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ハルミチル  作者: ねむこ
11/22

08 ハルの出来心




「もちろん絶対捨てないよ。捨てるわけがないよ。ハルがもう嫌って言ってもお願いどっか行ってって泣いて頼んでも捨てないから。それより私のほうこそ捨てないでね?私はきっとしつこいよ?私を捨てたらハルに一生つきまとうし、一生が終わってもつきまとうよ?人間の寿命は竜より少し短いみたいだから、ハルの後ろにべったり張り付いて離れてあげないから。」


うふふ、と微笑みストーキングの宣言をした。これで引かれても困るけど、ラブラブな今ならこれくらい釘を刺しておいても大丈夫だと思う。

目を見開いて、数秒止まったままだったハルがもじもじと見上げてくる。


『うん、ずっと、ずっと一緒にいてね?』

「もうー当然でしょ!このこのこのー!」


うりゃうりゃと撫で繰り回しほっぺにすりすりしてからちゅっとした。

今なら黒尽くめ全員の土下座と徹底的な床掃除で赦してやれる気がする。


「それにしてもあいつら、いつまで私たちのこと無視する気かしら。」


ハルを抱っこしたまま睨みつけるとハルが不思議そうに小首を傾げた。


『それはミチルとぼくに今も透過と防音の魔法がかかってるからだけど・・・あ、えっとね、いまかかってる透過の魔法はぼくたちの姿をそこに無いように見せる魔法で、相手には後ろの景色がそのまま見えてるよ?それと、二つ目の防音の魔法は音や声を外に漏れないようにする魔法でね、どんな大きな音でも外には絶対聞こえないんだ。』


ちょっとだけ魔法には自信があるんだ、えへへ。と態度で表し、はにかんで得意げにするハルに思わず頬擦りする。こいつめ!なんて可愛いんだ!!でもごめんね?あのときはハルのちゅっ+シャボン玉ふわんに夢中でどんな魔法かしっかり覚えてなかったの。効果も聞かなかったしね。

そうか、あいつらには見えてなかったし聞こえてなかったのか。良かった。本当に良かった。

それにしても二つの魔法を一緒にかけられるなんてハルってちょっとすごいんじゃないかと思う。

この世界のことは全然知らないけど、この様子ならハルに魔法の才能とかけっこうあるんじゃないかな?


いまは幼いけど将来は魔法学校に入ってその才能を伸ばすとか、きゅいきゅい言いながら星のついた短い杖を振るハル・・・やばい、誰にも見せたくない!って、なんで私は入学してないの!?才能がないから?それなら止めないで警備員さん!私は怪しいものじゃないの!ちょっと影からハルの様子を見に来ただけの婚約者で恋人なの!!未来の奥さんなのよ!!いいでしょ!?少しくらい!だいたい全寮制なのがいけないのよ!ハルがちっとも家に帰ってこないんだからー!

ダメだ!魔法学校はだめだ!!あんなに会えないんじゃハルが誰かの毒牙にかかるのは時間の問題、むしろ瞬殺だ!!ハルー!私を捨てないでー!!小さな街灯の明かりの中、ピンクの竜と二人で去り行くハルに手を伸ばし倒れこむ。ああ、ハル・・・そのピンクの竜子ちゃんは新しい恋人なのね?


『ミチルの世界には魔法はなかったの?』


魔法学校入学の文字が消えた。

つんつんとパジャマを引っ張り、ちょっと首を傾げるハルの背中を撫でる。どんなに思い出しても私のまわりにそんな奇特な存在はなかった。


「うん、1つもね。本の中や想像の産物の中にはあったけど実際には使ったことも見たこともなかったの。」

『そうなんだ・・・じゃあ、ミチルに本物の魔法を見せたのはぼくが初めて?』


期待のこもった眼差しに頭をなでなでする。目を細めて気持ち良さそうなハルが、早く早くと言ってる気がする。


「そうよ?ハルが初めてだったの!ハルの魔法は可愛くって綺麗だったぁ・・・」


思い出してうっとりする。魔法ってもっと呪文とか唱えたり杖を振り回したりするのかと思ってた。だけどハルの可愛い魔法はそんなことなくって“ちゅっ”だけ。

ちゅ・・・はっ!これよ!これに気をとられてあんな羽目に陥ったのだ!ハルにこのことを注意しておかなければこれから先、私の身がもたないのは目に見えている。他人に魔法を使うハルがその度ちゅっなんて・・・耐えられない!


「ねぇハル。よくわからないけど、魔法を使うときって絶対ちゅってしないと・・・いけないの?」


きょとんとした顔のハルがしばらく考えると、ふるふると首を振る。


「じゃあ、ちゅってしなくてもいいのね?」


そう聞いたとたん、はっとしたハルの目がわずかに泳ぐ。なに?どうしたの?

ん?と覗き込むとハルはぎゅっと目を瞑り俯いてしまった。体を丸めてなるべく小さくなりながらぷるぷると震えている。なにが起こったのかわからず、なんとか落ち着かせようとその体を撫で続ける。


やっと聞こえたハルの声は泣きそうでとても小さかった。


『・・・ご、めん、なさ・・・』

「・・・どうしたの?なんで謝るの?」


ずっと俯いたまま震えているハルが、きゅうっと手を握り締めている。その手にかぶせるように掌で包み込み親指で優しくさする。


『本当は、必要ないの。キスも、何も・・・でも、ミチルに少しでも触れたかったから・・・だから、ぼく・・・』


くうーっ!!ほんとなんて可愛いんだ!!!腕の中でいまだお腹を上にして丸まっているハルをぎゅっと抱き締め、そのほっぺに何度もキスをする。

おずおずと顔を上げたハルとしっかりと目を合わせ、最高の笑みを浮かべた。



「ハル!キスをするのもされるのも私とだけって私に誓って!!」




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