第132章「成長する少女たち」
その翌日以降からは忍も参加して姿勢の練習にした。
レッスンの時だけでなく朝、登校してくる時から始まっていた。
いつものように二人並んで赤いランドセルを背負いながら一緒に登校する。
「あれ、やってる? 美乃理ちゃん」
「う、うん」
忍は俄然はりきっていた。
「お母さんにお願いして、ちゃんとできてるか見て貰ってるんだ」
「そうなんだ……」
実はやっていなかったが、慌てて力をお尻に込める。背筋を伸ばして胸を張る。
その後も忘れているとき、忍が声をかけてくれた。
忍も毎日実践しているという。
「綺麗な姿勢って案外できないよね。ちょっと気が緩むと元に戻っちゃうし……」
そういえば、道行く同じ花町小の児童たち。
上級生たち、男子でも女子でも姿勢は確かにまちまちだ。
ちょっと猫背だったり、脚が開いて歩き方が綺麗でなかったり。
言われてみれば……気が付いてなかっただけで、改めてみると姿勢は大切だと思う。
まして綺麗な演技を競う新体操をしているのだから。
「綺麗になりたいね」
学校でも廊下でノートを頭の上に乗っけてバランスを取って歩く練習をしていたら、健一から遊んでいると思われた。
健一に「なんだ? 何遊んでんだ?」といわれ、自分も混ぜろとばかりに興味を示した。
「違うよ、姿勢を上手にする練習だよ」と説明してもピンとこない様子だった。
もちろん綺麗な脚とお尻をつくるため、とは言わなかった。
「あれ? 何やってるの?」
さやかに聞かれた時は、正直に応えた。姿勢を綺麗にする訓練だよ、と。
「嘘、そうなの?」
一緒に参加することになった
「教えてよ、みのりん」
綺麗になることにきらきら眼を輝かせるのは、他の女の子と一緒だ。
「え? いいよ。じゃあ、そこに立ってみて、さやかちゃん」
自分が教えることになるのは、自分でもびっくりだが。
「どうするの?」
「ちょ、ちょっといいかな……」
後ろに周り、さやかのお尻をさわった。今日はスカートではなく、青い短パン。身長は大きくて、お尻も大きい。
(触っていいよね)
こっちが恥ずかしかったけれどーー。
まあ、これまでのことから、スキンシップは女子同士だと濃いのは理解していた。
さやかも、よく美乃理に抱きついてきたりしていた。だからこれぐらいはいいのかもといいきかせる。
レッスンの時を思いだし、両手で触れた。
先生が美乃理にしたようにぐっと指で押した。
「あっひゃっ」
小さな悲鳴をあげた。美乃理も、予想以上に弾力があったことに驚いた。
「ほ、ほら、お尻に力が入ってないでしょ」
力を入れて押しすぎたかもしれなかったが……。
「そ、そうなんだ」
説明をしてごまかした。さやかは納得してくれた。
忍も二人の様子を見て笑いながら、アドバイスした。
「あとはね、顎を引いて胸をもっと張らないと猫背になっちゃうって」
「こ、こう?」
「うん、そんな感じかな。背筋延びてるでしょ?」
さやかはちょっとぼやいた。参加している水泳クラブではそんなこと教えてくれないと。楽しいけれど、美乃理と忍がやっている新体操がうらやましいとも。
その後、姿勢を直す訓練はさやかも加わって一緒にやった。おかげで長く続いた。
「あいつら、何やってるんだ?」
そんな美乃理やさやか、忍たちを健一は首を傾げていた。
そんなこんなで色々、キッズコース時代はあった。
苦労の多かった練習ではあったが、やがて姿勢が綺麗になったといわれるようになった。意識せずとも、自然にできるようになった。演技での動きもかわいらしいと言われるようになった。
反対に雰囲気が男の子っぽいと言われることも減っていった。
今に至るまで、御手洗美乃理は、姿勢が綺麗だと言われる。脚とお尻がそうなったかはわからないがーー。
だから。
地味だけど大事な練習だ。頑張れ、と後輩の初心者グループたちに心の中でエールを送る。




