15 熱い説明会
会議室の後ろの出入り口から中をのぞくと、結構人が入っていた。
ざわざわとした室内に入り、後ろのほうのイスに座る。
膝にのせたハルがあたりをきょろきょろ見回してて、その可愛さに思わずため息が出た。
見上げてきたハルがどうしたの?と首を傾げると今度は鼻血が出そうになる。
あぶない、こんなところで出しちゃ放り出されかねない。
昨日のことを思い出さないようにも気をつけながら鼻を押さえると、時間になったのか会議室の前の出入り口から大柄な男の人が一人入ってきた。
壇上に立つと全員が席に着くのを見届けてから、すううっと息を吸い込む。
「よくぞこれだけ集まった!!諸君らの勇気に感謝する!それではフレイムドラゴン討伐について詳しく説明していく!ジェアン!」
「はい!」
元気よく返事をしたジェアンと呼ばれた細身の男が入ってきて大柄な男の横に立った。
「その前にまず報告があります。昨晩のことですが、そこのナジュ草原でフレイムドラゴンが広範囲型火炎魔法を使ったことが確認されました。被害は甚大、草原の6割が消失しています。これは我らに対する警告、もしくは挑戦と受け取っていいでしょう。」
あれ?どこかで聞いた話だ。
報告書を読み上げたジェアンに対して室内が騒然となる。
「広範囲型だとっ!」
「やはりドラゴン、侮れぬな。」
「6割とは・・・さすがというべきか・・・」
「だがこちらの人数は多い!いかにドラゴンといえど・・・!」
「いや、一番の問題はドラゴンブレスじゃ。あれは避けるしかないぞ。」
ざわざわと騒ぎ出した人々とフレイムドラゴンに謝りたかった。
それはきっと昨夜のお試し魔法だ。
でもこんな大勢の前で訂正できないし、目立ちたくもないし。
これは先にフレイムドラゴンに謝っておいたほうがいいかもしれない。
ハルを撫でながらため息を吐いた。
「そんなに怖いなら無理せず帰れ。足手まといだ。」
ハルにすりすりしてもう一度ため息を吐く。
「お前のようなガキがいようがいまいが何ら影響はない。家に帰っておとなしくしてるんだな。」
そういえばフレイムドラゴンってどこにいるんだろう?この後の説明で言ってくれればいいけど。そしたら謝りに行けるのに。
「ったく・・・誰がお前みたいなガキを連れて、って、聞いてるのか!?」
唐突な隣からの怒声に驚いてそっちを見ると、とても柄の悪そうな男が足を組んでこっちを睨んでいた。
見た目は20代。脱色しまくりのような褪せた金髪に焦げ茶のメッシュが入った髪はやや短く、両耳には5、6個ずつ原色の石がついたピアスをしている。ショート丈の黒いブーツに濃藍のズボンをブーツインして、素肌もあらわな紫のシャツは胸元が絶妙に開いていた。
ただ、灰色の目が人を射殺せそうなほど鋭すぎて、見えてないだろうけど慌ててハルを抱き締めた。
私はこの人を知らないし、この人も私を知らないはずだ。
この人がどうして怒ってるのかわからなかった。
ねぇハル、何があったの?
ぎゅっと抱き締めたハルの耳元で小さく囁くと、透過と防音の魔法がかかっているハルも声を潜める。
『ぼくもわかんない。どうも独り言を言ってて怒り出したみたいだけど・・・』
ああ、こんな短気な人の隣になるなんてついてない。
さらにハルを抱き締めてため息を吐いた。
「しかしだ!諸君!!」
突然の大声で室内を黙らせ、視線を集めた大柄な男は豪快な笑みを浮かべた。
「これだけの人数がいるんだ!挟み撃ちさえできれば楽勝だろう!!背中に攻撃を集中すればいかにドラゴンといえど軽傷では済むまい!!」
「「「おおおーー!!」」」
どよどよっと室内がどよめいて、顔を見合わせるものがそこかしこにいる。
これはいける!とか言ってるけど、そもそもどうしてフレイムドラゴンを討伐したいんだろう。
畑に被害がでてるとか?追い出すだけじゃだめなの?
私は討伐に参加してくれって言われただけしか知らないから、理由をきちんと知るべきかもしれない。
ハルを見つめ、頭をなでなでする。
ハルみたいに話せばわかってくれる竜だっているんじゃないのかな。
もしかしたら血だってわけてくれるかもしれない。
そう思いながら話の続きを聞いていた。