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ピペルパン通りのスキル剥奪屋さん  作者: KAME
ピペルパンと輝石
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花への興味

 スキルの分類にはいくつか種類がある。

 習得、進化、天啓、覚醒といった取得方法で分けるのが一般的だが、それと同じくらいに一般的な分け方が能力の傾向である

 つまり筋力強化や毒無効などの身体系スキル。手先の器用さや道具の扱いが上手くなる技能系スキルと言った具合だ。


 その分類で行くと、緑の手は魔法系スキル――つまり自分自身以外の何かに干渉する超常的なスキルに分けられるだろう。

 身体能力系や技能系と違って、特殊な才ある者にしか発現しない貴重なスキルである。

 そしてシシの、壁を走り空中の小石を踏んで跳ぶあのスキルは、明らかに技能系の枠に収まらない。おそらく魔法系になる。


 すなわち、十分に才はあるということ。






 この数日で分かったことだが、植物は日向において水をやれば育つというわけではないらしい。

 いや、それで育つ物がほとんどだが、観賞用の花などはどうも違うようだ。


「……それはなにをしているんだ?」

「日差しが強い時間は鉢を日陰に移すんだ。なんか日焼けするらしいぞ」

「…………敬語」

「強い日差しに当てすぎると葉が日焼けして枯れてしまうので、場所を移さなければならないのですよ」


 奴らは日の光で育つのではないのか。


「こっちのは乾きに弱いので根っこだけじゃなくて葉や茎も濡らさないといけません。日に数回は全体を濡らすように水をあげます。ただしその際、あまり強く水をかけないように」


 そんな植物が自然界で生きていけるのか。


「この花は逆に湿気に弱いので土が乾いた状態に保った方がいいですね。水やりは二日に一回のほんの少しだけで、雨の日は屋内に入れておくのがいいでしょう」


 雨が降ると枯れる植物ってどうなんだ。


「花屋のエレナ殿は簡単な植物ばかりだと言っていなかったか?」

「別に簡単だろ? 難しくはねーよ」


 はぁ? という顔をして敬語がとれるシシ。

 ……それはまあ、鉢を移動させたり、水のやり方に気をつけたりしているだけだから、やっていること自体は難しくはないかもしれないが。

 けれど育てるのが簡単な植物というのは、水を数日やり忘れたとしても問題ない、みたいなものではないのか。


「中には温度がどーだの、土の質がどーだの、周りに毒を振りまいて他の植物を枯らすだのとよく分からんのもあるみたいだからな。そんな小難しいのよりはマシだろ」


 シシにとっては毎日の水やりも細かな手入れも苦ではないらしい。購入した植物についてのメモ書きもまったく見ていないので、世話の仕方はすでに暗記したのだろう。今では何も言わなくても植物の様子を見て回っているようだ。

 なんとも優秀だ。

 ――だから、違和感があった。


「シシ」

「なんだ? ……なんですか、ロアお兄様」

「子供はもう少し遊びたがるものではないのか?」

「誰が任せた仕事だと思ってる?」


 まあ私なのだが。


「引きこもってないでもっと近所のガキと遊べってか? ゴメンだね。路地裏の水たまりも啜ったことのない幸せそうな子供なんて、一緒にいたら殴りたくなりそうだ」

「戦災孤児とは難しいものだな。ちなみに私は路地裏ではないが、水たまりは啜ったことがあるぞ。士官学校の訓練の途中でな」

「ハハッ、じゃあお前は殴らないでおいてやるよ」


 懐かしいな、炎天下で物資なしの三日間行軍訓練。

 緑の手が上手く発現しなかったらシシも軍学校に放り込むことになるから、同じような訓練をすることになるだろう。すでにサバイバルの経験があるのなら頼もしい限りだ。


「だが君は存外に……思っていたよりも……期待した以上にずっとしっかりやっているからな。せっかくだ、玩具くらいならやるぞ。なにか欲しいものはあるか?」

「ハハハ、まるで最初は大して期待していなかったみたいな言い方ですねロアお兄様。じゃあ銃撃たせてくれよ。軍人なんだし持ってんだろ?」

「それはダメだな。諦めろ」


 まったく、銃など子供に撃たせられるわけがないだろうに。せめてもう少し大人になってから射撃訓練場で撃て。

 というか、シシはスリだったな。つまり盗人だ。屋根裏部屋に隠してある装備が見付からないよう気をつけた方がいいか。


「ちぇ、ケチめ。じゃあ新しい花買ってくれよ」


 ほう?


「花に興味が出てきたか?」

「あのな、気づかないとでも思ってたなら舐めすぎだぞ。最初に庭を華やかにしたいー、とか言ってたけど嘘だろ? お前まったく花に興味ないじゃねえか」


 ……さすがスリだ。人間観察の目が鋭い。


「つーか、大抵のことに興味がない。いいや大雑把すぎるんだな。だから細かいことは目に入らず素通りする感じ。さっきの花の蕾だってけっこう目立つのに気づいてなかったしな。必要なことはスゲぇこだわるけど、それ以外には全然頓着しないタイプだ」

「そういう性質は多少自覚がある。悔しいことにだが」

「そんな奴が、庭を華やかにしたいなんてホントに思ってるわけねーんだよな。どうせ花の世話も必要だからやらせてるんだろ。たぶんいつかお相手する予定のジョウリュウカイキュウってのが花好きなんじゃねーの?」


 たしかに舐めていたな。そうか、そこまで読んでくるか。

 兄上は花好きというか薬草好きで、どちらかと言えば見目の美しさより効能の方に興味がある人物なのだが、植物を育てることには変わりないし同じことだろう。


「その通り、降参だ。まあやる気があるのは良いことだしな。玩具がいらないのなら、新しい花を買おう」

「お、マジか。じゃあ新しく買う花は選ばせてくれよな。やっぱこんな適当に揃えたラインナップじゃ面白くねぇんだよ」


 言われてるぞマルク。……もっとも、私が揃えたとしてもそう変わらないラインナップになっていたと思うが。


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― 新着の感想 ―
エレナ殿もついているし、マルクさんは適当に揃えるイメージはないけれど、ロアお兄様お仕事に集中しきれていないような…… まだなんか抱え込んでるのかな? やらかしの空気を感じます。
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