12 討伐への勧誘
歩く鎧は言った。
「次の討伐に加わってくれないか。」
と。
もちろん断る。
何の討伐かは知らないけど、そんなことしてるヒマなんてないから。
私には崇高な使命があるのだ!
ハルを精一杯守りハルを目一杯慈しみハルをこれ以上なく幸せにしハルを愛情一杯愛で撫で舐めまくりハルを深淵の底よりも深く愛し尽くしてハルとのでれでれらぶらぶ生活をハルとともに送るという輝かしい未来のために私の寿命を延ばす魔法かアイテムを手に入れるという使命が!!
「せっかくのお誘いですが、お力になれず申し訳ありません。」
ぺこっと頭を下げて路地裏から去ろうとする。
「あ!待ってくれ!君ほどの力があれば助かるんだ!頼む!謝礼ならなるべく出そう!どうだ!?」
「出来ません。」
「そ、即答か。少しも迷わんとは・・・何故だ?理由くらい聞いてもいいだろう?」
理由?
そんなに聞きたいなら教えてあげよう。
「私には使命があります。それだけです。」
そっとハルを見つめて微笑む。
ああ、和む。見つめ返してくるハルのくりっとした海色の瞳なら何日でも見つめていたい。ずっと見つめていたい。
じっとハルを見つめすぎて少し鼻息が荒くなる。
そこでハルがちょいちょいと袖を引いて鎧を指差した。
そうだ、人がいたんだったね。
しかし何をどう誤解したのか、慌てたような鎧が体の前で手を左右に振り始めた。
「すまない!そんな病弱な体だとは知らず無体なことを言った!今のは忘れてくれ!」
「・・・では、失礼します。」
意味がわからなかったが、もう一度鎧に頭を下げてからその場を去った。
二度あることは三度ある。
あのあと三度どころではなく鎧たちに勧誘された。
原因はばかすか貯まる路銀の元。
路銀が貯まるにつれ、思い出したように鎧に遭遇する。
たぶん鎧の中身は別人だと思うけど、ほとんど区別がつかなかったから鎧と話すたび鎧が同じすぎてデジャヴを体験した気になった。
そしてこの鎧も。
「そこのあなた、次のフレイムドラゴン討伐に参加してくれませんか?」
え?今、ドラゴンとおっしゃいましたか?
ちらっと鎧を見た瞬間、ぎゅっと小さな手に腕を握られる。
ハルを見ればうるうるした瞳で浮気はダメって言ってた。
わかってる、わかってるよハル。ハル以上の竜なんて私にはいないから。
安心させるようにハルに微笑んだら鎧がぱちぱちと拍手した。
「参加してくれるんですね?ありがとうございます!最高褒章はフレイムドラゴンの血もしくは鱗です、よろしくお願いしますね!!」
あ、と思ってるうちに言い逃げされた。
迂闊!断られないように見事な俊足で走り去った全身鎧の総重量を知っておくべきだったのだ!
呆然と砂煙を見つめているとハルが小さな手で指先を握ってきた。
『これに参加してみよう。』
急にどうしたんだろうと首を傾げて見つめれば、ハルがいたずらっ子のように笑った。
『ぼく、フレイムドラゴンの血が少しでいいから欲しいんだ。』