第152章「影を払拭」
「もう昼が終わるよ、練習場に戻りなさい」
部長たちの声にはっと美乃理は気づいた。
周囲の部員や後輩たちは追い立てられるように、一斉に練習場へ戻り始める。
「もう時間か、こうしてじっくり話ができたのもしばらくぶりだったけど……」
その様子をみて名残惜しそうに宏美は呟いた。
「じゃあね、美乃理ちゃん」
この後も練習は個別にやる、と残して立ち上がった。
その背中もいつもより暗い影が差している気がしてならなかった。
(もう少し宏美さんとよく話さないといけない気がする……)
そう思う美乃理は軽く手を振ったが、その手つきもぎこちないように自分でも感じた。
美乃理もまた午後の練習に向かうために、また練習場に戻ろうとした時、施設の入り口ロータリーにタクシーが何台か停まっていることに気づいた。
車のドアが自動的に開かれ、そこから、何人かのジャージ姿の少女と、引率らしき教師が出てきた。
長距離の移動だったのか、少し疲れた顔を見せている。
そして出迎えている木村先生や栗原コーチの面々がいた。
「あ、ほらほら来てるよ」
今日午後から新しく合宿にやってきた学校の子たちを出迎えているのだ。
「どこの子だろう?」
「西京女子……って書いてあるね」
今度の学校は九州から一校。
遠くからの参加ということで全員というわけではなく、選抜された数名だった。
「ああ、美乃理ちゃん、ちょうど良かった。ほら、こちらは西京女子短大付属の方々よ」
美乃理も木村先生に呼び止められ、こっちへ来なさい、と手招きされた。挨拶をして欲しいということだった。
「遠路はるばるお越しくださいまして――」
栗原コーチがお礼の言を述べていた。
「いいえ、栗原先生には、またとないチャンスを作っていただいて感謝しています」
向こうの顧問らしき人がうやうやしく、お辞儀をしていた。
その後ろに少し様子を伺うように、数名の女子生徒たちが見守っている。
その子たちに向かって美乃理も紹介される。
こちらが、正愛の御手洗美乃理です、と。
その途端、背後に控えていた少女たちの目が輝いた。
「ええ!? あなたが御手洗さんですか?」
「噂、聞いています。合宿の間、よろしくお願いします。色々教えてください――」
写真でみるより綺麗、素敵です。と褒められて、少し照れた。
自分の名前がそんな遠いところまでとどろいていることに改めて驚かされる。
そしてやっぱり少し発音が違うこともなぜか微笑ましかった。
「こちらこそよろしくお願いします」
握手をそれぞれ交わす。そして南国っぽいその手の日焼けした肌が眩しい。そして、どの子も明るくてエネルギーに満ちているのが特徴的だった。
午後からは その到着したばかりの西京女子中学も合宿練習に参加した。
飛行機を使ってきたというが、少し荷物を下ろして休憩後に練習場に、白い特徴的なジャージ姿で現れ、挨拶をした。
「よろしくお願いします!」
改めて整列して挨拶。正愛と王鈴の生徒たちも、拍手で返した。
もう合宿に慣れた王鈴と正愛の参加者たちは、リラックスしている一方で、まだきたばかりの両校は緊張の面もち。
「すごいね、あんな遠くから――わざわざ来たんだ」
きっとすぐに慣れるはず。
「一緒にがんばりましょう」
高梨部長が新たな仲間たちに応える。
美乃理も拍手と共にエールを送った。
そして、ついさっき、芽生えた妙な暗い気持ちを爽やかな合宿練習に打ち込むこと払拭しようとした。




