第129章「開始」
朝食の時間が終わった頃にコーチ、顧問の先生たちから告げられる。
今日は取材が入っている、と。合宿生たちが俄に色めき立った。
どうしよう、もっとちゃんと身なりを整えないと、一部の部員たちがざわついたが、練習の様子を見るだけだから、気にせず練習するようにと注意される。
喜んだ者たちをあんたにくるわけじゃないわよ、と上級生たちが冷やかしたりする。
だが皆、テンションは高まった。自分たちは期待され注目されている。
再び体育館ホールへ。
練習も昨日以上に気合いが入る。
「整列!」
「はい」
正愛は二列に並ぶ。
最初にウォーミングアップ代わりのランニング。体育館を二十周はまだ序の口だった。
「いくよ」
二階部分がちょうどランニングできるコースになっている。そこをぐるぐる回る。
「イチニ、サン」
かけ声のリズムに併せて足並みもそろえる。
早くも汗が滲み息をきらす部員がいるが、美乃理は顔色を変えない。
好子をちらりと見たが、必死についてきている。やはり汗塗れとなってはいたが。
だいぶ体型は絞れてきたが、まだまだ十分トレーニングする余地がある。そのことを信じて好子も頑張っていた。
王鈴の子も好子が頑張ってついてきているのを見て、そのひたむきな姿勢に驚いている。
「すごいね……」
「ちゃんとついてきてるよ、あの子」
刺激を与えあっている。
ランニングを終えると、そのまま次のメニューへ。
王鈴も負けていなかった。
「さあ、次のメニューにいくよっ」
王鈴の上級生が一際大きな声を練習場内に轟かせた。
そして特徴となるかけ声の唱和。朝よりも一層大きかった。
かけ声のリズムに合わせて体を曲げ、逸らす。
床にたったままの姿勢で手をつく。
昨日も感じたが、どの子も柔らかいだけでなく綺麗だ。基礎練習が徹底している。
朝の体操からさらに激しい練習であったが、気合いはさらに十分に入っている。
王鈴の規律の正しさはここでも発揮されていた。
かけ声、挨拶。一々感心させられる。
負けてられない。
正愛は、いつもはおしゃべりも多いが、今は王鈴を見習えとばかりに、整列して待っている。
「それじゃ、うちも始めるよ。いつもの柔軟のメニュー、ペアを作ってやるよ」
「はいっ」
王鈴に負けるなとばかりに一段と声に気合いが入った。
そして本格的な練習へと移る。
中央では団体チームの大会を控えたメンバーの練習がメインに行われ、専門家たちの指導を受けている。
個人演技を主体に行う美乃理には、また違う世界だった。
「ほら、そこ、もっと動きを軽やかに」
「体がついてきてないよ」
「もっと他の子の動きを意識して!」
リボン、あるいはボールを駆使しての手具の交換や一体的な動きに引き込まれる。また格別の魅力がある。
どれも針の穴を通すような高度な技の数々だ。
さらに最後に観客を驚かせる独創的な技も取り入れている。
個人種目よりも目を楽しませてくれるので、知らない人でも楽しめる。
「そこ、もう一度。一番大事なところだから」
もちろん、ちょっとしたミスも一秒のずれも許されない。他の子の動きにも影響してしまうガラス細工のよう。
ピタリと一致させなければいけない。
一人一人が全体に責任を負っているから、ただのミスとしてやり過ごすこともできない。
また相手を絶対的に信頼していなければできない技だった。
「王鈴はやっぱり凄いね。御手洗さん」
「はい」
総合力では王鈴の方が一枚上手のように見えた。
普段からの規律のよいチーム作りが全体のレベルを高めている。
自由や個性を重んじる正愛にはまだまだ足りない部分だ。




