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黒猫ぴっかの冒険

作者: あきみらい
掲載日:2025/01/08


黒猫のぴっかは退屈だった。

外は昨日も今日も雪が降っていて鳥の一羽すら飛んでこないし、

おうちの中にある絵本は全部読んじゃった後だったから。

おまけに一緒に住んでる白猫もーふはちっとも起きてこない。


「ねえ、もーふ、遊ぼうよ。追いかけっこしようよ。」

「……。」


お布団に埋もれてるもーふを掘り起こしてみたら、

もーふはごめんねって言って更にお布団の奥に埋もれに行ってしまったのだけど。


「あれ、もーふ、熱いよ!?」


全然起きてこないと思ったら白猫もーふはお熱を出していたみたいだ。


「もーふ、もーふ、大丈夫?」

「……大丈夫だよ、ぴっか。ちょっと寝ていたらきっと良くなるよ。」


お布団の奥からくぐもった声が返ってきた。

うつると良くないからね、離れていてね。

お熱で辛いはずなのに、もーふはぴっかの心配をする。

ぴっかは、さっき退屈だなんて思ってた自分が恥ずかしくなった。

だからいっぱい考えた。

ぴっかはもーふに何をしてあげられるかな。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


いっぱいいいっぱい考えた黒猫ぴっかは決めた。

よし、もーふを元気にする何かを探してこよう!


「熱が出てるんだから、熱を下げられるものがいいのかな。」


ぴっかは窓の外を見る。

お外には冷たい雪がいっぱいだ。

お外で雪玉作ってもーふにあげたら、もーふのお熱は下がるかしら?


「お薬もあったらいいよね。」


お熱を下げるお薬。

前に聞いたことがある。

雪の中咲くお花からとった蜜は何の病気にも効くんだって。


「元気になるにはごはんも食べなきゃ!」


考えてみたら起きてこなかったもーふは今日ごはんを食べてない。

病気の時は普通のごはんはなかなか食べられない。

おじやとかお腹にやさしいごはんを用意しなくちゃね。


「よし、思いついたことを全部やろう!」


ぴっかは毛糸の帽子を被り、赤いマフラーをぐるぐるっと巻いた。

お外は寒いからね。しっかりつけていかないとぴっかも熱が出ちゃう。

それからよく考えて大きな肩掛けカバンにいろんなものを詰め込んだ。

まずは雪玉を入れるビニール袋でしょ。

それからお薬の花の蜜を入れる小さな瓶。

ごはんを作る食材を買うのにお財布。

たくさん歩くかもだからあったかいお茶を水筒に入れてもって行こう。

ハンカチとティッシュに、もしもの時のばんそうこう。

そうそう、こわい何かが出てきたら困るから、戦えるように木の棒ももって行こう。


「もーふ、待っててね。いってきまーす!」


黒猫ぴっかは勇者になった気分でお外へのドアを開けた。

冒険の始まりだ!


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


ドアを開けたらびゅおーーって冷たい風がぴっかを襲った。

ぴっかは思わず首を竦める。


「うわぁ、外はこんなに寒かったのか!」


窓から見てたお外は真っ白でただ白い雪が降ってるだけだったけれど、

実際に出てみたお外はすごくすごく寒い。

のんびりしていたらぴっかが凍っちゃう。


「えーっと、効率よく回らないとな。」


雪は目の前にある。

今、雪玉を作ってビニール袋に詰めてもいいけれども。


「帰ってくる時も雪玉は作れるから後回し!」


こういう時、どこからいこう?って相談できる白猫もーふがいたら心強いけれど、

今日はそのもーふのための冒険だ。

行かなきゃいけないところは、お薬になる蜜のあるお花が咲いているところと、

元気になるごはんを作る食材があるところ。

ごはんはたまごの入ったおじやがいいかな。

あったかいミルクもあったらもっといい。

たまご屋さんと、牛乳屋さんはちょっと遠いけれど場所は分かっている。

お花が咲いているところはちゃんと覚えてない。森に行ってみたら思い出すかも。

まずはちゃんと分かるところから行ってみよう。


「ボクは雪なんかに負けないぞー!」


ぴっかはすらっとした真っ黒なしっぽを立てて、真っ白な雪の中を歩き始めた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


時々風がびゅーって吹く。

雪は大きなかたまりがずっと空から落ちてくる。

雪かきしてもすぐに雪が積もってしまうから、村の皆はあんまり雪かきしてないみたい。

ぴっかも全然やってない。

それでもおうちの前から村の広場まではなんとなく道があった。

どうやらぴっかが知らないうちに白猫もーふが雪かきをしてくれてたみたい。


「もーふ、雪かきしてたからお熱出たのかなぁ。」


こんな寒い中、一人で雪かき。絶対大変だ。

ぴっかは一人で雪かきしているもーふを想像して、ごめんって謝った。

明日からは一緒にやろう。

二人でやったらきっとあっという間に終わるもの。


「ごめんくださーい!」


雪の中いっぱい歩いて村の反対側の牧場まできた。

まずは牛乳屋さん。

こんこんとお店のノックしてぴっかが声をかけると、奥からはーい、って声が返ってきた。


「牛乳を二瓶くださいな!」

「あらまぁ、ぴっかじゃないの。今日はもーふじゃないのね。」


出てきた牛のおばさんがぴっかを見て耳をぱたぱたした。


「え。もーふはそんなによく来るの?」


ぴっかはびっくりして訊いた。


「えぇ、毎日来て、今のぴっかみたいに牛乳を二瓶買っていくのよ。」

「そうなの。知らなかった。」


おうちに空き瓶があるはずだから、次は持ってきてね、と牛のおばさん。

今日は特別に新しい瓶にミルクを入れて渡してくれた。

もーふはいつも使い終わった瓶をちゃんと持ってきているみたいだ。

ぴっかは次の時は瓶をもってくるよ、とおばさんと約束してお金を払った。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


牛乳屋さんの次は、たまご屋さん。

牧場のすぐ隣だけど、牧場は広いからまたちょこっと歩く。

肩掛けカバンの中でさっき買った牛乳が歩くたびにかちゃかちゃいう。


「……これだと瓶割れちゃうかなぁ。」


ぴっかは立ち止まってカバンを開けた。

しっかりキャップをしてくれたからこぼれてないけど、

瓶が割れちゃったらカバンの中が大変なことになっちゃう。


「そうだ!」


マフラーで牛乳瓶を一本ずつ包んだらきっと中でぶつからない。

少し寒いけどそれはいい考えに思えたから、ぴっかは赤いマフラーを外す。

牛乳瓶を一本ずつ丁寧にマフラーで巻いてから大きなカバンにそうっと入れる。


「これで大丈夫。」


試しに少し歩いてみたけれど、今度はかちゃかちゃって音はしない。

黒猫ぴっかは自分のアイデアに満足して、また歩き始めた。

目指すたまご屋さんはもう目の前だ。


「ごめんくださーい!」


黄色い屋根のたまご屋さん。

今は雪がいっぱいで屋根の色が見えないから見落としそうになった。

こんこんとお店のノックしてぴっかが声をかけると、奥からはーい、って声が返ってきた。


「たまごを2こくださいな!」

「あれ?ぴっかだ!今日はもーふじゃないの?」


出てきたニワトリのおじさんがびっくりしてトサカを揺らした。


「え。もーふはそんなによく来るの?」


ぴっかはびっくりして訊いた。


「うん、毎日来てたまごを4こ買っていくよ。」

「そうなの。知らなかった。」


牛乳屋さんと同じようなことをおじさんが言う。


「いつもは4こだけど、今日は2こでいいのかい?」

「あ、それなら4こにしてください!」


ぴっかは慌てて訂正する。

ニワトリのおじさんはうんうんと頷いてたまごを4こ用意してくれた。


「そのままだと割れちゃうよ。たまごケース持ってきた?」

「ううん。……あ、そうだ、これに入れて!」


ぴっかは毛糸の帽子を脱いで、それを差し出す。

ふかふかの帽子は柔らかいからこれならたまごも割れないはずだ。


「まいどありー!」


ぴっかはたまごの入った帽子を丁寧にカバンに入れて、たまご屋さんを後にした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


北風がびゅーって吹いた。

黒猫ぴっかの頭に白い雪が降る。

マフラーも毛糸の帽子もカバンの中だ。

大事にたまごと牛乳瓶を守ってくれてる。


「うー、寒いけど、頑張るぞ!」


ぴっかは寒さに負けないよう、声に出して言った。

ここからは村を出て森へ行かなきゃ。

村の中は優しい動物たちしかいないけれど、森はおばけとかが出るかもしれない。

ぴっかはカバンから木の棒を引っ張り出すと右手に持った。

大事な牛乳やたまごの入ったカバンは左側。

おばけとあったら右側で戦うことにした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


黒猫ぴっかは森を歩いていく。

冬の森は葉が全部落ちてしまった広葉樹か、暗い色の針葉樹ばかりで色が少ない。

森に住まう動物たちは冬眠してるものがほとんどでとても静かだ。

雪はどんどん降り積もっていて、聞こえてくるのは時々木の枝から雪の落ちるどさって音ぐらい。

せいぜいまだお昼ぐらいのはずなのに、雪空だからそんなに明るくない。


「こ、こわくなんかないぞ!」


ぴっかはドキドキしながら歩いていく。

だんだんこわい気持ちが大きくなって、歩く速度が遅くなってきた。

なんでこんなにこわいんだろう。

前に森に来た時は全然こわくなかったのに。


「あ。」


ぴっかは気が付いた。

前の時は白猫もーふと一緒だったんだ。

一緒にお喋りしながらだったから全然こわくなんてなかった。

もーふは物知りで、歩きながら色んな事を教えてくれた。

でも、ぴっかはそんなことより走り回りたくて

もーふの話をあまり聞いてなかった。


「もーふ、どうしてるかなぁ。」


熱がもっと上がって苦しんでないかな。

ちゃんとお部屋で寝てるかな。

ぴっかはだんだん不安になってきた。

早くお花を見つけて蜜をとらなくちゃ。

こわいなんて言ってる場合じゃない。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


武器の木の棒をぎゅーっと握ってぴっかは歩く。

雪がまた強くなった。

びゅーって吹く風も強くなってきた。

結構歩いたのに、お花は見つからない。

ぴっかはちょっと泣きそうだった。

こわいし寒いし、お花も全然咲いていない。

お薬の蜜は諦めて帰っちゃおうか。

多分それでも、もーふは牛乳とたまごだけでありがとうって言ってくれる。


「……うぅぅ、でも……」


大好きなもーふに早く元気になって欲しいから。

ぴっかはまだ諦めたくない。

立ち止まって辺りを見渡す。


……すると、その時。


さく、っと微かな音が後ろの方か聞こえた。

風の音でも枝から雪が落ちる音でもない。

え、何?

ぴっかはびくっと体を揺らす。

肩とか頭に積もっていた雪がしゃららっと落ちた。


さくさくさくさく。

音が段々近づいてくる。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ぴっかは振り返ると目をつぶったまま右手でめちゃくちゃに棒を振り回した。

左手は大事な大事なカバンのベルトをぎゅーと握ってる。

中のたまごと牛乳の瓶が割れちゃったら困るからね。


「わぁぁぁぁっ!?」


ぴっかの声にびっくりして、誰かが悲鳴を上げた。

少し離れたところで、ぽすっと雪に尻もちをついた音がした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


「わぁぁぁぁっ、叩かないでー!」


ぴっかは、その声におそるおそる目を開けた。

すると、なんてことだろう。

雪の中で真っ白な何かが頭を抱えて震えていた。


「お、おばけ?」

「ちがうよー!!」


ぴっかがもう棒を振り回していないのを確認してから、雪の中の何かはそーっと手を退かす。

びっくりして尻もちをついていたのは真っ白なうさぎだった。

長い耳をふるりと揺らしておそるおそるぴっかを見る。


「……そっちこそ、おばけ?」

「ち、ちがうよ!」


うさぎは鼻をぴくぴくとさせながら、じーっとぴっかを見た。


「……そしたら、黒猫ぴっかを見なかった?」


ぴっかはびっくりして目をぱちぱちさせた。


「それ、ボクだよ!」

「え?」

「黒猫ぴっかはボク!」


うさぎはもう一回、じーっと、じーっと、ぴっかを見た。


「真っ白なのに?」

「え?」


ぴっかの体には雪がいっぱい積もってて、いつの間にか白猫ぴっかになってた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


ぴっかはぶるぶるっと体を揺らした。

いつのまにか雪が真っ黒な毛皮を覆ってたからね。

赤いマフラーもオレンジ色の毛糸の帽子もカバンの中に入れちゃってたから、

全身雪まみれで真っ白な雪だるまみたいになっちゃってたんだ。

ぶるぶるしたおかげで、雪は全部落ちて、艶やかな真っ黒な毛皮が出てきた。


「あ、本当に黒猫だった!」


うさぎがその様子を見て目を丸くしている。

すっかり黒猫にもどったぴっかはうさぎのところまで行くと謝りながら手を差し出した。


「棒振り回しちゃってごめんね。おばけかと思ったんだ。」

「いいよ。こっちもびっくりさせてごめんね。」


ぴっかの手を借りて立ち上がったうさぎも謝った。

そうして、おあいこだね、って二人で笑い合った。


「それで、黒猫ぴっかはボクだけど、どうしたの?」

「白猫もーふから電話で頼まれたんだ。」


うさぎはぽんぽんとおしりについた雪を払ってから言った。

ぴっかはもーふの名前が出てきたことにびっくりした。


「きっと探してるから黒猫ぴっかに冬のお花畑の場所を教えてあげて、って。」


しかもお花畑だって!


「分かりづらいところにあるからね。こっちだよ。」


うさぎがさっそく歩き出したから、ぴっかは慌てて追いかける。

もーふはどうして分かったんだろう。

どうしてウサギにお願いできたんだろう。

色々考えているうちに、ぴっかはなんだかさっきとは違う気持ちでいっぱいで泣きたくなった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


うさぎはぴっかが歩いたところを少し引き返してから、大きな樹のところを曲がった。

ぴっかはその樹に見覚えがあった。

前にもーふと一緒に歩いた時に見た樹だ。


「さぁ、ついたよ!」


うさぎの言葉でぴっかは顔を上げる。


「わぁぁぁぁぁ……」


木々の根本など積もっている雪が少ないところに、小さな花がたくさん咲いていた。

白や青、紫にピンク。

六枚の花弁を持つ小さな色とりどりの花たちが揺れてる。


「蜜の貰い方、知ってる?」


ぴっかはふるふると首を横に振る。

うさぎはそっかーと頷いた。


「蜜を入れる瓶はもってきた?」

「もってきてるよ!」


それじゃあ、ここにおいてね、とうさぎはお花がいっぱい咲いているところを指差した。

ぴっかは言われた通りに肩掛けカバンから瓶を出すと、蓋を開けてそこにおいた。


「そうしたら、お花にお願いするんだ。」


うさぎが瓶の前にしゃがんだから、ぴっかも横で真似をする。


「お花さん、お花さん、蜜を分けて下さいな。

 病気の友達に飲ませてあげたいんだ。」


うさぎがお花にお祈りのポーズでお願いした。


「お花さん、お花さん、蜜を分けて下さいな。

 白猫もーふが寝込んじゃったんだ。

 もーふはいつも優しくて、ボクが知らないうちにいっぱい色んな事をしてくれてたんだよ。

 でも、ボク全然気づいてなくて、そしたらもーふは一人で頑張ってくれてたの。

 きっと、頑張り過ぎてお熱が出ちゃったんだ。

 ボク、これからはもーふのお手伝いいっぱいするよ。

 だから、もーふに元気になるお薬をください。」


ぴっかもお祈りのポーズでお願いをした。

お願いをしているうちに気持ちが溢れてきて、

言い終わる頃にはぽろぽろ涙まで溢れてきた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


「……ぴっか、見てごらん。」


涙が止まらなくてうわんわん泣いてたら、うさぎが囁いた。

ぴっかは両手で目をこすって、薄目を開ける。

するとなんてことだろう。

小さな花たちからきらきら光の粒があふれてきていたんだ。

その光の粒がだんだんに集まって、ぴっかの置いた瓶にゆっくり入っていく。

ぴっかはびっくりしてその様子を見守った。


やがて光の粒は全部瓶に収まって。

ぴっかが瓶を持ち上げると、光の粒はとろりとした優しい金色の蜜になっていた。


「それがお薬になる花の蜜だよ。」


よかったね、と、うさぎが言った。

うん、と、ぴっかは頷いた。

ぴっかは、お花から貰った蜜の瓶の蓋を閉めると、大事に大事にカバンにしまった。


「お花さんたちありがとう。」


どういたしまして、って返事をするように花たちが小さく揺れた。

白猫もーふによろしくね、って言われたような気がした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


村の入り口まで送ってくれたうさぎに、ぴっかはたくさんたくさんお礼を言った。

おばけと間違えて棒を振り回しちゃったことも何度も謝った。

うさぎは、いいよ、蜜を貰えてよかったねって笑って言って帰って行った。


黒猫ぴっかは大事なものがいっぱい入ったカバンをぎゅーと抱いて走り出す。

気が付いたらもうお日様が傾いてる。

冬の昼間は短いからね。早く帰らなきゃ暗くなっちゃう。

それになにより、早く白猫もーふにお花の蜜や、牛乳、たまごを届けたかった。


……え、木の棒はどうしたんだって?

実はうさぎと会ったところに置いてきちゃったんだけど、ぴっかはまだ気が付いてないみたいだ。


にわとりのたまご屋さんの横を通り、

牛さんの牛乳屋さんの前を横切って、

ぴっかは走っていく。

村の広場を抜けて、雪かきの後に雪が積もっちゃった道を辿って。


煙突から湯気の出てる赤い屋根の家が見えてきて、

ぴっかはもっともっと早く走った。


カーテンの空いた窓から白猫もーふが心配そうに外を見ている。

ぴっかの姿を見つけたもーふが窓から引っ込んで……


「ぴっか、おかえり!」


ぱたんとおうちのドアが開いた。

両手を広げてくれたもーふの胸に、ぴっかは飛び込んだ。


「ただいま、もーふ!」


ぴっかは白猫もーふのふかふかの毛皮に埋もれながら、うわんわん泣いた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


あったかいおうちの中に入ると、

また白猫になりかけてたぴっかはもーふに濡れた体をタオルで拭いて貰った。

拭いて貰いながらぴっかは、半べそのままたくさん話をした。


牛乳屋さんでもーふは空になってる瓶を持ってきてたって言われたこと。

たまご屋さんでももーふの話を聞いたこと。

森に行ったら道が分からなかったこと。

一人で歩いてると心細くてとてもこわかったこと。

おばけと間違えてうさぎを棒で叩きそうなっちゃったこと。

そのうさぎにお花のところまで連れてってもらったこと。

蜜を貰ってお礼をいったらお花が返事をしてくれたこと。


ひっくひっくとしゃくり上げながらだから、いっぱいいっぱい時間がかかったけどもーふはうんうんって頷きながら急かさず最後まで聞いてくれた。


「もーふはもうお熱大丈夫なの?」

「うん、寝かしておいてもらったからね。」


心配をかけてごめんね、ありがとう、って、もーふが笑った。

ぴっかも、ごめんねとありがとうって何度も何度も言って、もーふをぎゅーっと抱きしめた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


白猫もーふのお熱が下がっちゃったら、

ぴっかが持って帰ってきたものは無駄になっちゃったのか、って?

まさか!

そんなもったいないことは起きませんでした。


もーふは泣き止んだぴっかの前でボウルに卵を割って、

そこに瓶から牛乳を注ぎ、花の蜜を足してぐるぐると混ぜると、

もーふとぴっかのマグカップに注ぎました。

半分まで水を入れたお鍋を火にかけてお湯を沸かすと、

そのマグカップを中にそーっとおいて、しばらく弱火でくつくつと。

火を止めてからも同じ時間お鍋から出さずに置いておいて……


「そろそろいいかな。ぴっか、ボウルに雪を持ってきて。」


待ち切れない様子のぴっかに、もーふはお願いしました。

ぴっかが急いでもってきた雪の中にマグカップを入れると、

カップの中身はゆっくり冷えて美味しいプリンの出来上がりです。


「ぴっかのおかげで、美味しいプリンが出来たよ。ありがとう。」


もーふがお礼を言いました。


「もーふが作り方を知ってたからだよ。美味しそう。ありがとう!」


ぴっかもお礼を言いました。

そうして白猫もーふと黒猫ぴっかは一緒に美味しくプリンを食べました。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


黒猫ぴっかはもう退屈することはありませんでした。

だって気が付いたんですもの。

退屈してたのは、自分のことやりたいことしかやってなかったから。

今は白猫もーふに教わりながらたくさんやることがあります。

雪かきにお買い物、お料理もお掃除も。

今までもーふが一人でやってたことをぴっかも一緒にやるようになりました。


そんな中でぴっかが一個だけ覚えなかったことがあります。

それは、プリンの作り方。


「ねぇ、もーふ、またプリン作って!」

「ぴっかは、プリンが好きだねぇ。」

「プリンが好きなんじゃなくて、もーふが作ったプリンが好きなんだよ。」


特別な味だからね。








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― 新着の感想 ―
ほっこりしました。 ぴっか、頑張ったね! もーふ、気づいてもらえてよかったね。 2匹ならきっともっと仲良く暮らしていけますね。
2025/05/10 14:14 退会済み
管理
優しい気持ちに溢れた優しい物語ですね。 リアクションはスマイルマークを入れましたが、実はちょっぴり泣かされました。(ナイショですよ) ビニール袋や電話もちゃんとあるけれど、魔法のお花が咲いて動物たち…
いろんな経験をして少し成長したのですね。優しくて友達思いのその気持ちをずっと大事にしていてほしいです╰(*´︶`*)╯♡
2025/02/06 08:52 退会済み
管理
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