03.5 ハルのムカシとイマ(ハルミ視点)
あれからどれくらい経っただろう
溶けない氷と水晶に囲まれた小さな世界でいつも思う
あれから世界は少しは変わっただろうか
どんなふうに変わっただろう
あれからたまに人間が来るようになった
年に一度と言っていたからしばらく数えていたけれど
特に興味も湧かず二桁もいかないうちにやめてしまった
やってくる人間から向けられる感情の種類はとても少ない
畏怖と憎悪
それは当然で仕方ないとも思う
あれを引き起こしたのはぼくの一族だから
人間たちはぼくが石となって思考も止まってると思ってる
ひそひそと話をして、結界を修正し時々強化していく
そんな結界あってもなくても同じなのに
出ようと思えばいつでも出られる脆弱な結界
少しいじれば結界を壊さずに素通りできるかもしれない
だからここにいるのはぼくの意志
ここから出ても一体何をすればいいのかわからないから
ぼくと同じものはもういない
ぼくに触れるものももういない
ぼくと喧嘩できるものももういない
世界はこんなに 暗くて 寂しくて 冷たい
今度きた人間は一人だった
今までは最低でも十人はきていたのに
一人できた人間は変な人間だった
ぼくに対する負の感情が微塵もなかった
あるのは純粋な好意だけ
それも今まで感じたこともないくらい深くて大きなもの
少しだけ、近くにきてほしかった
少しでいいからふれてほしかった
人間たちの張った結界をどうやって越えたのかわからなかったけど
ぼくの周りにある竜膜はたぶん破れないだろうから、小さく穴をあけて少し広げてみた
一人できた人間はやはり変な人間だった
いきなりのことにもぼくを畏れず、ぺたぺたと触れて、撫でて、キスをして・・・・・なめた
人間が、
ぼくを、
なめた
あまりの驚きに息を吹き返してしまったのは
いくらぼくでも仕方がないと思う