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第116章「合宿⑤」

「昨日のことにも感じるな……」


 亜美のみせてくれた写真で美乃理は鮮明にこの時のことを思い出した。

 閉じた瞼にそのときの様子が浮かんでくる。


 この嬉しい笑顔の中にもまだ隠れている戸惑い――。

 この写真の頃も美乃理は自分について常に問いかけていた。



   ☆   ☆   ☆



 女の子として初めての日を迎えたちょうど同じ時期、大人の女性の身体へと急激に変わりつつあった美乃理は新体操少女としても転換期を迎えていた。

 この頃の写真の中の美乃理をみればすぐにわかることだ。

 すらりと伸びる脚に引き締まった細い体――。大きくなってきた胸やお尻も相まって滑らかな曲線が着ているレオタードに映えるようになった。

 日々の厳しい練習と配慮された食事による肉体作りから新体操のアスリートらしさがでてきたのだ。

 この時期から初対面あるいは、しばらく会っていない人から「バレエか新体操をやっているの?」とこちらから言わなくても指摘されるようになっていた。


 演技も子供の可愛らしさを強調するような動きから、より本格的な女性の美しさを求める高度な演技へと変わっていった。

 難易度、芸術性を必要とする本格的な練習へと移行していった。


 この時期、体の急激な変化に戸惑った美乃理であったが新体操アスリートとしての成長もこの時期に急激に起きたこともより戸惑いを大きくさせた。


 大会での成績が伸びていったのもこの時期で初めて優勝という栄誉を勝ち取ったのもこのときだった。

 それまでは同じクラブの麻里の後塵を拝し、二位、準優勝といったものがおきまりになっていた。

 だが、ついに優勝という栄冠を手にした。


 鮮明に覚えている記憶があり、初めて美乃理になった日のこと。ささやかだが、初めて演技をした発表会。美乃理という少女である自分を受け入れた日。


 そしてこの写真の「リトルクイーンカップ」の時も、その記憶に残る日だった。

 小学生の女子を対象にした新体操の競技会の最高峰の一つ。目指していた高みの一つに到達した。

 競技会場が遠い場所にあったため、前日からホテルに泊まって参加した。

 わざわざ送迎のバスで会場に向かう。

 さらに会場の物々しさも覚えている。

 入口に警備員が立っていて、会場に不審者が出入りしないかチェックしており、さらに会場に入ると、テレビカメラや、新聞記者の腕章を付けたカメラマンまでいた。


「凄いね、ゆうめいじんみたい……」

「うん、本当だよ」


 美乃理も亜美も目を丸くしたのを覚えている。 


 会場の二階には応援に駆けつけていたクラブチームのメンバーたち。

 メンバーたちも、貸し切りバスで朝早くに乗り付けてやってきた。

 クラブチームや保護者たちが作った横断幕――おろされている。

『ファイト! 美乃理ちゃん』

『花町クラブの小さな妖精』

 横断幕の手書きの文字には作った者の気持ちが込められていた。もちろん麻里や亜美のものもある。

 会場に入ると、クラブ生たちが立ち上がって声援を送っている。


「ほら、あそこに龍崎さんも応援に来てる――」


 控え場所にいる時、二つ前に演技の順番が早い亜美が指さした。一足先に正愛学院に進学し、今はOGとなった龍崎も時間が許せばやってくる。

 朝から大抵は応援にくるのだろうが、今日は遅れて朝の時間には現れなかった。


「本当だ」

 

 手を振ると、皆が一斉にわあっと一層大きな声援が鳴り響いた。


「あそこにわたしのパパとママがいる――」

「あ、あたしも――あ、美香まで来てる」


 お互いに気付いて手を振る。


「美香ちゃん? あ、本当だ、大きくなったね」





 直前の練習時間も終わり、後は本番を待つのみの時間。

 たまたまではあったが亜美の順番と美乃理の順番の2つ前だった。


「大丈夫だよ、美乃理ちゃん」

「亜美ちゃんも頑張って」

 

 後ろから抱きしめた。


「次、13番目の花町新体操クラブの神田亜美さん、あそこで待機してください」


 競技会スタッフの若い女性誘導スタッフが呼び出しに来た。舞台のすぐ脇の次の演技者がいる場所まで移動するように指示される。

  

「頑張ってね」

「ありがとう――美乃理ちゃんもね」


 立ち上がった亜美は手を差し出して美乃理に握手を求める。

 美乃理は小さな柔らかな手の中に亜美の緊張を感じ取った。少し震えている。

 流石に大舞台の前で、いつもの楽天さは潜んでいる様子だった。


「ふふ。こんな時でも美乃理ちゃんは平気なんだね」


 亜美の方も美乃理の持つ何かを感じ取った。


「もう、これでもすごく緊張してるんだよ」


 よくからかわれたりするが、よく言われることでもあった。


「ふふ、美乃理ちゃんを見てると、わたしも緊張してる場合じゃないって思うんだ」


 でも確かにそうなのかもしれない。

 自分はここにでているだけで奇跡――。

 亜美が手をぎゅっと握った。


「じゃあ、行ってくるよ」


 緊張が少し取れたのか、一つ大きな深呼吸をして、亜美は小さな足を踏み出した。

 青いレオタードに包まれたその背中が吸い込まれていった。


 アナウンスで亜美の名前と所属クラブが読み上げられると、一角が盛り上がる。

 そしてしばし会場は静寂に包まれる。

 わずか一分半だが13メートル四方に与えられた亜美のための舞台であった。

 孤高の少女の世界が始まろうとしている。


 機械的な電子音の直後に、優雅な音楽が流れだす。

 それと同時にリボンが舞い上がる。

 亜美は演技をを次々にこなしてゆく。

 競技である以上は身体能力は当然求められる。

 細かく採点される。

 柏原コーチもジェスチャーで応援を送る。すぐ隣に最近採用したという若い女性のトレーナがカメラを構えて記録している。


「ナイス!」

「いいよっ」


 クラブ生たちもどこがポイントなのかわかっていて、技を決めるたびにタイミングよく声援を送る。

 跳躍力は十分あり、柔軟性も優れていてた。

 どれも文句のつけようのない演技でかなりの高得点が狙えそうであった。 

(みんな成長してるんだ……)


「御手洗さん、そろそろ準備を」


 最後まで見届けたかったが、誘導係の人に促されて美乃理も自分の舞台へ向かう準備を始めた。

 手具のリボンを手に立ち上がる。



実は今回、もっと色々書いていたんですが、何故か掲載が反映されず消えてしまいました……。

もう一回ゼロから書き直しでかなり抜けてしまったところがあります。



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