日焼け止め塗りまくってるよ」


 確かにさっきの大学生は健康的な色の肌だった。


「そうだねえ……体質なのかなあ」


 美乃理も、どちらかというと日焼けには強くはない。

 なんでも完璧というわけにはいかない。

 そういう美乃理も日焼け止めはバッグにちゃんと忍ばせている。

 体育館で練習ざんまいなので、今日まで出番はなかった。


「さあ、行こうか」


 そして三十分後。


「身体が溶けそう……」

「あー、いいお湯だった」


 大浴場から出てき正愛の部員たちが、シャンプーや石鹸の香りを漂わせながら再び暖簾をくぐって出てきた。


「あ、見て」


 窓から高原から山の向こうに夕日が綺麗に沈んでいくのが見えてはしゃいだ。

 日が落ちた後は外はたちまち暗くなっていった。


 入浴を済ませ、夕食を取った後は一旦部屋に戻りしばしの休憩時間を過ごした。

 蝉の音が深い森の暗闇から時折聞こえてきた。

 携帯を操作したり、まだおしゃべりにふけってくつろぐ部員たちに高梨部長から点呼がかかる。


「みんな、ミーティングやるから、会議室に移動して」


 美乃理たちが向かうと宴会や催し物が開かれるであろう広々した会議室内に、机がいくつも並べられていた。

 紙と鉛筆、ボールペンも既に用意されている。

 会議室の前方のホワイトボードには夏休み明けにある大会や発表会の日程がかかれている。

 そしてそれらへ向けて今後の目標を話し合うミーティングであった。

 いくつかのグループに分かれて、今日までの合宿で見つけた課題と、今後の予定とそれに向けた方針を話し合うように指示される。

 この合宿後に目白押しのイベントや大会での踊り、技の演出など内容をここで決めるのだ。

 また大会に参加する主力メンバーたちは本番までにどのようなことを取り組めばいいか対策を考える。

 そしてレギュラーでない部員たちにも、学園祭、市民祭り、福祉施設でのボランティア公演で演技する機会が多数ある。

 全員に発表、参加の場を与えるのはここ数年の正愛学院新体操部の方針だ。

 そのために全員がこうして集まって考える機会を設けたのだ。

 宏美や美乃理――そして敦子。スターの登場で、ここ数年で部員数が急に膨らんだ正愛ならではの企画であった。

 部外者は一人もいない。

 これから解決しなければいけない自分の課題、どういった技や表現に挑戦するか。音楽、自分がみせたい表現内容。

 それぞれが自分で考えるのだ。

 美乃理も積極的に新体操部のこの活動方針に協力し一年生にも積極的な参加を促していた。


「あ、和穂ちゃん、すごいね。さっき言ってたとおりだね」


 美乃理がほめたたえた今田和穂は、自分で持参した小さめのノートパソコンを開いて何やらしきりに打ち込んでいる。

 タイピングも上手でキーボードをカタカタ叩いて盛んに打ち込んでゆく。

 作られた文書を見ると上手に見やすくまとめられている。

 パソコンは男子が得意なイメージがあった美乃理には、板についている和穂が意外に見えた。


「そうなんですよ、きっと和穂は前世もパソコンオタクだったんですよ」


 一心不乱に打ち込んでいる和穂は美乃理が声かけたことに気づいていない。藍子にちょっとからかわれる。


「え? そうなの? あたしも困ったときは助けてもらおうかな?」


 実は詳しくない美乃理。得意な人はちょっと羨ましかった。


「え、あ、ごめんなさい、御手洗先輩、何でしょうか?」


 ようやく気づいて、熱心に見つめていた画面から顔をあげた。


「いいよ、そのまま続けて」


 美乃理は手で制した。

 成長著しい和穂は近々開かれる競技会に出場させようという話があった。


「ねえ、このボールを投げるとき、もっと大きくジャンプしてみたら? ついでに回転も組み込んでみたらどう?」


 発表会や大会での演技の内容を今日の練習をふまえて検討している。


「え? ちょっと厳しいかな……今でも結構きついのに」

「和穂なら大丈夫だって」


 一年生で頭角をみせている和穂には何人も自分も手をかしてやろうと、集まっている。

 いじられながらも愛されている和穂のキャラであった。

 画面を指さして、他にもこの技、やってみようよ、和穂ならいけるよ。

 大丈夫だよ。さかんにはやし立てられ、その度にまだ自分は無理無理、と手を振っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好かれる人っているんですね……人当たりの良さもあるのかもしれませんが
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