前の住人
部屋に漂う煙草の臭い。
禁煙して何年も経つ私には、覚えのない匂いでした。
前の住人の残香なのか、それとも他人の影なのか……ふと覚えた日常の小さな違和感から始まるお話です。どうぞお楽しみください。
ふと考えた。
この物件、前の住人はどんなひとだったのだろう?なんだか煙草臭い気がしてならないんだけど。ヘビースモーカーだったのかな?
煙草吸うのは男性が多いというイメージあるけど、本当だろうか?
わたしは煙草をやめてから、はや3年半。もはやわたしについたっ煙草臭とは思えない。あ、でもパパ活で毎週遭ってるあの男。
ヘビースモーカーっぽかったよな。そいつの匂いが伝染してきたということか?
死の匂いは他者から移るものなのか、それとも私自身から匂い立つものなのか。男の吸い殻を消しながら、私は煙の向こうに消えた前住人の影と自分を重ね合わせていた。
しかし、わたしは煙草は吸わない。やはりこの匂いはパパ活相手のものなのか?
灰皿に落ちた火種を見つめながら、指先に残る微かな焦げ付きを撫でる。吸わないはずの私の手が、覚えたての動作で煙をくゆらせていた。他人の匂いに逃げるのはやめよう。この部屋を満たす煙は、私自身が吐き出したものだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
部屋の中に残る匂いや些細な違和感から、少しずつ自分と他人の境目が曖昧になっていくような不穏さを描いてみました。
禁煙したはずの指先や煙草の匂いに寄り添う感情を、静かに感じていただけたら幸いです。
感想や評価などもいただけますと大変励みになります。
また次の作品でお会いしましょう




