退院
神埼が病院に入院して数週間が経った。脚の怪我は順調に回復しリハビリも何とか行える状態になった。リハビリに最初は手こずっていたが日々の努力により負傷前と同じぐらいの運動神経に戻す事が出来た。あとは傷が癒えるのを待つだけで有った。
神崎の隣の病室の相原は軽傷だったために1週間足らずで退院し
今は麻薬テロリストグループのアジトを掴むため新たなグループと合流し捜査をしていた
暇が有れば病室にも顔を出し神崎の事も気に掛けていた。そんな暮らしが続いて数週間、
ついに神崎は退院する日が来た。馴染みきった病室とも別れまた警視庁へ戻れるのだ。
神崎は病室に有る荷物をまとめスーツを着こなし最後に主治医の部屋に行くことにした。
アタッシュケースを力一杯持ち上げまだ歩くのに慣れていない足取りでツルツルとした
廊下をゆっくりと歩いて行った。主治医の部屋は神崎の病室と同じ階に有り行くのはそんなに困難では無かった。途中ナースステーションが有り看護婦たちにお元気で、という言葉をもらい神崎はますます気持ちが高ぶった。ナースステーションを過ぎると一つだけ
近寄りがたい威圧の高い部屋が有った。その部屋の周りは蛍光灯の電気が無く
昼間でも夜の暗さを出していた。神崎はその部屋に近寄ってドアを見た。
部屋の名札には”整形外科医 山本”と書いて有った。ドアノブには休憩中というプラスチック札が掛かって有ったが神崎はドアをノックすると部屋の中からどうぞ、という声が聞こえてきた。どうやら山本は休憩は診察室で休憩をしているみたいだった。神崎はドアノブをひねり部屋に入った。部屋には診察用のベットと医療器具や薬品が置いてある棚や
カルテなどが置いてある机があった。カルテを書き込んでいる白衣の若い青年がローラ式の椅子に座っていた。山本は部屋に入ってきた神崎を見つけると直ぐに立ち上がり患者が座る時の椅子を取り出し神崎に勧めた。神崎は脚の事も考えゆっくりと椅子に腰を下ろした。旧友の顔合わせのように会話を始めた。
「今日で神崎くんも退院ですか。悲しいね。」
「これも先生のお蔭です。本当ありがとうございました。」
椅子に座りながら深々と礼をする神崎を見て山本は爽やかな微笑みを表した。その微笑
みには悲しみの一面も有ったように思えた。
「いえいえ、私は何もしていないよ。私はただ君の手助けをしただけだ。」
「手助けですか・・・」
「そうだよ。私たち医者は患者の手助けする事のが仕事なんだ。時には辛い宣告を神のお告げみたく言わなくてはならないがその分全力を尽くして患者を救いたいと思うんだ。だから神崎くん君も諦めず頑張って刑事をやってくれよ。」
「はいっ!」
大きな声で返事をすると、後ろから看護婦が部屋に入ってきて神崎に上司の方が一階でお迎えに来ておられますと言付けをした。神崎は急いでアタッシュケースを持ち上げ山本と看護婦に一礼をすると脚を引きずりながらナースステーションの方に有るエレベーターまで行き開閉ボタンを押しエレベータ内に入った。アタッシュケースを置き一階のボタンを押してエレベータで一階に下った。あまり良いとはいえない乗り心地で下るとドアが開きアタッシュケースを持ち上げてエレベーターの外へ出た。一階のフロアーにはインフォメーションセンターと売店、休憩室が有り診察患者の待機用のソファーなどが有った。
辺りを見回し歩くとインフォメーションセンターに一人のスーツ姿の男性が立っていた。そして軽く微笑んで手をこちらに振っているのを見つけると神崎は脚を引きずりながら駆け寄っていった。近づいていくとそれは相原で有ることが分かるようになりますます気持ちが高ぶった。相原の所へ付くと相原は神崎に向けてグットサインを出してこう言った。
「待ってたぜ。神崎。」
相原はそう言うとインホメーションセンターの係員に礼を言い自動ドアの大きな正面出入り口へ向かった。神崎はその背中を追うようにして走っていた。
今日にて神崎はまた刑事として復帰するのであった。