第113章「合宿②」
「亜美ちゃん」
「美乃理ちゃん」
出会うなり、抱きしめ会った。
美乃理は、女の子のほとばしる熱い感情を受け止められるほどには強くなっている。
亜美の頭を撫でた。
その瞳はやや潤んでいる。
それだけで、お互いの成長を感じることができた。
会っていない内に大人びたと思った。
男子は3日別れたら、成長すると言うが女子も負けていない。
顔立ちも雰囲気も――。綺麗になったと思う。
おそらく亜美も同じことを思ってるだろう。
予想以上に成長していることに――。
子供らしい愛らしさが徐々に抜けてくる代わりに大人の色香を備え付け始める。
そんな思春期の少女に亜美もなっていた。
ようやく離れて、言葉を交わした。
「元気だった?」
「うん、美乃理ちゃんも元気そうだね、というより綺麗になってて驚いたよ」
「亜美ちゃんもだよ」
特別な関係をもつ4人の一人だ。
育成コースの同じ年齢組の4人。そして龍崎宏美の妹分。
「しのちゃんも元気?」
「うん、あたしよりも元気なくらいだよ」
今日来ていないもう一人の少女時代の立役者を懐かしむ。
「亜美がさっきからあの偉い綺麗な子と仲良うしてるけど、あの人だれ?」
関西特有のイントネーションがあった。
王鈴女子中学。西日本の新体操部の名門であった。
「うわ、あの子御手洗美乃理さん!? 話に聞いてたけど、うわ、初めて」
「ほんまやその隣にいるのは龍崎宏美さん?」
新体操界隈では、西の王鈴、東の月見坂と呼ばれる双璧であった。
だが、台頭著しい正愛学院の名は西にまで轟いていた。
「早坂真由美といいます。王鈴中の3年です。よろしくお願いします」
向こうから手を出して握手を求めたた。
「真由美で、あ、よくマユで呼ばれるんでそれでいいです」
「じゃあ、よろしくねマユ」
宏美に続いて美乃理も握手をした。
「じゃあ、早速あっちで練習の打ち合わせをしましょう」
「はい」
美乃理に併せ真由美も返事をする。
自分たちと違う少女たちと同じ空間にいることに最初は緊張や距離があった。
「整列!」
練習着姿になった女子たちの足音がばたばた響く。
誰かに見られるわけではないので、レオタードも着ない。
動きやすい格好でという合宿前の事前の指示の通り、皆シャツやスパッツなど、簡単な思い思いの格好をしている。
「よろしくお願いします!」
正愛も部員数が多いが、王鈴も西の強豪らしく多数の部員を抱えている。
広い体育館もいっぱいにする必要があった。
正愛の引率する教諭の中田先生が王鈴のコーチを話をしていた。
ふと、練習の準備に取りかかる美乃理を呼び止めた。
「御手洗さん、こちらが王鈴の木村コーチよ」
「始めまして、王鈴のコーチの木村妙子といいます」
王鈴のコーチは、眼鏡をかけた女性で若いまではいかないが、おそらく四十前後であろうと思われた。
「初めまして」
美乃理も会釈する。
「何度か競技会では見かけましたが、話すのは初めてですね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「今を時めく正愛のノウハウをたっぷり盗ませてもらいますよ」
「あはは、いくらでもどうぞ」
「さっきから、ずっと龍崎さんと御手洗さんのことが気になって仕方ないらしくて――」
中田先生の嘆きは事実であった。
決してコーチが劣っているということではない。
けれども、新体操界隈で話題持ちきりの正愛学院の躍進は、指導陣が特別に優秀だからではなく、その鍵を龍崎宏美と御手洗美乃理にみていたのは公然の秘密ではあった。




