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3.知り過ぎた者、行き当たりばったり

「周辺座標の時間を遅延。多重時空結界クロノス起動」


「座標を時間結界クロノスに指定。周辺座標の時間の多重遅延及び虚数空間への収納を開始」


 先日と同じ手順で秩序の虚を虚数空間へと押し込んで行く。

 虚は先日と同様に何処か不満げな様子でこちらを眺めながらも空間と空間の隙間へ吸い込まれるように入って行く。


「101年…… いや、これ一つじゃ、一年の延命にも成らないか……」


 まあ、いい。


 それでも、やらないよりかはマシだろう。

 侵食比率も少なくて済む。


 さて……


「それで、さっきからこちらを盗み見ているのは誰だ? 昨日のエルフか?」


 そう言うと木陰からエルフの少女が顔を覗かせた。

 

「ふん、やっぱりか、リベンジマッチでもしに来たか? まったく、面倒だな。悪いが次は…… 加減はしねぇぞ……」


「ま、待ってよ! そんなつもりはないってば!!」


 そう言うと、エルフは手を目の前でバタつかせながら、顔をブンブンと横に振って見せた。


 敵意は全くと言って良いほど無いらしいな。

 背中に背負った弓を取り出す様子もない。

 

 こちらを見る目もおっかなビックリと言ったよ様子だ。

 どうやら、俺の方が完全な格上だと思っているらしい。


 いわゆる、ヘソ天状態と言う奴だろう。


「なら、なんのようだ……」


「いや、それは……」


 そう言うとエルフはおまむろに視線を俺の後ろへと向けた。

 ちょうど、先程まで秩序の虚があったところだ。


「気になるのか?」


「えっ!? え、えぇ、それはまぁ……」


 少し、頭を抱える。

 ああと……


 少し頭の中の知識を引き出してみる。


 確か、この世界、この時代では秩序の虚の存在は一部の魔術師にしか認知されていない。

 しかも、その一部とはかなり高位の魔術師であり、特異な魔術系統に属する者達だかなんだか……


 特異な魔術系統に属すると者達とは……

 なんぞやぁ!?


 ううむ、これ以上の検索は避けよう。

 頭が割れそうだ…… 

 これキツいんだよね……


 取り敢えず、目の前のエルフが秩序の虚の存在を知らないのは致し方無い事だと言う事柄だけわかればいい。


 なら、取り敢えず説明するか……


「これは秩序の虚と言う現象だ…… 知っているか?」


 問い掛けると、エルフは「知らない」と首をブンブンと横に振って見せた。


 まあ、そうだろうな……

 

「秩序の虚とは魔術、魔力、魔素、マナ、オド等と言ったエネルギー物質の働きを無力化してしまう空間の名前だ、理解したか?」


 見ると、エルフは口をポカーンとさせている。


 よし、さてはコイツ馬鹿だな……


「り・か・い・し・た・か?」


「えぇ!? あ、あぁ、も、も勿論勿論よ!! あ、ああ、あれね、あれ、秩序の虚ね、虚ッ!! そう言えば、故郷の近くにも有ったっわね!! ははは!!」


 嘘つけ、このバカたれエルフ。


「エルフの里の近く秩序の虚なんて出たら一大事だぞ。魔法、魔術の類いが使えなくなるんだ。しかも、その範囲が少しずつ広がってく、大事件だぞ?」


「は、はぇ……?」


 思ってたより馬鹿だな、このエルフは……

 エルフってのは頭が良いもんじゃねぇのか?

 

 俺に弓を射った時の姿は凛々しくも美しかったのになぁ……


「はあ、時間の無駄だったようだ。俺は行くぞ……」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよッ!!」


 呼び止める声を遮るように手を挙げる。


「もう、あの街のギルドには立ち寄らん安心しろ。こちとら厄介事を起こすつもりはないんでな」


「いや、そう言う事じゃなくって……」


 エルフが俺の後をついて歩いてくる。

 

「じゃあなんだ!? なにが目的だ!?」


「ええぇ!? 目的って、それは色々と…… さっきは何をやってたのか? とか、昨日の魔術はなんだとか聞きたくて? えっと、あと……」


「チッ、今のは虚数の虚を封印して虚数空間に放り込んでたんだ。昨日のは時空間魔術で矢を止めたんだ、以上!」


「……時空間魔術って」


 見るとエルフは口をポカーンとさせてこちらを見ている。

 それ何度目だ、お前……


 まあ、どれも特異魔術師だからな。驚きもするだろう。

 

 だが、そんなの別にどうでもいい。

 ぶっちゃけ、俺は魔術の事はよくわからん。


「取り敢えず、二つの事柄は答えた、これでいいな?」


「いいなって、貴方ねぇ……」


 相も変わらず頭の悪そうに口を開いている。そして、歩いている俺の後を馬鹿の一つ覚えの様に着いて来ている。


 コイツは産まれ立てのアヒルか何かか?


 なんか、罠とかに誘き寄せられてたらどうすんだ?

 まな板の上の鯉にでもなる気か?

 それとも、鴨鍋にでもなるか?


 馬鹿馬鹿しい、相手してられん。


 俺は魔力を集め転送の準備に入る。


「わ、わ!! そ、それ!! 何しようとしてるんですかそれ!! おしえて、おしえなさいッ!!」


 俺の身体が光っているのを見たからか、彼女があわてふためきながら声を上げる。


 本当にやかましいなこのエルフは……


「転送だ、ここではない何処かへ飛ぶ! ステキだろ?」


「ちょ、ちょっと待って、待って下さいって!! もうちょっと、話をッ!!」


 なんだ、なんだこのエルフは!?

 どんだけしつこいんだ!?


 何が目的なんだ!?


「ええい!! しつこいぞ、次はなんだ!?」


「あ、いちおう話は聞いてくれるのね……」


 まあ、別にやかましいが無視する程ではないからな。

 むしろ、コミュニケーションが取れるのはコチラとしては助かる。

 

「で、なんだ!?」


「え? いや、なんだと言われても……」


「なにもないなら、俺は行くぞ……」


 そう言うと俺は再び魔力を集め出す。

 身体から赤い光が溢れ出しくる、そして……


「ちゃ、ちょちょちょ、たんま、たんまーーーーーッ!!」


 そう言うと、エルフは俺の腕をガシリと掴んでみせた。


 意外と力が強い。


「ええい、次はなんだ、なんだどうした!? そして、力が強いッ!!」

 

「ど、どうしてこの街に、あのギルド来たんですか?」


「む!」


 それは確かに説明しといた方がいいか。

 変な悪評が広まっては後々困るかもしれないからな。


 只でさえ、暴れ散らした形になってしまったんだ、何か弁解の余地ぐらい置いていった方がいいか……


「いやな、当面の活動資金が欲しくてな……」


「カツドウシキン? それは、なんの活動資金ン?」


 俺は先程まで集めていた魔力を虚数空間に納めると、今しがた封印した虚数の虚のあった方に視線を向ける。


「虚数の虚を封印する為にな。まあ、色々と要りようなんだ。ギルドに入って手っ取り早く稼ごうとしたが、上手く行かなかった」


「なんだ、ならアタシが口を利いてあげるわよ!」


 そう言うと、彼女は自分のまったいらな胸をドンと叩いて見せた。


 おお、なるほど。

 次は俺が口を開いて鯉みたいに着いていく番かッ!!


 うん、それは渡りに船だな。

 行き当たりばったりではあるが、まな板の上の鯉になってやろうじゃないか!!


 このエルフに何か魂胆が有ろうが無かろうがこの際どうでもいい。

 ぶっちゃけ、このエルフ、なんか魂胆があるのだろう……


 まあ、こちらとしてはギルドに入れれば問題はない。

 上手く行けばギルドに入って夢のYouTuber生活。

 もし騙されてたら全てを力でねじ伏せる。


 これでオーケー……

 我ながら完璧な計画だ……


「うむ、ならギルドに入りたい。口を利いて貰えるか?」


「え、ええ!! この私に任せなさいッ!!」


 そう言うとエルフの少女は無い胸を張りながらまっ平らな胸に手を当て見せた。

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