七色の声とリリィ

第3話 精密ドライバー

リリィは、嬉しそうに笑みを浮かべながら、

精密ドライバーを僕の前に突き出した。

そのドライバーの先には、かすかな、虹色の光が輝いていた。

その光は、まるで、僕を誘導しているかのようだった。

そのドライバーの感触は、妙に懐かしい気がした。

まるで、かつて、誰かと一緒に、このドライバーを使って、

何時間もかけて、小さな機械を組み立てていたような…

そんな感覚が、僕の脳裏をよぎった。

リリィは、突然、少し怯えたような表情を見せた。

「ねえ…さっきの雷、すごく怖かったよ…

まるで、誰かの怒りみたいだった…」

彼女は、小さな声で続けた。

「それに、空間が歪んでるみたいだった…

まるで、この世界が、別の世界とつながろうとしてるみたい…」

リリィの言葉に、僕は戸惑いを感じた。

彼女の言葉には、どこか、不気味な響きがあった。

「まぁいいや。じゃあさ、これ、使って作ってよ！

すっごく楽しいのが作れると思う！」

彼女の言葉は、まるで、僕の心に直接語りかけているようだった。

それは、命令ではなく、誘いでもなく、

ただ、優しい声で、僕を導く、かすかな囁きだった。

その囁きには、どこか、不思議な魔力があった。

僕は、未だに、スカイホッパー（以下、ヘボホッパーと略称）の

生まれ変わり発言に怒りが収まらない。

しかし、リリィの目の輝き、そして、

彼女の手に持たれた精密ドライバーから放たれる虹色の光を見ていると、

不思議な魅力を感じてしまう自分がいた。

彼女の言葉には、どこか、不思議な説得力があり、

そして、懐かしい安心感があった。

そして、彼女の言葉には、どこか、不気味な魅力もあった。

まるで、彼女の言葉が、

僕の深層心理に直接語りかけているかのようだった。

「…何を作れって言うんだ？」

僕は、不機嫌そうに尋ねた。

しかし、その不機嫌さは、怒りというよりも、戸惑いの方が大きかった。

なぜなら、彼女の言葉、そして、その虹色の光に、

僕は、抗うことが出来なかったのだ。

「秘密！すっごく楽しいのが作れると思うんだけど！

…ねえねえ、もしかして、これ、覚えてる？」

リリィは、そう言いながら、ドライバーの先を、

ガレージの隅に散乱している廃材に向けた。

その廃材の山の中には、

僕が幼い頃に作った、無数の機械の破片が混ざっていた。

錆びついた金属片、割れたガラス、そして、焦げた木の破片。

それらは、まるで、僕の過去の失敗と、挫折の象徴のようだった。

その中には、僕の最初の発明品、壊れたラジオもあった。

そのラジオからは、かすかなノイズが聞こえてきた。

それは、まるで、誰かが、僕を呼んでいるかのようだった。

そして、そのノイズは、僕の心臓の鼓動と、奇妙にシンクロしていた。

そのノイズは、まるで、機械の心臓が、

鼓動しているかのような、不思議な音だった。

その瞬間、僕の頭の中に、断片的な記憶が蘇ってきた。

それは、まるで、映画のフィルムが、

コマ送りで再生されているかのようだった。

幼い頃の記憶。

雨の日に、壊れたラジオに話しかけ、

そして、そのラジオから、まるで返事をするかのような、

不思議な音が聞こえてきたこと。

雷雨の日に、大きな声で叫んだら、雷鳴が静まったこと。

その時の、恐怖と、興奮、そして、不思議な達成感。

ある日、兄と一緒に作った、小さな、木製の飛行機。

それは、魔法を使わずに、空を飛ぶことを夢見て作った飛行機だった。

その飛行機は、すぐに壊れてしまったが、

僕と兄は、その飛行機を、何度も何度も修理し、

そして、一緒に空を飛ぶことを夢見ていた。

その飛行機の設計図は、驚くほど複雑で、精密だった。

設計図は、まるで、僕の脳裏に焼き付いているかのようだった。

無数の小さな部品、そして、複雑な機構が、緻密に描かれていた。

その設計図には、僕の兄の名前と、

そして、リリィらしき名前が、かすかに刻まれていた。

まるで、僕の記憶の奥底から、

呼びかけられているようだった。

「…これは…！」

僕は、驚きを隠せないでいた。

リリィが指さしている廃材の中に、

その木製の飛行機の残骸があったのだ。

それは、僕が、長い間、忘れていた、大切な思い出だった。

その飛行機の傍らには、

小さな、金属製の鳥の模型があった。

それは、僕が、一人で作った、最初のロボットだった。

とても小さくて、壊れやすかったが、

僕にとって、とても大切な存在だった。

ロボットには、翼が無く、代わりに、小さなプロペラが付いていた。

まるで、ヘボホッパーの原型のような、不思議な形をしていた。

そのロボットからも、かすかな機械音が聞こえてきた。

まるで、誰かが、僕を呼んでいるかのようだった。

「これ、私たちが作った飛行機でしょ？

…覚えてる？…一緒に空を飛ぼうって約束したよね？

…すっごく楽しい思い出だったよね？」

リリィの言葉は、僕の心を深く揺さぶった。

彼女の言葉は、まるで、僕の心の奥底に眠っていた、

忘れられた記憶を呼び覚ます呪文のようだった。

その記憶と共に、新たな感情が、僕の心に芽生え始めた。

懐かしい温かさ、そして、深い悲しみ、

そして、何よりも、強い責任感だった。

この状況を、どうにかしなければいけないという、

強い使命感も、感じていた。

この新たな力、そして、リリィの正体についても、

理解しなければいけないという、強い使命感も、感じていた。

「…リリィ…お前は…一体…誰だ…？」

僕は、震える声で尋ねた。

そして、その言葉と共に、僕の体中を、激しい電流が走った。

それは、まるで、僕の体の中に眠っていた、

何かの力が、目覚めようとしているかのようだった。

僕の耳元には、機械の微細な歯車が回転する音、

かすかな、人の声が響き渡った。

機械と、そして、リリィが、

僕に語りかけているかのようだった。

その声は、僕の幼い頃の記憶と、奇妙に重なっていた。

遠い過去からの、優しい囁きであり、

同時に、力強い咆哮でもあった。

その声は、僕の心に、不思議な共鳴を引き起こした。

僕の心が、何かに呼びかけられているかのようだった。

その時、ガレージの扉が開き、健太が飛び込んできた。

「悠くん！大丈夫？すごい雷雨だね！心配して…

何か、変な音が聞こえたから…

それに、さっきから、雷鳴が…

まるで、誰かが、怒ってるみたいだった…」

健太は、雨に濡れた体を震わせながら、僕に駆け寄ってきた。

彼の顔には、心配そうな表情と、少し戸惑いの表情が混ざっていた。

彼の視線は、リリィと、

ガレージに散乱している廃材に向けられていた。

彼の視線には、驚きと、そして、少しばかりの恐怖が混じっていた。

そして、彼の視線から、僕は、彼の恐怖と、

そして、彼の僕への深い友情を感じ取った。

彼は、僕のことを、本当に心配してくれているのだ。

「…健太…」

僕は、久しぶりに、健太の温かい笑顔を見た。

その笑顔に、僕は、大きな安堵感を感じた。

リリィは、微笑んで答えた。

「ねえねえ、一緒に作ってくれる？

…すっごく楽しいの作れると思うんだけど…ね？

…あ、君も一緒に！」と、リリィは、健太にも話しかけた。

彼女の言葉には、不思議な魅力と、

何とも言えない、温かさがあった。

その言葉には、何か、特別な力を感じた。

彼女の言葉には、どこか、不気味な魅力もあった。

彼女の言葉が、僕の深層心理に直接語りかけているかのようだった。

彼女は、再び、精密ドライバーを僕の手に握らせ、

廃材の山へと導いた。

その廃材の山の中に、何かを発見した。

それは、小さな、金属製の鳥の模型ではなかった。

もっと大きく、もっと複雑で、もっと…不思議な機械だった。

まるで、過去の記憶の断片が、現実の形になったかのようだった。

その機械からは、かすかな、機械音が聞こえてきた。

誰かが、僕を呼んでいるかのようだった。

その機械音は、僕の心臓の鼓動と、奇妙にシンクロしていた。

まるで、リリィの声と、奇妙に重なっていた。

リリィが、その機械を通して、僕に語りかけているかのようだった。

その機械は、リリィ自身の一部であるかのようであり、

何かを訴えているかのようだった。

すると、彼女の体が、妙に輝いているように見えた。

彼女の体から、かすかな電流が走っているかのように見えた。

リリィは、おずおずと続けた。

「ねえ…私、なんだか変な感じがするの…

体が、ぴりぴりして…まるで、電気を帯びてるみたい…」

彼女の言葉に、僕は思わず息を呑んだ。

リリィの体は、確かに、微かに発光していた。

それは、まるで、彼女の体内に、

小さな雷が宿っているかのようだった。

健太も、驚いた表情でリリィを見つめていた。

「悠くん…この子、誰？それに、なんで光ってるの？」

健太の声には、恐怖と好奇心が混ざっていた。

僕は、答えに窮した。

リリィの正体も、この状況も、

自分にもよくわからなかったからだ。

「俺にもわからないんだ…でも、なんか特別なんだ…」

そう言いながら、僕は再びリリィに目を向けた。

リリィは、今度は少し恥ずかしそうに、

そして、どこか期待に満ちた表情で僕を見つめていた。

「ねえ…私の体、触ってみる…？

すっごくゾクゾクするの…きっと面白いよ？」

その言葉に、僕は思わず顔が熱くなるのを感じた。

リリィの提案は、どこか危険で、

そして、妙に魅力的に感じられた。

健太は、驚きの声を上げた。

「え？ちょ、ちょっと待って！それって…」

健太の声には、明らかな動揺が含まれていた。

僕は、戸惑いながらも、

ゆっくりとリリィに手を伸ばした。

その瞬間、僕の指先に、

小さな電流が走るのを感じた。

それは痛みではなく、

むしろ、心地よい刺激だった。

「わっ…なんだこれ…」

僕は思わず声を上げた。

リリィは、くすくすと笑いながら言った。

「ね？すっごく面白いでしょ？

私たち、特別な繋がりがあるんだよ…」

その言葉に、僕は奇妙な感覚に襲われた。

それは、懐かしさと、新鮮さが

同時に押し寄せてくるような感覚だった。

健太は、困惑した表情で二人を見つめていた。

「悠くん…大丈夫？なんか…ヘンだよ？」

健太の声には、明らかな心配が含まれていた。

僕は、リリィから手を離し、

深く息を吐いた。

「ああ…大丈夫だ。ただ、ちょっと…不思議な感じがしただけ」

そう言いながら、僕は再び廃材の山に目を向けた。

そこには、まだ、あの不思議な機械が横たわっていた。

「リリィ…この機械は一体何なんだ？」

リリィは、再び明るい表情を取り戻し、答えた。

「それはね、私たちの夢の続きなんだよ！

昔作ろうとしてた、魔法を使わない飛行機の

もっとすごいバージョン！」

その言葉に、僕の心臓が高鳴るのを感じた。

魔法を使わない飛行機…

それは、僕が長年夢見てきたものだった。

「本当か？でも、どうやって作るんだ？」

リリィは、にっこりと笑って言った。

「それが、秘密なの！でも、きっと作れるよ。

だって、私たち、特別な力を持ってるんだもん！」

その言葑に、僕は再び戸惑いを感じた。

特別な力…それは一体何なのか？

健太は、まだ困惑した様子だったが、

少し興味を示し始めていた。

「飛行機？魔法を使わずに？

それって、本当にできるの？」

リリィは、健太にもにっこりと笑いかけた。

「うん、きっとできるよ！

私たち三人で力を合わせれば！」

その言葉に、僕と健太は顔を見合わせた。

そこには、戸惑いと、期待と、

そして、かすかな興奮が混ざっていた。

僕は、深く息を吐いて言った。

「よし…やってみよう。

でも、リリィ。お前の正体も、この力の正体も、

まだよくわからない。ゆっくり教えてくれ」

リリィは、少し寂しそうな、

でも理解を示す表情で頷いた。

「うん、わかった。ゆっくり教えるね。

でも、まずは、この機械を完成させよう！」

そう言って、リリィは再び精密ドライバーを手に取った。

その瞬間、ガレージ全体が、

かすかに震えるのを感じた。

そして、どこからともなく、

機械の歯車が回る音が聞こえてきた。

それは、まるで、この世界全体が、

何かの機械のようになっているかのような感覚だった。

僕たち三人は、互いに顔を見合わせた。

そこには、恐れと、好奇心と、

そして、何か大きなものが始まろうとしている

予感が混ざっていた。

これから一体何が起こるのか、

誰にもわからない。

でも、僕たちには、それを一緒に見つけ出す

勇気があった。

その瞬間、僕の心の中で、

何かが大きく動き出した気がした。