第130章「一歩ずつ」
「亜美ちゃんもすっかり、一員になってますね」
亜美もまたチームを引っ張る一員として頑張っている。頑張ろうと声をかけていた。
うまく行かず、何度も失敗する仲間を励ましている。
「昔から、ああやって影から支える縁の下の力持ちでしたから」
花町新体操クラブ時代のことを思い出した。
亜美は忍と麻里などに比べると目立たなかったかもしれないが、自分も含めて四人をくっつける重要な存在だった。
気配り世話好きの忍に、個性の強い麻里、そして悩みの多い美乃理。
その中で亜美は大切な役割だった。
穏やかな優しい性格が皆から信頼を置かれていた。
そしてしっかり成績も残しつつ皆を支えていた。練習も真面目だった。
あの柏原コーチからの評価も高かった。
その才覚は王鈴に行って順調に花開いていた。
「さ、こっちも練習練習」
視線を戻すと、別の隅っこの周辺では、正愛一年生部員が、さらに柔軟に取り組むグループや簡単な手具の操作など、習熟度に合わせて取り組むグループに分かれて練習に取り組んでいる。
その中でもバーに並んでバランスを取る子たちは基本的な姿勢や体の動きを身につけるためのレッスンを集中的にしている。
まだ上手にできない部員に手取り足取り教える上級生もいる。
「ああ、あれもやったな……」
やはり同じ練習をキッズコースの時代に美乃理もよくやった。
ああやって並んでバーを片手につかんでつま先立ちや足の動かしかた、姿勢を学んだ。
新体操は華やかな舞台とは違って、ひたすら地道な練習の繰り返し。
もっとも重要なのは柔軟、基礎練習。
基礎、初歩的といっても内容はハードである。
ランニングの方が楽。
姿勢、脚力、体幹、それぞれを鍛えるための練習メニューは数多あるがどれも楽なものはない。
美しくみせるための練習は先が長い。
今もバーの前で足を揃え、後ろに片足を蹴る。
つま先を少し浮かせただけの状態を続けて、また元に戻す。
何度も何度も繰り返す。
これが結構きついのを知っている。
「んー、もう無理……」
「何言ってるの、まだ始まったばっかりだって」
一年生たち同士で励ましあう。
腰、体の軸がぐらぐらしている。
「ほら、また指先が上がってきてる」
つま先が綺麗に伸びてないと、すかさず注意が飛ぶ。
つま先がまるで浮いているように、と。
「は、はい」
顔を真っ赤にする一年生。
さらに別のグループは着地する練習に取り組む。
着地時に膝を上手にクッションさせる。
高さは重要だがここでもやはり美しくみせないといけない。
跳躍したときの体が綺麗にポーズを維持できているか。
これらは単に採点を意識したものではなく、きちんと正しいやりかたを覚えないと、スポーツにつきものの、怪我が頻発したり、痛みが続いてしまう。
厳しく叩き込まれるのだが、ここで脱落する者も多い。
「やっぱり大変だよね」
バレエの練習とも重なる最も基礎の部分で、ああやって正しい体のこなし方を身につけていく。
美乃理も、やはり当時の柏原コーチから手取り足取り。姿勢を逐一直され、基本を身につけていった。
柏原コーチが、特別に呼んだ知り合いのバレエダンサーに見て貰ったこともある
直接レッスンを受けたことは無いけれど。その時に用語も覚えた。
体も新体操に向いた体に作り替えていった。細くしなやかな体つきに。
繰り返し繰り返し時間をかけて身体に正しい姿勢を覚えさせる。
(懐かしい……)
かつての自分を思い出した。
特に男の子の姿勢、仕草が身についていたあの頃の美乃理にとっては、女の子らしい身の所作を身につけ、男の子っぽい仕草を修正することができた。心の方はともかく。
新体操を始めたてのキッズコース時代、がに股、過度な内股、猫背などは柏原コーチから何度も注意されものだった。




