Where is Momotaro?
あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは、鬼族の出身。
片腕が改造されており、装着者の意思や精神状態に感応して形状を変える“キリングアーム”という兵器になっている。
材質は鬼族だけが生成することができるレアメタル“魂鋼”。
お爺さん曰く、「生身のより、こっちのほうが具合がいい。」
そんなお爺さんは、山へ死Va狩りに。
お婆さんは、龍の巫女。
龍神による加護を受けた、土地を護り封印の任を代々受け継ぐ家系。不老不死。任を解かれない限り死ねない。
お爺さんとは恋愛結婚。腕を切られて、お婆さんの守護する土地まで飛んできたお爺さんとの、千日を超える激闘の末のゴールイン。
そんなお婆さんは、大好物の桃を噛じりながら川へ妖怪を訪ねに。
川の底、幾つもの護符、術式によって、幾重にも幾重にも、強固に、厳重に施された結界の中、封印用の呪物である「鎖」に拘束されたまま、“ソレ”は座っていた。
隻眼の魔猿。
残ったもう片方の目は煮え滾るマグマのように煌々と燃えていた。
体毛は瑞雲のように、天に昇る太陽のように黄金に輝いて、川底を明るく照らしていた。
無支祁、またの名を斉天大聖孫悟空。
「今年の桃は、当たり年じゃわい。」
「……」
「のう、無支祁。」
「……」
「黙っとらんと、何ぞ言わんかい、エテ公。」
「ババァ、焼いて喰うぞ。消えろ、カス。」
「まるでピーチ味の生クリームのような味わいじゃのぅ。」
「聞いてねぇよババァ。桃の食い過ぎで、また前よりもあの世に近づいたんじゃねぇのか?」
「あ〜、っこらっせっと。隣座るぞ、シラミザル。」
「永遠に桃色の片想いしてんじゃねぇぞ、ババァ。消えろっつたろ。殺すぞ、桃姦ババァ。」
お婆さんはずっと物騒な物言いをする魔猿を全く意に介さない。
魔猿も桃を噛じりながら自分を無視するお婆さんを、罵りはするが、本気で殺す気はない。遊びで殺すつもりなのだ。今はその時でないだけなのだ。
「で、なんの用だよ、蛟月。」
「……この世が終わる。」
「ひゃははははははははははははは!」
「………」
「真面目にか?」
「ああ、大マジじゃ。一切の冗談抜きで、何も面白くない、嘘偽りのない事実じゃ。」
「おい、ババァ、正気か?」
「わしの頭は冴えとるよ。この千年間でな、ベストコンディションじゃよ。今日イチならぬ、千年イチってヤツじゃ。」
「語呂の悪さが入ってこねぇよ。終末のせいでよ。」
「ツッコまんかい、エテ公。」
「おい、ババァ。まさか、マグロか?」
「……」
「されるがまま、なんてタマじゃねぇんだろ?」
「玉なんかついとらんわい、ノンデリザル。」
「……何の用だ。」
魔猿は少し嫌そうな、苦いものを噛み潰したような顔で、お婆さんに改めて問う。お婆さんが来た理由を察したのだ。
そのお婆さんはというと、察しがついた哀れな猿を見て、楽しそうに、やらしいニヤニヤした笑みを浮かべている。「……おれは、」と魔猿が言うのをお婆さんが遮る。
「嫌なはずなかろう?無支祁、お前はそんな奴じゃないはずじゃろう。約束がある。なあ?」
封印の護符が悲鳴の様に鳴動する、川全体が結界ごと地震の様に振動している。
斉天大聖の顔に怒りの色が浮かぶ。
マグマの様な眼が、灼熱のコロナの様に燃え盛る。
歯噛みし、軋る音が雷鳴の様に鳴り響く。
しかし、激怒しながらも悟空は思い出していた。
遠い遠い、かつて旅をした仲間と呼べる者たちと出会うよりも、もっとずうっと遠いある日のことを。
「魔猿、なぜ出ない。」
「……。小僧、オレがわかるんだな?」
「……」
「なぁ、こ」
「私は、釈迦だ。今はそう呼ばれている。」
「……」
「悟空、オマエはそう名乗れ。斉天大聖孫悟空。それがお前の名だ。」
「悟空よ。」
「あぁ、約束だ。オレは…」
桃の種が顔にぶつかる。
お婆さんが「ぷっ」と吐き出したのだ。
悟空の怒りのボルテージが上がる。
「どうじゃ?少しはセンチメンタルな気分にでもなったかや?ノスタルジーにでも浸って、しんみりしてもらえたかのう?」
悟空の顔から怒りが消える。
しかし別にやる気があるわけではなく、うんざりしたかのような顔で、お婆さんをジトッとした目で見る。
「ババァがやりゃあいいじゃねぇかよ。」
「わし無理。仕事あり。マイプリティハズバンド爺さんは、忙しい。」
「どうせ、しば狩ってんだろ?」
「大義じゃ。山のバケモンが里に下りんようにな、悪させんように駆除しとるんじゃ。」
死Vaは時折大量発生しては、共食いや殺し合いをしており、その中からあぶれたものや、生き残り業者として成長したものが人里にやって来ては被害を出しているため、お爺さんは死Va狩りに余念がない。
「………いつだ?」
「今じゃ。あ、あと2人スカウトした。」
「あ?俺にケチつけるってのか?ババァ。」
「多けりゃそれだけこっちが有利じゃろ。まぁ、仲良くせい。烏天狗と、大口真神じゃ。」
「ひゃははははははははははははは!!なるほどな!舐めイヌ(バタードッグ)と、ケツイキ野郎か!クソほどにも役に立たねぇよ!」
「まぁ、そう言わんと仲良ぅせい。ほれ、きび団子もやるから。」
そう言ってお婆さんは、一粒食べれば元気100倍、千人力となりそうなきび団子らしきものを渡してきた。
「おい、ババァ、ちゃんと合法だろうな?」
「味はピーチ味じゃよ。」
「テイストじゃなくって、イリーガルかどうかを聞いてんだよ。」
かくして、世界の未来はサル(?)、キジ(?)、イヌ(?)の手に委ねられたのであった。
…………あれ?桃太郎、いない………?




