UNIXと芥のような人(火葬されればいいのに!)
UNIXと芥のような人(火葬されればいいのに!)
UNIXと芥のような人(火葬されればいいのに!)
テレビのB-CASカード。
地上・BS・110度CSデジタル放送の受信に必要な、あのどこにでもあるICチップ入りの赤や青のカードだ。
エラーが出たら抜いて、ICチップを拭いて、入れ直す。普通の人類ならそこまでだ。
だが、この男は違った。
男は自称無職のハッカー。
悪戯が大好きな、社会のデッドスペースに生きる人間。
彼は不敵な笑みを浮かべ、秋葉原のジャンク屋で拾い集めた「耐衝撃防水特殊加工ノートパソコン」をお
むろに開いた。
「ひ、ひひ……見つけたぞ、禁断のプログラム」
男はノートPCの『SCSIスロット』に、秋葉原の闇市(自称)で手に入れた謎のSCSI基盤と
プログラムを叩き込んだ。
令和の時代にSCSI。だが、男の骨董品PCにはそれがジャストフィットした。
さらに、部屋の壁にあるテレビのアンテナ端子とノートPCを同軸ケーブルで直結する。
男が電源を入れる。
起動したのは、漆黒の画面に文字が踊る『UNIX』だ。
カーネルが一般人には1ミリも理解できないIT単語の羅列を高速で吐き出した後、厳重なPassword認証を
要求する。
男の指がキーボードを叩くと、認証が通り、秋葉原製UNIX用プログラムが怪しく立ち上がった。
その時、薄い壁の向こうから近所の住人たちの声が聞こえてきた。
「……またあの子、変な悪戯してるんじゃない?」
「そのうちまた入院するよ、きっと病気だって」
「精神病かしら?」
男は近所の声を無視し、口元を手で押さえた。
「ぶーっ! ぐっ……ぶーっ、ぐっー!」
笑いがこみ上げる。必死で我慢するが、汚い声が漏れてしまう。
「ほら、また笑い我慢して変な声出してるわよ」
「危ない薬でもやってるのかしら。病院に連絡したほうがいいんじゃ……」
外の陰口をBGMに、男はあらかじめメモしておいた「ターゲットの郵便番号」を画面に打ち込んだ。
UNIXのコンソールに緑色の文字が浮かび上がる。
Next, enter the postal code.エンターキー。
一瞬で、B-CASカードのID番号と、一致する住所、そして標的のテレビメーカーが画面に表示された。
すべてが一致した。
「うひぃひぃひぃ……!」
男はコマンドを打ち込む。
施す悪戯の内容はこれだ。
Terrifying incidents are broadcast on every TV channel every three seconds.
【3秒ごとに恐ろしい事件を、テレビの全チャンネルで放送する。】
画面に最終確認のログが流れる。
[B-CAS card ID number. Address. TV manufacturer. Match.]
男のコマンドを受け、UNIXが冷徹に問いかけてきた。
Is it okay to broadcast horrifying incidents on every TV channel every three seconds? Yes / No男は迷わず
【Y】を押した。
信号がアンテナ線を逆流し、電波の海へと解き放たれる。
[I am sending a signal from the UNIX laptop.]PCのファンが激しく回り、最後の警告が表示された。
Do you really want to send the signal now? Yes / No
「ぶっ、ひ、ひぃ、ぶーっ! ぐっ!」
笑いが止まらない。
隣の家からは、何も知らない家族の明るい笑い声が聞こえてきている。
今からそこが、3秒ごとに恐怖が塗り替えられる地獄に変わることも知らずに。
男は【Y】を押した。
「はっ、はっ、はっ、ひっ、ひっ、ひっ……!」
過呼吸気味の笑いが部屋に響く。
「また病院送りだな、あの人間の屑」
近所の冷ややかな声が聞こえるが、もうどうでもよかった。
男は笑い転げ、床をのたうち回った。
あまりの興奮に手が激しく震える。
あ、やばい、やっぱり中止(No)にしようか。
そう思って画面に手を伸ばすが、指がガクガクと震えて「いいえ」のキーに触れることすらできない。
「アハハ! アハハハハハハハハ!」
笑いすぎて腹がよじれる。
「お、おなかが、痛い……! だ、誰か救急車よんでぇーー!」
男はそのまま、過呼吸と腹痛で意識を失った。
彼は近所でも有名な「救急車常習者」だった。そのため、彼が倒れて間もなく、誰かが通報するでもな
く、お馴染みのサイレンとともに男の身体は幕張の病院へといつも通り運ばれていった。
……いや。
男が次に目を覚ました時、そこは病院のベッドではなかった。
コンクリートの壁。
鉄格子。
光の差し込まない、まるで牢屋のような場所。
男のいない静まり返ったアパートの周辺で、近所の人たちは今日も噂し合っている。
「本当に屑ね」
「芥のような人間だったわ。早く死ねばいいのに」
「……あ、またあそこの家の戸締り、私たちがしてあげないとね」
誰もいない男の部屋。
主を失ったノートパソコンの画面には、ただ静かに、信号の送信完了を告げるプロンプトが明滅してい
た。
(乙)
気楽に読んで。




