02 竜のほほえみ
「私、花山 満。姓が花山で名が満、よろしくね?あなたのお名前は?」
地面というか淡い紫銀に煌く竜の足元に下りて、見上げながらにこやかに尋ねる。
あの痛みが夢なものか。
このステキ竜を夢で終わらせてはならん!
どちらが本音かはひとまず置いといて、さらに好意を前面に押し出した笑顔で見上げつづける。
愛称は必須だとして。
どこまでなら触っていいの?
年齢差は気にする?
と、そこまで考えてハッと我に返る。
もしこの竜が誰かのペット、もしくはパートナーがいた場合、私はどうすればいい?まさかのお世話係り?
想像だけで徐々に落ち込んでいく気持ちが顔に出たのかもしれない。
大きな体が僅かに身じろぎすると柔らかいけれど焦りを含んだような声が上から聞こえた。
いや、聞こえたというよりは響いた感じだったけど。
『ぼっ、ぼく、そういうのまだで・・・だ、だからあの・・・』
こ!これは名前をつけていいってことね!むしろつけろってことね!!
一人称がぼくということと口調からみてこの子はまだ若いに違いない!
そのうえ男の子っぽいし!よーしよし!!幸先いいわ!
どうやら産まれたてというわけではなさそうだけれど、名前がまだないなら愛を込めたものを一発やっとくべき、いいえ是非ともやらねば!
見た目はキラキラしていて落ち着いた淡い輝きを放っているし、瞳の色合いも南の海のようでとってもきれい。
よし、決めた!
ただでさえ見つめていた目をさらに見開き、大きく頷くとすうっと息を吸い込む。
「あなたの名前はハルミ!春の日差しのような体の色と海のような瞳の色から春の海と書いてハルミ!
ちなみに愛称はハルよ?私の国っぽい名前になっちゃったけど・・・どう、かしら?」
こんなにかっこいい竜なんだからもっと長い名前のほうが良かったのかもしれないけど・・・たぶん私が覚えられない。
それになんだか“春”とついてるほうが可愛く育ちそうで自分の中でポイントは高い。
そして“海”でワイルドさをプラス。
かっこかわいくて、ちょっとワイルド。
いい・・・!
なんかすごくイイ!!
若干ひいてるように見えるけど何かあったのかしら?
ハッ!もしかして気に入らない!?
どう断ろうか悩んでいるとか?
またしてもどんよりしはじめたときだった。
『春の、海・・・ハルミ、ぼくの、名前・・・きれいな名前をありがとう、ミチル・・・』
・・・ほほえんだ。
絶対、ほほえんだ。
全世界の人が表情は変わってないと言ったとしても私には見えた。
目の前のハルがかわいらしくほほえんだのだ!
うかつ!
せめて恋人がいるかきいてからにすればよかった。
これでハルに恋人がいたら私、終わりじゃん。
心の準備もできなかったよ。
よよと泣き崩れる間も惜しく、引き攣った頬をなんとか動かす。
「は、ハルは、その、こっ、恋人とか、パートナーとか、ご主人様とか・・・どっかに、いる?」
たぶん私の顔色は悪い。それも相当。
異常なほどの速さと大きな音で心臓がドクドクいってる。
そんな私を不思議そうに見下ろして、ハルが小さく首を傾げる。
くっ・・・追い討ちをかけるような仕草は今は遠慮してほしいのだけど・・・
ぎゅっと拳を握った私に、ハルはふるふると首を振ると「いないよ?」と寂しそうにほほえんだのだった。