07 初めての嫉妬とご奉仕
※ご注意ください
相手は竜ですが、たぶんR12くらいだと思います。
黒尽くめの一団は、怪しさ花丸つき満点の長身軍団だった。
しばらく睨みつけていたが、何かし始める素振りもないので警戒しながらじっと観察してみる。
他の黒尽くめに比べて割合近くに立つ金髪の男は、地面からやや浮いてる私とあまり変わらない位置に頭頂部があった。白い息を吐き出すその顔色は少し青白い。顎に汗でも伝ったのか、ぐいと右腕で拭っている。まさかの暑がりなのか?それならそんなマントと鎧なんてはずしてしまえばラクそうなのに。
次に男は遥か上空を見上げて喋りはじめる。同じとこを見てもそこには何もないんだけど?それに男の言葉は聞き取りづらく、強いて言えば意味不明だった。何かが微妙。と、ここで気づいた。あー、言葉通じないんだ、この人たち。異世界へ来たんだから当然よね。でもそれなら良かった!ハルとは言葉が通じて!ハルと言葉が通じてなかったらストーカーになってたかもしれない。いや、絶対なってたと思われる。
それにしても私たちが見えてないはずないのに無視するしハルの部屋壊しといて何様なの?どうやらあいつらは入り口を無理やりつくって入ってきたようで、さっきまでなかった入り口もどき周辺には瓦礫と氷の欠片が散乱している。
徐々に大きくなる怒りに、ハルをそっと体から離しその場に浮かばせた。
何か一言言ってやりたくて黒尽くめたちに泳いで近づく。少し近くで見た金髪はまあ美形だった。まさに絵本の中の王子様。ただそんなものはハルにしたことを思えばこれっぽっちも意味はない。
マーブルの向こうにいる金髪が仲間と何か喋っている。ここまで来ても無視とはいい度胸だ。後悔させてやる。
「ちょっとあんたたちねえっ!」
びしっと金髪を指差し、一言とは言わず怒涛のごとく怒りを吐き出そうとしたところで、腰にあてた左手にぴとっとくっつく感触があった。
はっと見下ろせばうるうるした海色の瞳が見上げている。
『・・・ミチルは、ミチルはその人間のほうがいいの?・・・ぼく、より?』
ハルの両手にきゅっと掴まれた指先に少し力がこめられた。勢いをなくした私の右腕がゆっくり下がる。そんな馬鹿な。ハルよりこの金髪がいいなんて絶対あるわけないのに。
何を勘違いしたのかハルはいまにも泣きそうな顔で胸に縋りつくとぶんぶんと頭を振った。
『いやだ、いやだよミチル!誓いのキスだってしたのに!お願い、ぼくを捨てないで!!』
ぶはぁっ!!
再び私の鼻は血を噴いた。今度は右肩が犠牲になった。
ハルを片手で抱き締めながら残りの鼻血を右袖で拭うと、よしよしと額から後頭部へ向かって何度も撫でる。何に気が動転したのかはわからなかったが、きっとあいつらのせいだ。
黒尽くめに怨嗟の思いをぶつけていると、私の喉元にあったハルの頭がもぞりと動いてハルのおでこが首筋に擦り付けられる。
そして―
ぺろんと。
ハルに、舐められた。
少しひんやりしたハルの舌は細くて長く、うっすら濡れていた。
もう一度、ぺろん。
『ねぇ、気持ち良い?』
また同じところを、今度はゆっくり舐められる。
『んぅ、ねぇ、気持ち良い??・・・んっ、ねぇ、ミチルぅ・・・はぁ・・・』
舐めることに夢中になりだしたハルに腰が抜けそうだった。
返事をしたくても今声を出したらどんな声が出てしまうのか怖い。あたりにはたくさんの黒尽くめがいる。見えてないわけないのに、なぜかこっちを見てるものはいない。無視してるのはたぶん背中を向けた小さなハルが何をしてるか気がついていないからなんだろう。気づかれたら最悪だ。ああ!こんな可愛いハルを唆したとか篭絡したとか言われて絶対ハルに嫌われる!それにこんな状況を知らないひとに見られるなんて!こんな状態のハルを見せるなんて!!
そんな中、異常に興奮してきたことに気づいて愕然とした。
それにそのことをハルに気づかれた予感がする。
『ミチル・・・いっぱいどきどきしてる。ミチルはこうするの、好き?』
ああ!自分でも知らなかったこんなこと!それならハルにだけは知られたくなかった!!私は変態だ!!
長めの首を起こし、少し上目遣いで見つめるハルに後ろめたい気持ちでそっと頷く。本当は視線を逸らしたかった。でもそうするとこの後のハルを見逃す。
『良かった。ぼくもミチルにこうするの、好き。』
照れたようにぐりぐりとおでこを擦り付けたハルが満面の笑みでしっぽを振って嬉しそうにしている姿は愛くるしい。見逃さなくてよかった!うん、もう変態でいいや!
頭から背中を撫でると、気持ち良さそうに目を細めたハルが胸にもたれてそこですりすりっとする。そのままの体勢で数秒動かなかったハルが、下から静かに見上げてきた。
『あのね?あんなことするの初めてだったから上手くできる自信はなかったんだ。練習もしてないし・・・でもミチルが離れていくのを止める方法を思いつかなくて・・・』
少ししょんぼりとしたハルの瞳が瞬く間にうるうると潤みだす。
『ねぇ、ミチルはぼくのこと、好き?・・・ぼくはミチルの心も体も柔らかくて暖かくて、大好き。』
苦しそうにほほえみ、わずかに首を傾げるハルにそっとキスをして頬擦りする。心の底からの想いをハルにあげたい。目一杯あげたい。断られてもあげたい。
「うん、ハルのこと大好きだよ。ハルの瞳も顔も体も鱗も爪も牙も角もしっぽも舌も。ハルの全部が可愛くて愛しくて大好きだよ!」
そう答えてもう一度すりすりしてからハルを見る。これでハルと完全な両想いになれたのだ。湧き上がる喜びで自然と笑みの浮かぶ唇にハルがキスをする。
夢見るようにうっとりとほほえんだハルが、そっと耳元で囁いた。
『・・・ねぇミチル。ミチルが望むならぼくはどんなことでもしてあげる。だから・・・ぼくを捨てないで?』