2.知り過ぎた者、強い
「地獄に送ってやる!! キィエエエエエイッッ!!」
衛兵さんが凄まじい勢いでこちらに突きを繰り出してくる。
うむ、まさしく、あれは二の太刀要らずの示現流。槍だけど……
仕方ない、よさんか宇治木するしかあるまい。
あと、牢獄から地獄に送ってやろうになってるぞ。送る場所がランクアップしているぞ。
「簡易時空結界クロノス起動」
俺は言霊と共に瞳で座標を指定する。
その瞬間、ビタリと宇治木が止まる。
「あぐっ…… な、こ、これは……」
見ると宇治木は露骨に狼狽えている。
どうやら時間を停められるのは初めてらしいな……
辺りを見るとギルド内の人々も流石にこちらに注目している。
驚愕している者もいる、特に魔術師達はビックらこいてる。
この魔術は珍しいのだろうか?
幾人かは加勢しようとでも言うのか腰に差した剣に、側に立て掛けてあった槍に手を伸ばそうとしている。
ふむ、全員が前衛職の奴等か……
すかさず、それらも座標に指定し停止させる。
「無駄な事はするな。俺は冒険者に成りたいだけだ。その…… なんだ…… アレだ、子供の頃からの夢だったんだ……」
「け、剣が抜けねぇ!」
誰も俺の話を聞いてくれない。
どうやらそれどころじゃ無いらしい。
どうした、どうした?
「や、槍がッ! な、なんだッ!! ど、どうしてッ!!」
辺りが慌ただしくなる。
疑いの眼差しと、恐怖の眼差しがこちらに向けられる。
うむ、失敗だ……
これは大失敗だ……
冒険者になったら簡単には稼げると思ったのに……
どっかの世界のYouTuberとか言う職業みたいに……
くそ、これは違う方法で活動資金を捻出しなくてはならないな。
やはり、YouTuberも楽ではないな……
その瞬間、鋭い風切り音が響いた。
これは弓矢の風切り音だな……
一体何処から……
いや、それより……
見ると、俺のこめかみ辺りで矢が止まっていた。
なんて便利なんだ俺の時空間魔術。
俺の魔力探知範囲に入ったら自動で停止させる術式に成っているらしいが、こいつはすげぇな……
やっぱり便利、僕の時空結界クロノス。
「嘘…… そんな嘘よ…… まさか時間魔法……」
そんな言葉が聞こえて来る。
見ると、そこには今、俺が止めている矢を放ったであろう少女が立っていた。
少し気の強そうな顔をしたエルフの少女。
しかし、その顔は恐怖にも怯えにも似た表情に移り変わりながらこちらを見ている。
あんまり、そんな顔をしないで欲しい。
悲しくなっちゃう……
いや、今はそんな事を考えたいる場合ではない。
思考を切り替え、エルフの少女を見る。
なるほど、彼女の構えた弓からはかなり強めの魔力を感じる。
よくわからんが業物? なのだろう……
彼女自身もかなりの使い手? なのだろうな……
それにしても……
「時間魔法と言うのか、これは?」
「え……」
エルフの少女は目を丸くしてこちらを眺める。
冷静に考えると今の質問、我ながらヤバイな……
恐らく、この世界の時代背景として時間と空間は結び付いた存在だとは解明されてないのだろう。
だから、呼称がいまいち一致しないのだろう。
あ、いや、これも今考えている場合じゃないな。
不味いな、思考がとっちらかってるな……
「いや、いい。忘れてくれ……」
うむ、これは駄目だ不味いな。
期待したような話は出来ないだろうな……
「うむ、まあいい。少しだがこの世界の知見を深めることは出来た。今回はここいらで、次に期待するとしよう(バザーッ!!)」
俺は取り敢えず、それっぽい言葉を吐いてはローブをはためかせギルドを後にしたのだった。
これが今の俺に出来る精一杯。
精一杯の誤魔化し。
ふふ、恥ずかしい事に大失敗でした……




