01 じつはパジャマ姿
初心者です。よろしくおねがいします。
王は言う。
あれを目覚めさせてはならぬと。
民は言う。
あれは御伽噺なのだと。
アルフラーレン聖王国の背後に聳えるカレース山脈。
そこに連なる最も険しき雄峰ロフリア。
遠目にもわかる万年雪と決して溶けない氷に守られたさらにその奥。
水晶の夢を抱き、あれは今も静かに眠り続けているという。
断ち切ってはならない鎖。
受け継がれる玉座と一つの真実。
そして王子は知った。
あれはまだそこにあったのだ、と。
びたん!
そう、たしかに“びたん!”と音がしましたよ、私の体。
しばらく痛みに耐えるようにじっとしていたけど、痛みが少し治まると今度は丸まりたくなってきた。
顔(特におでこと鼻)が痛い腕も痛い胸も痛いお腹も痛い太腿も痛い、そして激しく膝が痛い・・・
なかなか寝つけずベッドの上で寝返りをうったところに唐突に感じたのは浮遊感で。
そして“びたん!”。
何やら平らなものの上に、50センチくらいの高さからうつ伏せで落とされたよう。
体の前半分に感じる鈍痛を我慢して目を開ける。
これはベッドから落ちたね、と。
だが目の前にあったのはフローリングの床ではなかった。
白と灰色と藤色がマーブル状の模様になっている何かつやつやしたもので、ゆっくり、とてもゆっくりだが・・・模様が・・・動いている。
それはゆらゆらとして、まるで粘度の高い水流のような動きだった。
ヘンな床だと思いながら周りを見ようと、体を少し起こしたところで床の中に何かあるのに気づく。
とても大きいそれは濃い灰色をしていて大きな岩のようにみえる。
半透明の白と灰色と藤色のマーブル越しに間近に見えるそれは、よく見れば一つの西洋風ドラゴンの石像だった。
なんでこんなところにあるのかわからなかったが私の感想はただ一つ。
「・・・かっこいい・・・」
そりゃもう何がってあの鼻先!あの口まわり!あの顔つき!
一番間近にある眼を閉じた石の竜の顔を舐め回、凝視するように観察する。
うっとりしすぎて鼻血が数滴落ちてしまってもしようがないと思う。
慌てて拭おうとした右手は床を貫通。
ついで体も飲み込まれた。
かなり驚きながらまっさかさまを覚悟したのはたぶん一瞬で、ぬるま湯に浸かっているような不思議な感覚に体を動かすと、その中で泳ぐように移動できることが判明したうえ呼吸も問題ない。
となればやることはもちろん・・・
緩む頬を堪えられず、ニヤニヤしっぱなしの顔で竜の石像のもとへ泳いでいく。
ぺたりと触れた鼻先は石ゆえかやはり硬く、くんくんと匂いを嗅いでも特にこれといってしなかった。
それにしてもこの大きさは圧巻だ。
両手両足を広げてへばりついてみても、竜の石像の鼻面にヒトデのように張り付いているだけにしかならない。
直に触れてわかったことは、表面が磨かれたようにつるつるつやつやだったこと。
とても肌触りがよく、少しひんやりしているけど頬擦りしても冷たすぎずとても気持ちがいい。
あまりの気持ちよさに再びうっとりとしながら、気づけばちゅーをしてどさくさに紛れてペロリと舐めていた。
うん、味はしなかった。
例えるなら、きれいに洗って乾かしたガラスのコップを舐めたような感触?
またしてもあっちこっちとすりすりしていたのだが、不意に顔を上げて違和感を感じた。
・・・あれ?眼って開いてたっけ?
縦長の瞳孔は黒く、瞳の色は青いような緑のような深みのある色。
じっと見つめていると、ふひゅーという音とともに脇腹に風を感じ・・・あー、これはもしや鼻息なのでは?
そのまま目を逸らせずにいる先で、縦長の瞳孔がきゅっと狭まり眼を細めて・・・ものすごく、見られている・・・
そういえば表面の色も石のような濃い灰色ではなく、いつのまにか淡い銀に薄い藤色が鱗の端々にグラデーションで入っているような色に変わってて・・・
・・・えーと、どうしよう?と迷う間も、手は確実に竜の鼻先をなでなでしていたのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。