第128章「合宿の朝 ②」
「美乃理ちゃん、昨日はよく眠れた?」
途中宏美に声をかけられた。
「あ、宏美さん」
長く綺麗な髪を横に縛ってまとめている。やっぱり綺麗な人だと思う。
その宏美は、さっきまで高等部の女子と一緒に会話しつつ清掃していたが、ふいに美乃理に寄ってきて語りかけてきたのだ。
深夜の突然の敦子の告白に、すぐには寝付けずに、うつらうつらしていた。そしてようやく眠って朝になった。
寝不足まではいかないけれど、完全に熟睡しきったまではいかない。
「え、ええ……」
宏美に声をかけられると、何か勘ぐってしまう。
実はもう敦子と美乃理の接触のことに気づいているのでは。
その口元に浮かべている微笑がなんとなく疑わしい。
だが宏美の顔からはその胸の内は読み取れない。
「そう、ならいいんだけど」
手に持った箒をゆっくり優雅に動かしているだけだった。
何気ない、いつものやりとりを宏美と交わした。敦子の話題は出なかった。
「今日は、大会の前に課題だった苦手な部分の克服に取り組まないとね」
「はい、そうですね」
どうやら何もなさそうではあった。
それに美乃理には、宏美のことについて、気になることもあった。海外留学の話である。
そのことも宏美の口からは何も触れられなかった。
「じゃあまた後でね。わたしたちもそろそろ気合を入れていかないと」
「また後でお願いします」
一際大きな声が王鈴の合宿メンバーたちの方から起こった。
「練習準備いい? 始めるよっ」
「はいっ」
その体育館に轟くように響く声に正愛の子たちも思わず振り返った。
既に掃除はもう終えていて次の練習に取りかかろうとしている。
王鈴の部員たちは規律が良い。それに声出しも元気で明るい。
正愛よりも遙かに集まるのも早いし、手際もよい。上級生がてきぱき指示を出している。
「あの王鈴の規律の良さ、見習わないといけないよ、ね、御手洗さん」
「ええ。そうですね。わたしたちも、きちんと指示しないといけないですね」
一年生たちもその整然とした様子に顔を見合わせている。
そして上級生も指示の出し方、細やかさに参考となるものがあった。
「下が動かないのは、上の責任、よねえ」
高梨も部長として学ぶところがあるようだった。
きつく言うだけでは駄目、と。
二日目の練習メニューと時間が体育館の入り口の脇に大きな張り紙で掲示されていて確認しあう。
「うわー、今日も盛りだくさんだなあ」
「きっつー、できるかなあ」
厳しい練習にぼやいている一年生部員たちに叱責が飛ぶ。
「ほら、あんたたち、愚痴ってない」
朝7時には朝食。以後は休憩を挟みつつひたすら練習。
朝は涼しかったが、日が高くなるにつれて、外もじりじりと暑くなってきた。
日差しは強くセミの鳴き声も、外で響くようになった。
空調も施設内全体に入れられた。空調が苦手な子もいるので、やや弱めに設定されるが。
そして簡単な朝練を終え、食堂へ移動し二度目の食事となる朝食。
「きちんとたべなさい」
「食べないとこの後もたないからね」
「ほら、そこ、好き嫌いしないで食べるのよ」
上級生たちから指示が飛ぶ。
しっかりと出されたものを食べることを徹底させる。
一年生も指示をしっかり守り、食べ残しはほとんど見られなかった。




