第123章「合宿⑥」
「ん……」
美乃理は、眠りから眼を覚ました。
ゆっくりと開いた目の前にいつもより低い天井が見えて、すぐに合宿の二段ベッドの下で眠っていたことを思い出した。
枕元に置いている腕時計は五時半。買ってもらったピンク色の小さなデジタル式の時計。
「んん……」
小さく欠伸を一つする。
いつもだいたいこのぐらいの時間に起きるのである。疲れている時、寝付けなかった時以外、目覚ましが無くても大抵は起きることができている。
美乃理は、こと美乃理として歩むようになってから、すっきりと目が覚める体質になっている。
単なる体質だけのことではない。
普段から早寝早起きを心がけるようになっているからでもある。
理由もある。
受験勉強で夜更かしをし、そして翌朝を陰鬱な目覚めで始めていた稔の時の反省から、努めて夜型の体質にならないように気をつけている。
朝の目覚めがその日の一日を決める。それが教訓の一つだった。
その決めごとを今も守っている。
夏だから夜明けも早い。
窓はカーテンで閉ざされているためまだ暗いが、既に隙間から朝の日の光が木漏れ日のようにキラキラと入ってきている。
「今日もいい天気……」
ベッドから降りて立ち上がり、スリッパを履いてバッグやジャージ、下着などが散乱している合宿部屋の床をかき分けて窓のカーテンを少し開く。
まだまだ夏の真っ最中ではある。
窓の外は、もうすっかり明るくなり始めている。ロックをはずして窓を開けるとまだ冷たさの残る空気が入ってきた。
「うーん」
深呼吸する。避暑地の高原地域らしく朝の空気はきれいでひんやりしていた。
綺麗な空気を堪能した。
窓から見える山々には、まだ靄がかかって山々にかかっている。
しばらく美乃理は景色を眺めていた。
山の上流から流れてくる川
静かな朝だった。
家を離れて一人朝の空気を吸っている。
いつもとは違う。
不思議な気分だった。
遠くの山々を見つめていると、色々なことが思い浮かんでくる。
今日は何が起こるのだろうか。
目覚ましを設定している同室の子たちの携帯スマホが次々に鳴り出して、ごそごそ部屋がざわつき始める。
ブーン、ブーンという振動やメロディが鳴り響く。
そしてベッドが蠢く。
あくびする声や、うーんという目を覚ます声。
起床時間を迎えたのだ。
「おはよう、みのり……」
ベッドからようやく一人が起きてきた。
ゆっくりと二段ベッドの下からのっそりと出てきた。
「おはよう、さっちん」
さつきちゃんというその部員の一人に挨拶をした。




