第1話 サイレンスブルー
西暦2100年、広島。
空は魔法で駆動する飛行車が織りなす光の帯で埋め尽くされ、
ビル群はホログラム広告で七色に彩られる。
人々は魔法スマホを片手に、
魔法で動く自動運転車に乗り、
魔法で生成された栄養満点の食事を口にする。
魔法至上主義社会。
この煌びやかな世界で、僕は、いつも影のように生きてきた。
名前は悠、13歳。
住む場所が無いため、ガチ目の野宿から毎日がキャンプ生活な男。そして、魔法が使えない無属性、魔法適性ゼロの、
歩く空気清浄機! (自虐)
13年間、魔法の才能がないことを呪ってきた。
五歳の誕生日の魔法適性検査。「無属性」と告げられた瞬間、僕の未来は真っ暗になった。
同級生たちは魔法の羽で空を舞い、魔法のボールで遊ぶ。僕はといえば、地面にへばりついて、砂遊び。
屈辱!マジ屈辱!
ガッデム!!しゃーこんにゃろー!!
魔法使いへの劣等感と、彼らへの憧憬が、
僕の心を食い尽くすようになった。
さらに、僕の心には、漠然とした不安と、
奇妙な感覚が常につきまとっていた。
それは、まるで、遠くの宇宙から、
誰かが僕を呼んでいるような、かすかな共鳴だった。
その共鳴は、時に機械の音のように聞こえ、
時に、かすかな人の声のように聞こえた。
それは一体、何なのか?
魔法使いである兄貴2人組、ショウとタケルは容赦ない。
ショウは魔法戦闘の天才、「魔法のイケメン王子」と自称するナルシスト。キモチワルイ奴。
タケルは魔法発明の天才、いつも奇抜な発明で僕を驚かせる(そして、ドン引きさせる)。
2人はいつも僕をからかう。
「おい悠、また空を飛ぶ夢見てんの?
魔法のないヤツが空飛ぶのは無理ゲーだよ!
せいぜい、ダンゴムシレースでも見てな!」と。
ダンゴムシ!
ダンゴムシに例えられるなんて!
僕のプライドを粉々に砕神戸している。
「いや、ダンゴムシだって、意外と速いぞ!」と、僕は心の中で反論する。
しかし、彼らの言葉は、時折、僕の心に直接響いてくるような、
不思議な感覚を引き起こした。
まるで、彼らの言葉が、僕の心に直接届いているかのようだった。
毎朝、叔父からの呪いの言葉も加わる。
「諦めろ、悠。お前には何もない!
せいぜい、庭で大根でも育てて暮らせ!
…肥料は魔法肥料を使うんだぞ!」
大根?!
大根を育てて暮らすなんて、僕の夢はもっとスケールが大きいんだ!
それに、魔法が普及したこの世界では、コンセントなんて存在しない。
電気製品はすべて魔力充電式。
電池なんて、骨董品みたいなものだ。
魔法の普及は、意外なところにも影を落としていた。
魔力充電形式への移行により、
電池は希少価値を高め、
一つ100万円を超える品物になってしまったのだ。
かつては安価だった電池が、今では富裕層しか手が出せない贅沢品。
魔法スマホ一つ持つにも、莫大な費用がかかる。
まさに、魔法格差社会!
魔法が使えない僕にとって、魔法スマホどころか、
普通の電子機器すら高嶺の花。
魔法のない世界で生き残るには、魔法以上の技術を身につけるしかない。
だが、時々、僕の頭の中に、
見覚えのない複雑な機械の構造図のようなものが、
断片的に浮かんでくる。
それは、まるで、遠い記憶の断片のように、
鮮明に、そして、驚くほど正確だった。
そして、その図面を見るたびに、
耳元でかすかな機械音が聞こえるのだ。
それは、まるで、機械自身が、僕に語りかけているかのようだった。
厳島家の蔵で発見した、埃まみれで虫食いの機械工学の本が、
僕の運命を変えた。
魔法が使えないなら、機械で魔法以上のものを作る!
これが、僕の逆襲の始まりだ!
しかし、その本を手に取った時、
かすかな振動と、静寂を切り裂くような、微かな金属音が聞こえた気がした。
そして、本のページをめくるたびに、
機械の歯車が回り始めるような、不思議な感覚に襲われた。
まず目標設定。
空を飛ぶ!
兄貴たちを見返す!
そして、叔父貴に「大根なんて育てない!俺は、宇宙に行くんだ!」と堂々と宣言する!
(←急にスケールアップ)
更に、魔法に頼らない技術で、世界を驚かせる!
そのためには、まず、資金が必要だ。
100万円の電池を手に入れるには、どうすれば…
さっそく廃材を集め、ガレージを秘密基地に改造。
近所の猫が避けるほどのゴミ屋敷と化しつつある。
「ここは、未来の技術を生み出す聖地!…ゴミの山だけど!」と、
僕はそう言い聞かせる。
最初はネジ一本締めるのも一苦労。
設計図を何度も書き直し、試行錯誤を繰り返す。
失敗ばかりだ。
「くっそー!なんでこんなにうまくいかないんだ!」と叫んだ瞬間、
工具から、かすかな振動が伝わってきた。
1号機:トースト自動焼きロボット「トースタリオン」。
完成したものの、トーストは真っ黒焦げ。もはや炭。
「おいおい、焦げすぎだろ!もっと丁寧に作れよ!」と、僕がロボットにツッコむと、
ロボットは…本当に悲しそうに、小さな音を立てた。
2号機:自動宿題ロボット「宿題くん」。
完成したものの、宿題を解く代わりに落書きしまくり。
「宿題くん、君は芸術家を目指してるのか?」と僕が尋ねると、
ロボットは、落書きを更に増やした。
「まあ、それも才能の一つだな…」と、僕は苦笑する。
3号機:空飛ぶドローン「スカイホッパー」。
完成したものの、飛ぶどころか、地面を這いまわる。
「スカイホッパー、君はヘビになりたいのか?」と、僕が問いかけると、
ドローンは、ヘビのように地面をくねくねと動き出した。
4号機、5号機…と失敗は続く。
ガレージには、廃材と失敗作の山が積まれていく。
「よし!次は絶対に成功させるぞ!」と、僕が意気込むと、
ガレージの隅から、何かが囁きかけるような音が聞こえてきた。
「もっと…精密に…」と。
その囁きが、僕の心に、不思議な共鳴を引き起こした。
その時、激しい雷鳴とともに、停電。
真っ暗なガレージの中で、僕は、何かを感じた。
それは、かすかな、温かい光だった。
光に導かれるように、僕はガレージの奥へ進んでいくと…
…そこにいたのは、雨に濡れ、震える少女だった。