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磯撫デ  作者: Kalra
7/8

取材ノート:補遺

私は刑事達にあの日の電話のことをすべて話さなかったのですが、実はもうひとつ話さなかったことがあった。


K実は私にクラウドデータの一部を共有していたのだ。

電話口で『それから・・・』と言っていたのは、おそらくこう言いたかったのだろう。


『それから、万が一のために取材ノートを共有しておくから』


そう、K実が私に共有していたのは取材ノートのデータファイルだったのだ。K実は手書きのノートを使っていて、それがメインの取材ノートだったのだが、後で記事にするためにか、内容を抜粋しPCで打って、クラウド上にアップしていたのだ。そして、おそらく、3つ目の話にあった体験から、生命の危険を感じた彼女は緊急事態に備えて私にこのノートを託したのだと思う。


取材ノートは①、②、そして『補遺』に分かれていた。①、②は上述したとおりであり、『補遺』は以下に記載する。このパートに日付は書かれていないが、おそらく7月12日夕刻に作られたものだと思う。


☆☆☆

【補遺】


疑問リスト

1 【磯撫デ】とは何か。人が海に消える怪談に関係するのか?

2 豊漁祭(瀬織目祭)と【磯撫デ】の関連は何か?

3 なぜ豊漁祭は行われなくなったのか?


1については、関連ありと考える。

鈴本氏によれば、I島の怪談も、S町の怪談も双方【磯撫デ】であるということだったからだ。


2については、上記のように当然関係ありだ。文献によれば【磯撫デ】は『海の神』の昔の名であり、豊漁祭でもともと祀られていた神であると考えられる。ただ、どこをどう探しても【磯撫デ】が人を襲うという記述はない。そもそも、豊漁をもたらす神なのだから当然なのだが。


昔は【磯撫デ】≠「怪異」だったのが、今は【磯撫デ】=「怪異」となったのだろうか?


3については、正直不明だ。鈴本氏の話では何かを「間違えた」とのことだが、その「間違い」が修正できないことで祭ができなくなった、ということだろうか?

気になるのは鈴本氏が語っていた「用をなさなくなった」という言葉。これはもしかしたら祭が意味をなさなくなった、ということを指しているのではないだろうか。


祭が用をなさなくなったことが、【磯撫デ】が「怪異」に変わったことと関係がある・・・と考えたとしたら、行き過ぎだろうか?


もうひとつ、今、新たな疑問が出てきた。


4 豊漁祭はどういった祭なのか


郷土史の記述では、豊漁祭は冬の間に海の神様(これはおそらく祭の名からセオリツヒメだろうと思われる)に供物を捧げ、一年の豊漁を願うものと理解できる。山の幸を奉納するのは、海の神にとって山の幸が珍しいからだろうか。


不漁の際は肉を供えるというのは、神を元気づけるという意味らしいが、こういった習俗はあまり聞いたことがない。マヤやアステカの生贄の儀式を連想させる。


今のところの結論は以下の通りだ。

12年前に何らかの理由で祭の儀礼か方法を『間違えて』しまった。

そのために、その後の祭が『意味をなさなくなった』。

結果として、祭はなくなってしまった。

そして、祭がなくなったことで、もともと神であった『磯撫デ』が怪異となった・・・・といったところか?


先程、この考察を夕飯の給仕をしてくれたAさんに話してみたが、きょとんとした顔をしていたところを見ると、あまり響かないらしい。別の考察を考えないと、記事にはならない、かもしれない。


12年前に豊漁祭をやめてからこの漁港の漁獲量が減っていたりしたら面白い記事になるかもしれない。ダメ元で調べてみるか?


☆☆☆


以上が私に送られてきた取材ノートの全てである。

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