11 初めての魔法戦
ハルに乗せてもらって、やってきました城下町。
左腕にハルを抱っこしてお店を覗いていく。
ハルは透過の魔法を自分にかけてるから人に見られる心配はないし悪代官に狙われることもない。それに竜自体珍しいらしく、余計な厄介事に巻き込まれないためにも必要なことだった。
ついでに血ぬれのパジャマはハルのおかげで素晴らしい装備になっている。
いうなれば竜の鱗セット!
ハルの鱗一枚とパジャマが合わさって、赤い長袖ワンピースとルームシューズのような黒い布靴になったのだ。
これがこの世界の一般的な女性の服装ということで無防備に町をうろちょろしてたところ。
「なあなあ、そこのお嬢ちゃん。いい話があるんだがよ、ここじゃちょっと、な?」
ほんとにいるのねぇ、こういう手合いが。
妙に感心すると、ちらっと腕の中のハルを見てから素直について行く。
つれて行かれたのは 暗い路地裏だった。
「お嬢ちゃんはバカだなあ、こんな簡単に知らない人について行っちゃダメだぜぇ?さあさっさと出すもん出してもらおうか、んん?」
げへげへ笑った顔はかなり下品。
丸いボールをちらつかせながら男が一歩近づく。
何あれ?
とっても自信満々な様子からただの町娘を恐喝しようという魂胆は丸見えだけど、その右手で上に放り投げては受け止めてる赤いボールはただのボールではないの?
「ちょっと、その丸いのは何?」
ボールを指差して尋ねると、男がにやあっと笑う。
「これかい?これはねえ、お嬢ちゃんが言うことをきいてくれなかったときに使うものだよお?」
ひひひっと笑ってもう一回放り投げる。
「ところで、いい話って?」
「わっかんねえガキだなー、あんなのはう・そ。さっさと金目のものを出せば助けてやるぜえ?」
「・・・はあ、やっぱりね。それならこの話はなしよ。」
ため息を吐いて男を見れば、下品に笑った男が右腕を眼前に突き出した。
「これを見てもそんなことが言ってられるかなぁ?」
振りかぶって勢いよく振り下ろした男の手から赤いボールが離れる。
「弾けろぉっ!!」
飛んできたボールが男の声に反応したのか、すぐに割れて中から赤い炎が噴き出した。
舐めるように伸びてきた炎が目の前30センチのあたりでふしゅうっと消えると次の瞬間、目の前30センチのあたりに渦を巻くように出現して男に踊りかかった。
驚いたような男が横に転がったけど、避けそこねたのか頭頂部の髪がちぢれて煙が出ている。
「ハァ!?まさか反射の魔法かっ!?そんなものいつ使いやがったこのアマぁ!!」
体を起こしながら怒りに満ちた声で男が叫ぶ。
そっちが仕掛けてきたんじゃない。私は何もしてないのに。
「だが反射の魔法は一回しか効果がねえ!今度はもらったぜぇい!!」
そう言って男は次のボール魔法を放つ。
当然魔法は跳ね返った上、今度は威力も上がってた。
『ついでに増幅の魔法もかけちゃった。』
首元ですりすりしながらハルがご機嫌で教えてくれた。
さっすがハル!そのうち星のついた短い杖と黒くて先のちょっと折れた三角帽子をかぶって魔法を使ってほしい。帽子のつばからは角がぴーんと飛び出しててきっとかわいいに違いない!しっぽを振り振り杖をくるくるする度に星が散らばって、えーい!の掛け声で魔法が発動・・・あっぶな!もうちょっとで鼻血が・・・
声を出すと不審に思われるのでハルにすりすりし返すだけにして、ずびっと鼻を啜って男を見た。
顔面蒼白で腰を抜かしたように尻餅をついて、地面についた両手で上体を支えている。
一歩踏み出しただけで男の体が大げさなほど震えた。
「どうすればいいか、わかるよね?」
数件同じ目に遭って、当面の路銀が出来たと財布の紐を締める。
さらにもう一件遭遇して相手が勝手に自滅したとき。
「君、ちょっといいか?」
そう声をかけてきたのは灰色の全身鎧だった。