第131章「少しずつ」
確かに美乃理に才能の片鱗があることはコーチに認められていた。
技の一つ一つも教えられれば、覚える。他の誰もよりも決めることができた。
身体も柔らかい。百八十度以上の開脚。
バランスの姿勢も安定している。片足立ちのままつま先も頭に付きそう。その姿勢のままずっといられる。
けれども、姿勢が良くない。
美しさを競う競技で、それは大きな痛手だった。
美しい姿勢でいられなければ他が優れてても意味がない。
「足が、また開いてたわよ」
技を決めた後にコーチから注意。
「男の子が元気にわちゃわちゃ動き回っているみたいーー」
最初の頃の美乃理の演技から醸し出す雰囲気を柏原コーチにそう評していた。
「やんちゃなのは悪くないけれど……」
可愛いスカートの付いたレオタード、そしてハーフシューズ、リボンを持って踊っているのにーー。女の子らしい可愛らしさではなく男の子っぽさが姿勢から雰囲気へとでていてアンバランス。
柏原コーチたちに首を傾げられた。
「は、はい。気をつけます」
もちろん、美乃理自身は理由をしっている。そういうときは、やっぱり自分は男の子だったから、と恥ずかしさで赤くなる。
女の子からも綺麗だといわれるようにならなければいけないのは、高い壁だった。
「美乃理ちゃん、こうするといいわよ」
柏原コーチから丁寧に教えられた。
普段から意識してレッスンだけでなく、姿勢や身のこなしかたを実践する方法を伝授。
「ほら、お尻に力が入ってない」
柏原コーチが後ろに回って、まだ七才の女の子ーー美乃理の小さなお尻を両手で掴み、ぐい、と指で押した。
「あっ」
力が入っておらず、お肉がぷにっと揺れた。
「無駄なお肉がついて、だらしなくたるんできちゃうわよ」
「は、はい……」
力を込めてみた。背筋がすっと伸びる。
「そうそう、その感じ、忘れちゃだめよ」
歩くときはお尻に力を込めて、顎を引いて、胸を張って足は広げすぎないように、体重が均等になるように。下半身を特に意識してーー。
「そうすれば、もっと大きくなった時に、綺麗なお尻と脚になるわよ」
たとえば龍崎さんのように、と柏原コーチが言うと、美乃理だけでなく、他の子も色めき立った。わたしもやる。
最初は美乃理への指導だったが、皆で姿勢を直す練習に変わった。
美しくなりたい、は女の子の共通だった。直接教えられていた美乃理よりも、熱心に麻里などは取り組んだ。
そして、きちんとした姿勢が取れないと脚が変なふうに曲がったり大根脚になると、と聞くと皆恐れた。
新体操に興味を持った子たちであるから、まだ幼いながらも当然美しさへの思いは何よりも強かった。
(いまからお尻も脚も気にするんだ……)
舌を巻いたが、美乃理も周囲に引っ張られることになった。




