5.知り過ぎた者、無知なる狩人
溢れ日が射す森の中、エルフの少女と獣の影が駆けて行く。
刹那、少女から矢が放たれ獣の影を射ぬく。
見たところ、彼女の狩人としての腕前は一流と言って差し支えないだろう。
上手く、骨を避け心の臓を射ぬいている。
「見事……」
「はい、そこ! 油断しないッ!!」
彼女の小気味の良い注意の声がこちらに飛んでくる。
「ああ、なるほど……」
心の臓を射ぬかれた獣は先程までの速さは失ってはいるがそれでも尚、と言った様子で駆けこちらへと突進してきた。
「イタチの最後っ屁と言う奴か……」
いや、これは猪突猛進と言う奴か?
見ると、今しがたまでその正体を見定めてはいなかったが、ようやく俺も影の正体を理解した。
けたたましい嘶き声が森の中に響く。
それと同時に鳥達が空へ飛び立つ。
魔猪と言うところだろう……
体躯は人間の体高の半分程と言った所。
まあ、大きくはあるが驚異ではないな。
直ぐに視点を定め、魔猪に座標を定める。
「時空結界クロノス起動」
その瞬間、魔猪の動きが止まる。
猪は何が起きたのかわからないと言った様子で固まっている。
その姿は今にも駆け出しそうな格好だ……
「すまないな、これでは君を無駄に苦しめることになってしまうな……」
猪に向かって手を掲げる……
そして、その手を強く握る……
“生命簒奪術式ハデス”起動
その瞬間、猪の中にある射ぬかれた心の臓が弾け、最後の命の灯火すら消えた。
いまや猪の意識はなく、死してなお先程までの姿で立っている。
「時空結界クロノス解除」
その俺の言葉と共に猪は思い出したかのように揺らめき、そして倒れた。
なるほど、これぐらいのレベルの魔獣なら大した、問題にはならんだろうな。
そんなことを考えているとエルフの少女がこちらにやって来た。
「貴方に取って、この程度じゃ障害にすらならないみたいね」
そう言うと彼女は腰から短刀を取り出し猪の解体を始めた。
「まあそうだな。だが金になる猪の解体方法は知らん、教えて貰えると助かる」
「あら、以外と知らないこともあるのね。いいわよ、まずは……」
そう言うと彼女は短刀を猪首辺りに刺して見せた。
僅かな血が吹き出し地面を濡らした……
「それと……」
「ん? それと何?」
彼女が猪の皮を剥ぐのを眺めながら俺はおもむろに口を開いた。
「君の目的が何かそろそろ話して貰おう。只の親切で俺に近付いた訳じゃあるまい……」
そう言うと彼女の腕がピタリと止まった。
「まあ、流石にそうよね…… そう思うのが当然よね……」
一言呟くと彼女の止まった手が再び動き出した。
彼女の手は淀みなく解体を進めていく。
「当たり前だな……」
我ながら、この頭に成ってから便利だな。
一度見た物は、覚えようと思えば余すことなく覚えてしまう。
この解体技術も忘れることはないだろうな……
「その……」
「その、なんだ?」
彼女はおもむろにその重い口を開いた。
心根しか、その解体の手も重たそうに見える。
「私に魔術を……」
「魔術を?」
まどろっこしいな、はやく結論を言って貰いたいな。
まあ、それだけ口をつぐむ理由があるのだろうな……
そんなおり、彼女は意を決した様に口を開いた。
「私に魔術を教えて下さい!」
む、なるほどそう言うことか……
はてさて、どうした物か……




